「でも…留守の間、何か変わったことはなかった?」
あらためて王子は、エラに向かって聞く。
そう言われてもエラは、ここへ来たばかりなので、今一つ状況がわからない。
「なにって…ヤギがここへ来たことと、
魔法使いのおばあさんが、来たことくらい?」
困った顔で答える。
まさか魔法使いが、自分の継母をヤギに変えました…
などとは、とても言えない。
(もっともまま母が、なぜここに来たのか、
さらにまま母の悪だくみを、エラは知らないのだ…)
王子はそれを、なんと受け取ったのか…
「そう」とうなづくと、
「まぁ、何事もなくて、よかった」と微笑む。
(えっ?あの女の子がいなくなったことと、
その代わりに、私がここにいること…
この人は、何にも思わないの?)
エラは不思議に思う。
王子は、育ちがいいせいなのか、人を疑うということはしないのだろうか?
(もっとも自分は、何もしていないのだけれど…)
でもなぜ、まま母がそこにいたのか、気になるエラだ。
「じゃあさぁ…その女の子、あの子の代わりにいるの?」
王子よりも一足遅れて、大臣の息子も別荘に戻って来た。
そろそろ彼も、結婚しろ…と、親である大臣にせっつかれているので、
王子の気持ちはよくわかるのだ。
(王子とは、乳兄弟なのだ)
「んまぁ、そうだなぁ」
うなづく王子に、彼は呆れた顔になる。
「そんなのさぁ、怪しいじゃないか」とズバリと言うと、
「やっぱり王子は、お人良しだなぁ」と笑う。
「そうかぁ」と少し苦笑いを浮かべながら、
「で、その子…可愛いのか?」
ヘラリと笑って、王子の顔をのぞき見る。
「美人?いい女か?タイプなのか?」と聞くと
「まぁ、そうかなぁ」
照れたように言う王子を見て、
「やったな」と言うと、おもわずブイサインをした。