王子の予想外のリアクションに、女中頭のマーサが、不満そうにしている。
「キミ!彼女に部屋を、用意してあげてくれ」
さも当然という顔をして、王子はいともアッサリと命じた。
「えっ?でも この女…最近はやりの空き巣ねらいのドロボーか、
先ほどの賊の仲間かもしれませんよ?」
先日継母の雇った男のことを、言っているようだ。
疑わしそうな眼を、エラに向ける…
(それは どうだろう?)
エラはそう思うけれど…
「何を言ってるんだ?このレディーに!」
さすがのプリンスチャーミングと言われるだけあって、王子はとても紳士的に、
エラに手を差し出す。
「このお嬢さんが、そんなこと…するわけないだろ?
お客様として、丁重にもてなしなさい」
マーサの顔色に、動揺することなく、キッパリと言う。
「それから」と思い出したように付け足すと、
「それから、あの姫のことも、もっとよく…探すように!」
使用人たちの顔を見て、ピシリと言った。
叱られたように、マーサは首をすくめると、
「この後、どうされます?」
それでもまだ、何か言いたげに、マーサは上目遣いに王子を見つめる。
「今日はもう、狩りも遠乗りも、すべて中止にするよ!
それからまた…お客さんが来ると思うから、よろしく頼むよ」
まったく頓着することなく、王子は言い渡した。
さすがに若いとはいえ、一国の王子…
厳かに言い渡すと、女中頭のマーサも顔色を変え、これ以上は言い返さない。
「あら、そうなんですか?
準備が何もしてないのですが…」
急にマーサも、少しあわてているようだ。
「悪いけど、頼むよ!
お客さんといっても、肩のこる相手じゃないから、適当にしてくれてかまわないよ」
そう言うと、ちょっとまだ不満そうではあったけれど、
「かしこまりました」と言うと、下働きのミキをうながして、部屋を出て行った。