「あの人が、例の人?」
自転車屋さんの後を歩きながら、颯太がこそっと裕太に聞くと、
「うん」と裕太はうなづいた。
颯太は、前方で鼻歌を歌いながら、ゆうゆうと歩く姿を目で追って、
「ずいぶん…かわった人、みたいだね」
ちょっぴり笑顔でそう言った。
「でも…いい人みたいだ」
付け加えると、裕太と目を合わせる。
すると、自転車屋さんはピタッと立ち止まり、
「君たち、自転車がないと・・・困るんじゃないか?」
思いついたように、自転車屋さんが言う。
「はい…」
今まさに、それをいつ言おうか、と考えていた颯太。
すかさず大きな声で、元気よく答えた。
それで初めて、新顔に気付いたのか、
「君は、だれ…?」
驚いた様に颯太を見る。
今さら、と思いつつも、颯太はニコニコしながら、自転車屋さんの側に近付くと、
「ボク…ユウタの友達です。
会いに来たんです」
シャイな颯太にしては、珍しいくらい人懐っこい表情で、そう答えた。
「そう…ユウタくんの友達?」
颯太の物腰に、好感を抱いたのか、満更でもない様子だ。
すると、気をよくしたのか、颯太はさらに自転車屋さんとの距離を
縮めると、
「ユウタと、この島を探検したいのですが、ボク…自転車がなくて」
しおらしく下を向いてみせる。
「ねえ」
同意を求めるように、裕太の方を振り向いた。
突然お鉢が回ってきた裕太は、少し戸惑うが
「うん、そうです」
とりあえず笑ってうなづいてみせる。
すると「ふーん」
さほど気にしないで、聞き流す様子なので、今回ばかりはちょっと、
ダメなのだろうか…と相手の出方がわからずに、戸惑うのだった。