店の片隅で、柱時計は再び時を刻み始めています。

ようやく女主人は、その時計を見上げると、

「あら?これ、もう動くのね?」

今更のように、驚いた顔になります。

確か、電話で伝えたはずなのですが…

善行はあれ?と思うけれど、あえて口にはしません。

「やっぱり、壊れてたの?」

まっさらな表情で、老女は、善行の方を向きます。

「いいえ」

短く答えると、チラリと時計に目をやると、

(言っていいですよね?)

心の中で、つぶやきます。

「あの手紙を、せんたくのりで固めて…時計の針に固定して、

動かないように細工していました」

善行は、特に何気ない調子で、サラリと言います。さらに、

「ネジも古くなっていて、こちらは交換しました」

わざと事務的に、付け加えると、

「そう…」

女主人も、特に言葉を発せず、ただうなづいています。

それから下を向くと、

「若い頃の思い出だったみたいよ…」

ふいに思い出したように、言いました。

手の中にあった手紙を、クシャリと握りしめ、彼女はむしろ、

微笑んでいるようにさえ、見えました。

「男の人って、ロマンチストなのね。

 いつまでも、昔の想い出を、後生大事に死ぬまで、

 大切にしているのね…」

ハナエさんは、それでもウッスラと微笑みながら、懐かしむようにして、

柱時計を見つめました。

 

 

 

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