見知らぬ男が、にこやかな顔をして、岸本先生に近付いて来た。
先生は、突然のことに、戸惑っていると、男はずかずかと、遠慮会釈なく、
目の前にやってきて、
「アンタ、そこの雑貨屋で、聞き込みしていただろう。あそこの、まっちゃんが、教えて
くれたんだ」と言って、ニコニコしつつ、当然のような顔をして、真向かいに座った。
一人で、考え事をしていた先生は、内心
(しまったぁ~田舎だということを、忘れてた・・・)
と思った。
あちこちで、おばあさんの写真を見せて、聞いて回っていたから・・・
「知らん」と言いつつ、知り合いに速攻、情報がばらまかれたのだろう・・・
(まるで、指名手配犯のようだ)
先生は苦笑いをして、目の前の男の顔を見た。
七夕で会って以来、突然消息を断ってしまった、老女。
あらゆる手を尽くしたにもかかわらず、一向にその手がかりが、
現在にいたるまで、見つからない。
まるで、その存在が、この世から、消えてしまったかのように・・・
誰一人として、彼女のことを、覚えているものは、いなかった。
なのに・・・
岸本先生は、あまりの展開に、一瞬ポカンとして、目の前の男を、見つめた。