怪訝そうに見る、吉川先生を、チラリと、先生は視界にとらえていた。
しかし!
一刻も早く、中を見たい!という誘惑には勝てなかった。

岸本先生は、大股で、職員室をあとにして、とにかく、一人になれる場所を探していた。
誰かに、捕まってもいけない。
それはまるで、大切な人からのラブレター
のように。
そんな自分がおかしくて、おもわず、笑みがこぼれた。
(あとで、吉川先生に、聞かれるかなぁ)
チラリと、そう思った。

 先生は、いつものように、社会科準備室の、ドアをあけると、辺りを見回してから、すばやく、部屋に入っていった。
まだ、始業のチャイムは、なっていない。
廊下の方では、子供のザワメキが、さざなみのように、聞こえていた。

    普段なら、授業の準備に取りかかるところだが、それよりも、手紙の中味が気になっていた。
 そこで、ようやく先生は、封筒をあける手も、もどかしく。あけようとしたけれど、ビッチリと糊付けしていたため、指で大きく引き裂いてしまった。
だが、それを気にすることなく、椅子をひくと、中味を取り出しながら、腰かけた。

封筒の中には、便箋が1枚入っているのみで、先生は少し、拍子抜けした。
なぜなら、おばあさんが、失踪する前に、
『必ず、詳しい顛末は、手紙に書くから…』と、言っていたからだ。


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