おじいちゃんは、ケンタの横顔をチラッと見て、おばあちゃんとのやり取り思い返していました。
この幼い子供を、いかに自分達が慈しんでいるのか。
いかに守りたいと、願っているのか。
何事もなく、すくすくと、育って欲しい、
それだけを願っているのです。
出来ることなら、ここで引き取って育てたい!
だけれど、ケンタは、今もこうして、母の帰りを、待ち焦がれている…
かわいい孫を見つめながら、どうやったら
みんながもっと幸せになれるのかを、静かに考えていました。

 泡立つ食器を1つ1つ、水で洗い清めると、ケンタに渡します。
すると、嬉しそうに、布巾で拭きながら、
「これは、どこに置いたらいいの?」
「これは?」と、イチイチ聞いてきます。
正直、めんどくさい。
一人で片付けた方が、早いに決まっているけれど。
ケンタとこうして過ごす時間が、あまりにも愛おしくて、つい、
「それはね、テーブルに置いといて。
あれは、あっちの箸立てに、しまってね」
などと、ケンタに指図しつつ、2人で
流し台に並んで立ちました。

先ほどまでの不安が、泡と一緒に、
水で流されてく…
そんな気持ちになるのでした。
「あとで、一緒に、風呂に入ろうな」
と、声をかけると、
「うん」と、元気よく答えるケンタ。
「あ、そうだ!」
ケンタは、ポケットに手を入れて、
「おじいちゃん、お兄ちゃんから、魔法のカード、もらったの!」
と、クシャクシャになった、紙切れを
見せました。
「なんだい、それ?」
おじいちゃんは、孫の手の中で、クシャクシャになったそれを、チラッと見ましたが、マダ、手は泡だらけです。
「それに、お兄ちゃんって、だれ?」
と聞きつつも、そういえば、小学生の男の子に、助けられたことを、おばあちゃんから聞いていたと、思い出しました。
「それは、あとで、一緒に見よう」
おじいちゃんが言うと、ケンタは、
「うん」と言い、
「ボク、字が読めないんだ〜」
と言いました。


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