「岸本先生は、小林裕太くん、山本颯太くんを、どうしたいんですか?」
 例の女教師が、わめいている。
 岸本先生は、耳をふさいで、職員室から逃げ出そうとしていた。

 そうはさせじと、岡本先生は、小柄な体で、回り込む。岸本先生の目の前には、
岡本先生の白い肌が、見えていた。
中年の、崩れかけた体は、醜悪でしかなく、思わず、目を背ける。
すると、岡本先生は、グイッと体を付き出して、行く手を阻んだ。
「先生のしてることは、ただの甘やかしです。先生は、ただ、2人を子分にして、
威張りたいだけなんでしょ?」
「はぁ?」
 思わず、声が出た。
こともあろうに、なんという、下衆の勘ぐりであろう。
「先生は、ヤキモチ焼いてんですか?」
 ニャニャしつつ、岸本先生は、精一杯の皮肉を込めて言った。
「それとも、仲間に入れて欲しいのかな?
僕はただ、2人の部活の顧問として、学外指導してるだけです」
(なんて、名目上は、そうなんだよね)
そう、心の中で、つぶやいた。
 
 案の定、女教師は、目を吊り上げて、怒っている。
(図星か…ヤッパリね!)
「言うにことかいて、なんという、言い草!」
 岸本先生を見上げ、般若のような、おっかない顔をしている。
「先生さ、そんなに、カッカすると、お肌に悪いよ!ホラ!目尻にしわ!」
 悪い癖で、つい、相手のことを、茶化してしまう。
ほら!やはり、目の下に、手をやった!
「先生、真面目にしてください。仮にも、子供を指導する立場の人間は、そういった、不真面目な発言は、慎んでもらわないと!」
 肩の凝りそうな、発言だ。
 こういうのは、苦手。
 やたら、小難しいこと並べて、1丁前の気分になるやつ。
岸本先生は、ため息をついた。
もともと、教師は向いてない、と、自覚してるのだ。
今まで、PTAとの軋轢も、なかったわけてはない。だけど!子供たちには、それくらいが、丁度いい。
裕太も、颯太も、大人の決めた枠組みは、
窮屈なので、ハミ出てしまう子供なのだ。

 岡本先生は、まだ、何かわめいていたが、すっかり興味を失い、岸本先生は
ぼうっと、外を眺めていた。
 刑事達は、どこかへ行ったようだ。
校長か、教頭辺りが、説得してくれたようだ。
 ソロソロ、教室をのぞかないと。
みんなが、また、教室で、ペチャクチャ
さわいでいることだろう。
 ボンヤリしていると、岡本先生がのぞきかけた。「別に大したことは言ってないけどね」
そしたら、ツルッと、言葉が滑っていた。
「先生、生理?更年期?ため込むと。よくないよ!」
 あっ!と思ったときは、もう、口に出ていた。
みるみる、岡本先生の顔は、修羅のかおに。最近、思ったことが、割とすぐに、
よく考えもしないで、口に出てしまう
言わなければ、わからないのにね!

「もう、いいですか?誠実な人は、どれかさ」
めんどくさいなぁ~と思いつつ、
有体なこと、口が裂けても言えやしない。
自分が今日になるまで、
適当に、やり過ごしてきた。
それを面白がる生徒もいて、
結構居心地の良さを、感じたりする。
案外、お山の大将に、なりたかったのか

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