しぶしぶ、家に電話をかけた、裕太と颯太。颯太の場合、両親共に、留守で、虚しく留守番電話が応対していた。
「はい、山本です。ただいま、留守にしております。御用の方は、ご要件を、発信音の後に、お話ください」
 颯太は、慣れたふうに、
「ボク、颯太。今日は、裕太ん家に泊まる。そのまま、出かけるから」
これで、おしまい。
はい、とスマホを差し出す。
それを見ていた、仙人は、
「最近の小学生は、すごいなぁ~携帯を持ち歩いてるのか!世も末じゃの」
裕太と颯太は、顔を見合わせた。
差し出されたものの、裕太は、ちょっと、躊躇した。
だって、あの母さんを納得させるなんて、よっぽどの人でないと、ダメなんだ。
じいちゃん、ばあちゃんでも、言い負かされてしまう。
裕太は、仙人の顔を、チラッと見た。
仙人は、目で合図してきた。
裕太は、眉をひそめた。
仙人は、頭を振った。
はぁ~と、裕太は、ため息をひとつ。
ようやく、受話器を耳に当てた。
ワンコール ツーコール
母さんは、出ない。
(やった、出かけてるかな?)
途端、元気になってきた。
スリコール ……ようやく受話器を持ち上げたようだった。
「もしもし」
受話器の向こうで、母さんの声が、くぐもって聞こえた。
「ぼく…裕太…あの…」
先ほどの元気はどこへやら。
すっかり、シドロモドロで、腰が引けている。
「どちらさん?オレオレ詐欺ですか?」
母さんの声は、怒りを含んで、ひどく冷たい響きを放っていた。
心萎えそうになりながら、裕太もどうにか、話し終えた。
「颯太くんに、迷惑かな?勉強してる?」
母さんも、周りに人がいることが、信じられなくて、随分疑っていたけれど。
颯太の家で、勉強する、という事で、納得してもらった。

 仙人は、その様子を傍目で見ていて、
「なんぎじゃのう」
と、言うだけだった。

 そうして、辺りは暗くなり、仙人が持っていたアルコールランプに、火をつけた。
「これって、学校の?…じゃないよね?」
颯太は、少し、頭をひねった。
なぜなら、彼は、理科係なのだ。
確か、理科室の備品が、1個足りなくなってたような、記憶があるのだが…
仙人は澄まして、目をそらした。
心象的には、《黒》なのだが、颯太は、あえて追求をやめた。
と、いうのも、仙人の『話してないこと』
がなんなのか、とても気になっていたからだ。

2人は、仙人を真ん中にして、アルコールランプを取り囲んだ。
ぼうっと、灯りに照らされて、
三人の顔は、オレンジ色に染まった。
仙人は、二人の顔を見比べ、咳払いをした。
「お湯でも、沸かすか?」
「ここまで来て、話を逸らさないでくださいよ!」
 颯太は、ジレて、声を尖らせた。
 すまんすまん、と、仙人は、頭を掻いた。
「ワシと、お前たちの言う、《おじいさん》は、同郷だったのは、以前話したよな?何かにつけ、ライバル関係だった」
仙人は、静かに話し始め、長い夜の始まりを、思わせるようだった。

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