裕太も、颯太も、仙人の打ち明け話に、声もなく、ただ黙って耳を傾けていた
。あの老人の過去が、ついに暴かれる時が来たのだ、とシミジミ思っていたのだ。
 
 仙人は、二人の顔を見た。
「どうする?もし、嫌になったら、そこで打ち切るよ!」
 むしろ喜んで見えた。
 2人は頭を振り、仙人を、うながした。
「さて、順風満帆に見えた二人。だが、
現実は、中々厳しいものだった。
結婚した早々、転勤話が持ち上がる。
単身赴任した時に、彼は、異変に気付くべきだった。
まず、奥さんと老人との関係は
距離が出来てしまっていた。
その上、奥さんの噂が、漏れ聞こえるようになっていた。
さらに、奥さんが、他の男と、出かける
ところを、たまたま、目にしたのだった。
その時の怒り、哀しみは半端なく、すっかり人がかわったように、なっていった。
老人は、人を信じられなくなった。
身内のことさえ、疑うようになった。
憎み、疑い、否定して、お互いがお互いを傷つけあって。
泥沼のような、争い、いさかい、の中で、
老人は、疲れ切り、疲弊していった。
すべての感情を失い、抜け殻のように、なっていった。
働く意欲を失い、引きこもってしまった。いっそのこと、世捨て人になるか。
そんな時、奥さんに近付いた男がいた。
すべてを知ったとき、彼は、希望も夢も
愛情も、なくしてしまった。

ただ、生きる屍のように、なった彼のことを、人は見捨ててしまった。それは、あまりに、悲しいことではあった。
しかも、その相手とは、あの男だったんだ」
 仙人は、二人のことを、チラリと見た。
2人は、黙り込み、難しい顔をした。
仙人は、そんな二人に好意を持った。
今どき、珍しく、正義感が強いな、と。