どこからともなく、湧いてきた黒い影。まるで、暗闇から、魔物が具現化して、現れたような感じだった。
 キッチンの側の地下室に続くドアから、出てきたようであった。
 颯太はスッカリ怯えてしまい、裕太の背後に隠れた。裕太も、ホントは肝を冷やしていたが、ここで引き下がっては、男がすたる!じっちやんの名にかけて!
と、訳のわからぬことを、口走り、
腰に手を当て、大きく足を開いて、立ちはだかった。
 
 近づくにつれ、それは、人の形を体してきた。裕太はそれを認めると、思わず、ため息を漏らした。
 黒い影の主は、ハリーポッターに出てくる、ハグリッドのような、大柄の老人だった。だけれど、颯太は、警戒を解く様子は、これっぽっちもなかった。
「こんにちわ!オジサン、ここに住んでるの?」
 裕太は、勇敢にも、老人に声をかけた。
(だって、人間だよ?幽霊じゃないもん。怖くないよ)
 裕太は、心の中で、そう思っていた。
「お前たちは、誰だ」
 低く、力のこもった声が、響いてきた。
 颯太は、またも、縮こまり、裕太のシャツの裾を、グンと、引っ張った。
裕太は、素知らぬ顔を決め込み、またも声を発した。
「僕たちは、この近くの学校に通ってます。怪しいものでは、ありません」
 老人は、スッカリ、姿を現すと、裕太の目と鼻の先まで、近づいて来ていた。
「このうち、今、空き家ですけど、何があったか、知ってますか?」
 颯太は、思わず、裕太を見つめた。
一体、何を企んでるのか、裕太には、理解不能だった。
オジサンは、階段に腰をかけると、2人にも座るよう、勧めた。裕太は、仁王立ちのまま。颯太は、その後ろで、固まったまんまだ。
「わしは、この家に住み着いている。もちろん、何があったか、知ってるけど、特に問題なく暮らしておる。」
 オジサンは、少し、得意気味にして、玄関先で待ちかまえていた。
裕太は、玄関ホールに立ち尽くし、心密かに、次の展開を待ちかまえていた。
そのチャンスは、ある時突然、降って湧いたような、ものだった。
「ワシは、今、ここに住んでおる。ここは、巷に有名な、心霊スポットであるらしい。ここであった、殺人事件の話、聞きたくないか?」
 2人は、少し怯えていますが、やはり好奇心には勝てない様子で、目をランランとさせて、大きくうなづいた。