野田さんは思い切り笑い飛ばそう、とするけれど、先生の鋭いまなざしに、
中途半端にそれを引っ込める。
「それに…おじいさんの言っていたことも、気になるしなぁ」
何気ない調子で言った先生のひと言に、裕太は
「えっ?」と聞き返す。
(それって、何のこと?)
何を言っているのか、裕太にはわからない。
ただ、何となくイヤな予感がする。
「ねぇ、気になるって、何が?」
思い切って聞き返すと、先生はハッと真顔になり、
「いや、別に、大したことじゃあないんだ」
忘れてくれ…
慌ててそう付け加えたのだが、どうも裕太には引っかかる。
「ねぇ、じいちゃんと、どこで話したの?」
そういえば今朝から、まだ一度もじいちゃんには会ってはいない。
何となくそのことが気になって、裕太は先生に尋ねる。
「あぁ~どこだったかなぁ。
この家の近くだった、と思うけど」
そう答えた後、先生はパッと目をそらす。
(きっと、嘘だ…)
反射的に、裕太はそう思う。
だが、それでも素知らぬ顔をして、
「で、じいちゃん…何か言ってた?」
さらに、先生の顔を探るように見る。
「いや、何だか忙しそうだったよ。
ほんの立ち話をして、すぐに別れたから」
素っ気なく、先生は裕太に背を向けた。