第一幕
 

第1場 スイス国境

 ドーフ一家が国境を越えようとしている。夫のヘルマンと息子のフリッツがドイツ軍の兵士に背後より突然撃たれる。スイス軍の国境警備隊がドイツ兵を狙撃するとドイツ兵は去っていく。息子に縋り付いて絶叫するシャルロッテ。
ロッテ「フリッツ!フリッツ!」
国境警備隊「奥さん、危険です早くこちらへ」
ロッテ「でも、夫と息子が」
国境警備隊「我々が運びます」
ロッテ「嫌です。いきません」
国境警備隊泣き叫ぶロッテをひきずるように連れていく。

第二場 病院

30数年後。病床のロッテを娘のアントニアとその夫カール、トニーの弟のヨゼフが見つめている
ロッテ「フリッツ…フリッツ」
トニー「また、フリッツお兄さまを呼んでるわ」
ヨゼフ「フリッツ兄さんはどうしてるんだ。」
フリッツが入ってくる
トニー「フリッツお兄さま」
フリッツ「ママはどんな容体なんだ」
トニー「あまりよくないのよ」
フリッツ「パパは間に合うんだろうか」
トニー「大丈夫、パパはフリッツお兄さまも見つけてくれたもの、大丈夫間に合うはずよ」
 
第三場 ウィーンゲラール家

19世紀大戦直前のウィーン。銀行家ゲラール家の邸宅
姉娘のゾフィのウエディングドレスの仮縫いをしている。メイドのテレーズやギゼラも手伝っている
ロッテ「お姉さまとっても綺麗よ」
リーズ「本当ソフィ素敵」
そこへ小さな弟ハンスとヴィクトールと共に家庭教師の法学生ユリウスがやってくる。ユリウスはひどくくたびれた上着を着ているが気品のある佇まい。
ユリウス「これは、美しい」
ハンス「ゾフィお姉さま綺麗だ」
ヴィクトール「綺麗だ」
ゾフィ「先生私は来月で授業は終わりです」
ユリウス「おめでたいことですから」
リーズ「次はロッテの番よ」
ロッテ「ドレスは早く着たいけれどお嫁にはまだ行きたくないわ」
ゾフィ「ロッテはまだ子供ね」
リーズ「もう社交界デビューしたのに子供じみたことは言っていられないのよ」
ロッテふくれて引っ込んでしまう
リーズ「本当にまだ子供で先生にご挨拶もしないで。さあ、あなたたちはきちんとご挨拶なさい」
ハンス「先生、来週またね。」
ヴィクトール「先生来週もよろしくお願いいたします」
ユリウス「簡単な課題だからお姉さまたちに教えてもらって解いてみるんだよ」
ヨゼフが急いだ様子で入ってくる
ヨゼフ「ああ連絡があったんだ。君の弟が亡くなったと」
ユリウス「ウィリーが!」
ヨゼフ「サナトリウムから電報があった。本当に何と言っていいのか、」
ユリウス「いえ母が肺病で亡くなった時から覚悟はしていました。旦那様が雇ってくださったので大学を辞めずに弟に治療を受けさせることができたのです。感謝いたしております」
ユリウス動揺を隠せない。
リーズ「先生お顔の色が悪いわ」
ヨゼフ「休暇をやるから弟さんのところに早く行ってやりなさい」
ユリウス「ありがとうございます」
ユリウス出ていく
ヨゼフ「何代も続いた由緒ある家柄で学もあるのに運のない青年だ。飲んだくれの父親が財産を食いつぶしたから病気の親と弟を抱えて苦労しただろう。私は若い頃の自分を見ているように感じて彼を雇ったのだ」
リーズ「誠実で良い方ですわ。」
暗転

第4場 ロッテの部屋

リーズがメイドのギゼラとロッテの着替えをしている。
リーズ「今夜の会食には婚約者のヘルマン・フォン・ドーフさんのご家族がご一緒よ」
ロッテ「しおらしくしているから心配しないで、ママ」
リーズ「ギゼラ、あなたはもう下がっていいわ、あとは私がやるから」
ギゼラ「はい、奥様」
ギゼラ出ていく
ロッテ「先生はどのくらいお休みなのかしら」
リーズ「弟さんのご葬儀もすましてくると思うからしばらくは戻ってこないでしょう」
ロッテ「ひとりでおそうしきをするの?」
リーズ「パパがウィーンに運ぶように勧めたんだけれど、肺病の人は難しいらしいのよ」
ロッテ「可哀相な先生」
リーズ「肺病は人にうつる病気だから仕方ないわ。だから先生も弟さんに会うのを我慢していたのよ。最後に会ったのはまどごしだったんですって。お母様は弟さんの看病で肺病がうつって亡くなったのよ。先生までうつっては弟さんの治療ができなくなってしまうもの。パパは根治手術をしてくれるお医者様を探したのだけれどとても危険な手術で弟さんの病状が回復しないとできなかったのよ」
ロッテ「先生は家族がいなくなってしまったのね」
リーズ「そうよ、それに比べてあなたも私も幸せよ」
ロッテ「ママ、私本当に来年結婚しなくてはならないの?」
リーズ「もう婚約したのに何を言っているの」
ロッテ「私、結婚したくない」
リーズ「ママも結婚したくなかったのよ」
ロッテ「ママも?」
リーズ『ママのパパ、あなたのおじいさまが
パパを初めて連れてきたとき
パパはよれよれの古びた外套を着ていて
地味な身なりをしていた
若い娘が好きになるような人じゃなかった
おじいさまは私が見込んだ男だ。貧乏でも人間は中身だ
そう言うのよ
でもパパはやさしくていい人だったからママは幸せになったわ
そのパパが決めた人よきっとしあわせになれる』
ロッテ『そんなものかしら』
リーズ『あなたは子供でまだわからないかもしれないけれど』
ロッテ『子供なのに結婚するなんて変よ』

第5場 ヨゼフの書斎
 
ロッテのみ残る
ヨゼフに話しかける
ロッテ「パパ、私もゾフィみたいに結婚しないといけないの?」
ヨゼフ「なんだい、どうしたんだロッテ、そのために社交界にもデビューしたし、ヘルマンは素晴らしい青年じゃないか」
ロッテ「私結婚したくない。」
ヨゼフ「ヘルマンを嫌いなのかい」
ロッテ「違うわドーフさんはとてもいい人だと思うわ。ママに聞いたの、ママは初めはパパを好きじゃなかたって。」
ヨゼフ「それでママは何て言ったんだ」
ロッテ「おじいさまの決めた相手のパパと結婚してよかったって。でも…それはママに好きな人がいなかったからで、私はドーフさん以外に好きな人がいるのよ」
ヨゼフ「ロッテその相手と思いあっているのかい」
ロッテ「いいえ、私が勝手に思っているだけよ。」
ヨゼフ「おまえが知り合うことのできる年ごろの男ならお父さんの知っている男だな、誰なんだい」
ロッテ「結婚したくないそのことをわかってくれたら話すわ」
ヨゼフ「相手を知らなくてはお父さんもなんとも言えないよ」
ロッテ「シュタイフ先生のことが好きなの」
ヨゼフ「彼は立派な男だ。けれども、先生には恋人がいるかもしれないじゃないか」
ロッテ「そうね」
ヨゼフ「ロッテ、お前の恋心は身近なところにいるハンサムで親切な青年への好意で、恋というほどのものじゃないとお父さんは思うよ。ヘルマンの父上はお父さんの銀行の力を必要としているんだ。お父さんも彼のようによい人を助けてあげたいし、お前を任せるならあんな誠実な人が良いと思ったんだよ。」
ロッテ「だったら、先生も良い人よ」
ヨゼフ「お前が婚約したころは先生は病気の弟さんを抱えてそれどころじゃなかった。先生は確かに立派な人だが家族の病気で財産がない。苦労知らずのお前には裕福な相手のほうがいいと思ったのだよ」
ロッテ「パパわかってほしいの」
ヨゼフ「わかったよ、でもヘルマンのことをもっと知ったらどうだい」
ロッテ「わかったわ」
ロッテ一人残る
『これは恋ではないのかしら
胸が締め付けられそうな思い
顔を見るだけで
声を聴くだけで
切なくなる
好きでたまらない
好きでたまらないの』
 
第6場 墓地
 
ユリウス弟の墓の前でうなだれている
ユリウス『本当に逝ってしまったんだな
ウィリー
冷たくなって今は土の中』
ルードヴィッヒ「ユリウス!」
ユリウス「ルードヴィッヒ、来てくれたのか」
ルードヴィッヒ「お葬式に間に合わなくて申し訳ないよ」
ユリウス「こんな遠いところまで来てくれてありがとう」
ルードヴィッヒ「友達なんだ当り前だろう」
ユリウス「母もここに眠っているウィリーも寂しくはないだろう」
ルードヴィッヒ「気を落とすなよ」
ユリウス「(涙をこらえて)たった一人の肉親だった…正直こたえるよ」
ルードヴィッヒ「おまえはよくやったよ、弟さんはわかっていたさ」
ユリウス「最後に会ったのはサナトリウムの窓越しだった。二階の窓から青白い顔のウィリーが外を眺めていた。僕は庭から声をかけた、それが最後だった。病室には入れてもらえなかったんだ」
ルードヴィッヒ「仕方ない、うつる病気だから」
ユリウス「もっと会いたかった」
ルードヴィッヒ「さあユリウス、ウィーンまでは一緒に戻ろう」
ユリウスうなずく、ルードヴィッヒに肩を抱かれて入る
 
第7場 ヨゼフの執務室
 
ヨゼフ「ユリウス、弟さんのことは残念だった。気を落とさぬように」
ユリウス「ご心配をおかけいたしました。葬儀も埋葬も、すませてまいりました。お心遣い感謝しております」
ヨゼフ「これからのことだが、もう今までのようにあくせく働く必要もあるまい。君の学費ぐらいは負担してもいい。授業のコマ数を減らすか?それとも家庭教師をやめるのでもいい」
ユリウス「いえ、今までこんなにお世話になったのですから、ご恩をお返しせねばと思っております」
ヨゼフ「それなら息子の家庭教師は続けてほしい。」
ユリウス「承知いたしました。では、調べものがあるので図書室をお借りいたします」
第8場 図書室
図書室の椅子に座り弟の形見の懐中時計を見て涙ぐむユリウス
ユリウス「ウィリー…ウィリー…」
ロッテ「先生」
ユリウス「あ、ロッテ」
ロッテ「泣いていらっしゃる」
ユリウス「みっともないところを見られてしまったな」
ロッテ「弟さんのことお寂しいでしょうね」
ユリウス「女々しい男だな」
ロッテ「そんなことありませんよ、たった一人の肉親なんでしょう」
ユリウス「覚悟はしているつもりだった。母が亡くなった時に弟を失うかもしれないと…僕の父は貴族のお坊ちゃん育ちで贅沢癖の抜けないこらえ性のない男だった。自分の親のことを悪く言いたくはないが、母が亡くなった時は父を恨んだよ。ろくなものも食べられないで弟の看病をしていた母、そうなったのは、そもそもは父の借金のせいだ。家を失い、弟が肺病になって看病していた母も肺病にかかってしまった。父はその前の年にアルコール依存症で死んでいた。賭け事と女遊びで財産を食いつぶした父だが父がまっとうな人間だったなら母も死ぬことはなかったと…君のお父様は本当に良くしてくれた。母のことも弟のことも病院に入れてくれて僕の学費も払ってくれた。感謝している…でもウィリーがいなくなるとウィリーは助かるかもしれないと心のどこかで強く信じていた自分に気づいたよ。今はよく遊んでやった頃の元気なウィリーが思い出されるばかりだ」
ロッテ「おかわいそうな先生」
ユリウス「これは、祖父が僕が寄宿舎に入った年にくれた懐中時計なんだ。父に質入れされなかった大切なものだからウィリーがサナトリウムにはいった時に僕だと思ってくれと渡したんだ。今ではウィリーの形見みたいなものだ
ああ、しやべりすぎたね」
ロッテ「いいえいいえ、先生、そんなことはありませんわ」
ユリウス「ありがとう、君に聞いてもらって少し気が楽になったよ」
ロッテ「お話ならいつでも。先生のことをもっと知りたいんです」
ユリウス「ありがとう。」
ロッテ、ユリウスを背後からそっと抱く。
ロッテ『あなたがなみだすると
私も悲しみで胸が痛む
あなたの鼓動と
重なり合う時
心も同じように
気持ち重ねる』
ロッテ、はっとして体を離し出ていく
第9場 ユリウスの家の近くの往来
沢山の人が行き交っている。
『帝国の都
われらがウィーン
麗しの都よ
誰もが恋する
ウィーンっ子は恋をささやく
ウィーンっ子は愛をささやく
誰もが恋する
美しい街
ウィーン』
外出着の、ロッテが、街路樹の間をユリウスの住所が書いてある紙を見ながらうろうろしている。
そこへ一人の男がロッテに声をかける
青年「お嬢さん、何をお探しですか」
ロッテが無視して通り過ぎようとすると、腕をつかまれる
ロッテ「何するの放して」
青年「こっちは話しかけてんだろ」
ロッテ「やめてよ、はなしてよ」
ロッテは転んで髪がバラバラになり顔が汚れる。ユリウスが通りかかって男の手をねじ上げる。
ユリウス「やめろ!何をしている」
青年「こちらのお嬢さんと仲よくしようってんだ邪魔するな」
ユリウス「仲良くするのにこれか?それにお嬢さんじゃない、私の妻だ」
青年「何だよ、身なりがいいからいいとこのお嬢かと思ったのに、小娘みたいな恰好しやがって女房の首に縄でもつけてろ」
青年去っていく
ユリウス「何をやってるんです、往来で未婚の身なりのいい女が一人でうろうろしていると、変なごろつきにつかまるんですよ。汚れてしまったじゃないですか…襲われたんじゃないかってみんなじろじろ見ますよ」
エルンスト「おい、ユリウス」
取り巻きを連れたエルンスト・フォン・ギースが声をかける
ユリウス「ああ、ギースさん」
エルンスト「エルンストでいいよ、同じ寄宿舎にいた仲じゃないか」
ユリウス「急ぎますので失礼します」
ユリウス、ロッテの腕をとって去ろうとする。
エルンスト「待てよ、連れの娘はずいぶんいい身なりをしてるが、何かあったのか?服が汚れている」
ロッテ「転んだのよ」
エルンスト「何だ、よく見たらゲラールのシャルロッテじゃないか、デビューの時舞踏会で会ったよな」
ロッテ「こんにちは、ギースさん」
エルンスト「ここでなにやってるんだ」
ユリウス「今からお宅までお送りするところです」
エルンスト「お前ゲラールの家庭教師やってるんだよな、教え子とできているのか」
ロッテ「失礼な人ね、酔っ払いのくせに」
取り巻き「何だと、このアマ」
エルンスト「よせ、手を出すな、こいつ、見た目と違って腕っぷしが強いんだ、痛い目見るぞ」
とりまき「でも生意気ですよこの女」
エルンスト「ユリウス・フォン・シュタイフは寄宿舎までおやじの借金を取り立てに来たヤクザものを半殺しにした武勇伝で有名さ、みじめな育ちが知れるよな」
ロッテ「あんたこそ、アル中だってウィーン中が知っているわよ」
ユリウス「よさないか、良家の娘のくちのききかたではないです。」
ロッテ「だってくやしいんですもの」
エルンスト「シャルロッテ・フォン・ゲラールの勇ましさに免じて早々に退散するよ、それにユリウスお前にぼこぼこにされたくないからな」
エルンスト、とりまきと去っていく
ユリウス「あの男は学生時代からとりまきと悪たれているので有名なんですよ、一人でいるときにからまれていたらどうするんです」
ロッテ「先生のおうちに行きたかったの」
ユリウス「どうして私の家になんか」
ロッテ「お話したいことがあって」
ユリウス道行く人が汚れているロッテをじろじろ見てひそひそ話しているので
ユリウス「とりあえず私の部屋で顔を綺麗にしましょう。でも本当なら未婚の女性が未婚の男の家に来てはいけません」
ロッテ「勝手な真似をされるからでしょう。そんなの大丈夫、先生はそんなことしないから」
ユリウス「顔と服が汚れているのを綺麗にしたらすぐ帰るのですよ」
『帝国の都
われらがウィーン
麗しの都よ
誰もが恋する
ウィーンっ子は恋をささやく
ウィーンっ子は愛をささやく
誰もが恋する
美しい街
ウィーン』
 
第10場 ユリウスの部屋
 
ロッテ「ここが先生の部屋なのね」
ユリウス「ほら綺麗に顔を拭いて、上着の汚れもよく払ってください」
ロッテ「先生怒っていらっしゃる?」
ユリウス「怒ってはいないけれど驚いています。さあ帰りましょう」
ロッテ「いやよまだ話が済んでいないわ」
ユリウス「どんなお話ですか」
ロッテ「私、結婚したくないの」
ユリウス「何を言い出すのです。貴族の令嬢は社交界に出たら親の決めた相手と結婚するのが普通のことですよ。釣り合いの取れた立派な相手なのになにが気にいらないんです」
ロッテ「私、好きな人がいるの。先生が好きなの」
ユリウス「ロッテ」
ロッテ「パパに言われたの、お前が勝手に思っても先生には恋人がいるかもしれないじゃないかって。迷惑かもしれないって」
ユリウス「私に恋人がいるかは関係ない。あなたには立派な婚約者がいるのですから」
ロッテ「先生のことずっとずっと好きでした。婚約は嫌だったの」
ユリウス「とにかく帰りましょう送っていきますよ。また変なのに絡まれたらいけない。辻馬車を拾いますよ」
ユリウス、ロッテの腕をとって部屋を出る。
 
第11場 ゲラール家
 
リーズ、玄関から入ってきた二人を見て驚く
リーズ「まあ、先生、まあロッテ、一人で外に行ったのね、どうしたの?」
ユリウス「うちの近くの往来でばったり会ったんです」
リーズ「何やっているの、一人で出かけるなんて、危ないじゃないの」
ユリウス「それでは、失礼いたします。」
リーズ「先生、お待ちください。ご迷惑おかけいたしました。うちの馬車で送らせます。」
ユリウス「どうぞおかまいなく」
ユリウス出ていく
リーズ「ロルフ、先生を追いかけてお送りして、ロッテ、あなたの部屋に行きます。来なさい」
リーズはロッテの手を取って部屋に向かう
 
第12場 ロッテの部屋
 
ロッテ「ママ怒っているの?」
リーズ「当り前よ、なんて向こう見ずなの、娘一人で出かけるなんて」
ロッテ「ごめんなさい」
リーズ「私がわからないとでも」
ロッテ「ママ…」
リーズ「ママはパパと結婚して幸せだけれどもパパは苦労したのよ。口さがない社交界の人たちに文無し貴族が成金に入り婿したって言われ続けて。男の人はつらいものよ。社交界はお仕事に大切なものだからパパは我慢したのよ。あなたはシュタイフさんに同じ思いをさせたいの?」
ロッテ「そんな…」
リーズ「それにママは女兄弟だけだったけれど、うちには今男の子が二人いるのよ、跡取りでもないのに入り婿みたいな立場にしたら先生は悪口を言われて大変よ。あなたは世間知らずで世の中を渡っていくすべを知らないわ、ママもあなたと同じ世間知らずでパパを上手く助けてあげられなかった。パパはあなたたちが苦しまないようにドーフさんとの婚約を決めたのよ」
ロッテ「やっぱり、私は子供ね」
リーズ「わかってくれたならいいのよ」
ロッテ一人残る
ロッテ『ママにはとても言えない
なにかあったなら
せきをきって何か起きてしまいそうな思い
とても止められそうにもない
どうしたらいいのかわからない
あの人のまなざし
あの人の声
私をとらえている』
ユリウス『なにかあったなら
せきをきって何か起きてしまいそうな思い
とても止められそうにもない
どうしたらいいのかわからない
彼女のまなざし
彼女の声
私をとらえている』
二人『運命何て信じたことはなかった
何か特別な力に動かされるような
逆らえない何かに』
 
第13場 ゲラール家ホワイエ
 
ロッテ、母と共に盛装。舞踏会に出かける支度。
子供たちを連れたユリウスが出る。
ロッテ「先生…綺麗かしら」
ユリウス少しロッテを見つめて
ユリウス「とても綺麗ですよ」
ロッテ「ありがとう」
ヘルマンが盛装で登場
ヘルマン「お迎えに上がりました。ロッテこれは美しい。プレゼントしたネックレスがよく似合いますよ。これは私の母が祖母から譲られたものなのです。私の花嫁になる方につけてもらえてうれしい」
リーズ「どうりで素晴しいサファイア、あなたも少しは大人っぽく見えてよ」
ロッテ「ママったら」
ヘルマン「行きましょう。ゲラールさんは向こうでお待ちですよ」
ヘルマン、ロッテの腕をとって出ていく
ハンス「またお留守番だ」
ユリウス「夜遅いから仕方ないよ、お姉さまもお母様も奇麗だったね。」
ヴィクトール「つまんないよ」
ユリウス「子供の仮装バルがあるだろう。先生も子供の頃に行ったよおばあさまと家庭教師の先生に連れられて弟と一緒に」
ヴィクトール「行ったことあるよお菓子が沢山あったよ。」
ハンス「籠にいっぱいお菓子入れたよ」
ユリウス「年越しには子供のバルがあるから一緒に行こう」
ハンス「うぁーい」
ヴィクトール「楽しみだ」
ユリウスを残してカーテン閉まる
『これでいいんだ これで
少しの間に花開くように
女らしくなっていく
さらってほしいと問うように
切なく見つめる瞳
いつしか君は忘れるだろう
幼い思いなど
ああでも少女から娘に代わっていく君は
何てきれいなんだ
僕の胸は思いがあふれていく
これでいいのだ
彼女の幸せのため
さらってほしいという思いは
いずれは忘れてしまうだろう』
ロッテ『さらってほしいと思っても
あなたには届かない
私の思いはあなたのためにならないのね
さっき見つめてくれた瞳に
愛を感じたのは私の思い違いかしら
少しでも綺麗と思ってくれたかしら』
二人『別々の場所に別れて行く二人
幸せになってほしい
切ない思い抱えて』