第14場 舞踏会


ヘルマンと踊るロッテ
ヘルマン「本当にお綺麗です」
ロッテ「お世辞は結構ですわ」
ヘルマン「正直なところ父の仕事に必要な相手と結婚せねばならないとわかっていましたが、可愛らしい人のほうが嬉しいのは男の本音です」
ロッテ「私は淑やかでもないし特別美人でもありませんわ」
ヘルマン「あなたのはつらつとした魅力と善良さを好ましいと思っています」
ロッテ「ものは言いようですわね、親には、じゃじゃ馬だと言われています」
エルンスト「これはこれはシャルロッテ・フォン・ゲラール、婚約者様とお出ましかい」
ロッテ「行きましょうヘルマン」
エルンスト「みじめな落ちぶれ貴族とはよろしくやってるかい」
ヘルマン「きみ、私の婚約者に失礼じゃないか」
エルンスト「この女は俺の同級生の落ちぶれ貴族と怪しいんだよ」
ロッテ「いやだわ、お酒臭いわ」
エルンスト「ヤクザな父親を持った先生様はお育ちが知れるところが魅力的ですか?」
エルンスト笑う
ルードヴィッヒ「エルンスト、飲みすぎているなら早く帰れ。」
エルンスト「おやおや育ちの悪いせんせいのおともだちか」
ルードヴィッヒ「大事な友達のことをそんな言われ方をしては許せない」
エルンスト「ユリウスの親父が放蕩者で財産食いつぶしたからあいつがヤクザものとのけんかに慣れたのは本当のことじゃないか」
ロッテ「あなたなんて先生のことを悪く言う資格なんてないわ。お酒の飲み過ぎで親の顔に泥を塗って。早く帰ったらどうなの」
エルンスト「おお怖、そろそろ退散するよ」
エルンスト去っていく
ヘルマン「あなたは勇ましいんですね」
ロッテ「嫌いになりましたか」
ヘルマン「いいえさらに好きになりました。」
ロッテ「ヘルマン、あなたは変わっているわ」
ヘルマン「普通の女性は今のような場合、困惑してもじもじするだけですよね。あなたは正しいことを言っている。周囲に嫉妬して悪態をつく男の言葉に真実を投げた。本当のことを言えるのは心の善良さと強さが必要です。心が強くなければ寛大にもなれないし思いやりも持てない。」
ロッテ「考えたこともありませんでしたわ」
ヘルマン「私は寛大で善良な伴侶を持てるのです。素晴らしいことだ」

 
第15場 ロッテの部屋
 
リーズ「ロッテ、ウェディングドレスの仮縫い、あさってよ、修道院からやっとレースが届いたんですって日取りにぎりぎりよ」
ロッテ「わかったわ、ママ」
リーズ「なんだか興味がなさそうね。列席者はウィーン社交界のお歴々よ、ゾフィの時に負けないくらい豪華なドレスにしなくては。そのためにレースを特注したのよ」
ロッテ「披露宴で着るドレスはママのお古でいいわ」
リーズ「どんでもない、何を言うの」
ロッテ「ヘルマンが下さったサファイアが似合うのは、ママが披露宴で着た青いドレスよ。あれは日本のシルクでしょう」
リーズ「そうだけれど」
ロッテ「花嫁はお古を着ると幸せになるそうよ」
リーズ「そんな三文小説みたいなこと言って」
ロッテ「いいわ、ママの好きにして」
 
第16場 ユリウスの部屋

呼び鈴が鳴る
ユリウス「こんな時間に誰だろう」
ロッテが立っている
ロッテ「(部屋に入りながら)辻馬車できたのよ。先生が往来をうろうろしちゃいけないと言ったから」
ロッテ帽子をとる
ユリウス「すぐ帰りなさい」
ロッテ「いやよ、私は先生に確かめたいことがあったから来たの。」
ユリウス「とにかく帰りなさい(外套をとる)送っていこう」
ロッテ「私はあなたを見ているわ、逃げないで」
ユリウス、ロッテを見る
ロッテ「逃げないで…先生も私と同じように思っていると私は感じるのです」
ロッテ、ユリウスに抱きつく
ロッテ「愛しています」
ユリウス抱きしめかえす
ユリウス「間違いない君の言うとおりだ」
ユリウス、ロッテに激しくくちづけ。
ロッテ「もっと抱きしめてください」
ユリウス「もうはなしはしない」
ユリウス、ロッテを抱き上げ寝台に連れて行く
暗転
朝、ロッテ身支度をして帽子をかぶる手が震える。ベッドで眠るユリウスのほうを見る
ユリウスは起きてロッテを抱き寄せる
ユリウス「放さないといっただろう」
ロッテ「もうお別れよ」
ユリウス「だめだ。行くな。愛しているんだ」
ロッテ「そのお言葉だけで生きていけます。私は家に戻って結婚します」
ユリウス「だめだ、ロッテ」
ロッテ「先生を辛いお立場にはできません。駆け落ち者になんかにできない」
ユリウス「どうしてここにきたんだ、はなれられなくなるのはわかっていたはずだ。」
ロッテ「私はお別れするために来たの」
ユリウス「僕は君の父上に大恩がある。なのにそれを裏切るようなことをしてしまった。正直に話さないわけにはいかないよ。許してくれるとは思わない、でも君とはなれるなんてもうできない」
『愛しあっているのに
どうして別れなければならない
君と離れるのは
心臓をひきちぎられるようだ
できるわけない』
『私もよ
あなたと離れるなんて
愛してもいない人のものになるなんて
死んでしまいたい
でもこれでいいのよ
あなたのため
私はあなたに真実愛された
この一夜の思い出で
生きていきます』
ロッテ、ユリウスにキスをして
ロッテ「さようならジュリー」
ロッテふりきって出ていく。
 
第17場 ゲラール家
 
ロッテ、ウェディングドレスの仮縫い。
ゾフィとリーズは楽しそう。ロッテには笑顔はない
外からハンスとヴィクトールを連れたユリウスが入ってくる。
ハッとするロッテ。ユリウスも切なく目をそらす
ハンス「ロッテお姉さま綺麗」
ヴィクトール「僕は興味ないや。皆ロッテ、ロッテ、ってお姉さまに夢中でつまんない」
リーズ「しようがないわね、男の子だもの」
ユリウス「とてもお綺麗です。お幸せに」
ロッテ、涙ぐむ。
ゾフィ「ロッテ泣いたりしたらいけないわ」
 
第18場 教会
 
ロッテとヘルマンの結婚式
皆の祝福を受ける二人ロッテはうかない顔
遠巻きに見つめるユリウス
リーズ『でもパパはやさしくていい人だったからママは幸せになったわ
そのパパが決めた人よきっとしあわせになれる』
ユリウス『これでいいのだ
彼女の幸せのため
さらってほしいという思いは
いずれは忘れてしまうだろう』
ロッテ『さらってほしいと思っても
あなたには届かない
私の思いはあなたのためにならないのよ
二人『別々の場所に別れて行く二人
幸せになってほしい
切ない思い抱えて』
 
第19場 ドーフ家

執事「旦那様おかえりなさいませ」
ヘルマン「ただいま。」
ロッテ「ヘルマン、」
ヘルマン「こんな遅いのに起きていたのか」
ロッテ「あなたのことが心配で…こう毎日毎日深夜まで仕事ではお体を心配するのは当り前よ。」
ヘルマン「僕は大丈夫だよ。むしろ家庭を顧みていない君に任せきりで済まないと思っている。」
ロッテ「そんなことはいいのよ、あなたの忙しさが必要なことだということは解っています。でも体を壊しては何にもならないわ」
ヘルマン「すまないが本当に予断を許さないんだよ。戦争が始まった。僕たちはすべてを失うかもしれない。僕は経営者だから働いている者たちの身の振り方もかんがえなくてはならない。」
ロッテ「わかりましたわ、でもくれぐれも体を大事になさってね」
ヘルマン「君こそ僕を待ったりしないで早く休みなさい。」
ロッテ「あなたのことを大切に思うから心配しているのよ。」
ヘルマン「それなら僕の忠告も受け入れてくれ僕にとっても君は大切な人だ」
 
第20場 カフェ
 
ユリウス、カフェに入りのテーブルに座る。
ベルタ「もうすぐしまいなんですけれど。あまりいろんなものが残ってなくて」
ユリウス「僕は黒パンとチーズがあればいいんだ。」
ベルタ「今までお仕事だったんでしょう、ちゃんと食べないといけませんよ、おかみさんにソーセージやたまごがあるか聞いてきますよ」
ハンナ「先生、久しぶりじゃありませんか。相変わらず遅いんですね。ベルタ、この人にはゆでたソーセージ出してあげて、学生の頃からきてくださってるのよ」
カインズ「先生、お久しぶりじゃありませんか」
ユリウス「先生はやめてくれよ、」
ハンナ「今は弁護士先生ですもの、ここのところいらっしゃいませんでしたね」
ユリウス「時間がなかったんだ。忙しくてね。」
ハンナ「ちゃんと食べなくちゃいけませんよ、うちのも心配してましたよ、最近姿を見ないって」
ユリウス「あの娘は?」
ハンナ「ああ、あの娘は最近うちに住み込みで雇ったんですよ、ギース商会のお屋敷で奥様つきの女中をしてたんですよ」
ユリウス「あそこは僕の勤め先の取引先だよ」
ハンナ「器量がいいんで奥様が連れ歩くのにいいって。おかげで字も読めるようになったし、そこまではよかったけれど、持参金なしでも嫁にもらってくれるっていう小商いをしている父親くらいの男と親が縁談をまとめてね。嫁に行ったんですよ。亭主は気のいい男なんですが酒乱であの子をよくぶっていました。」
ユリウス「それはひどいな。」
カインズ「あの子はベルタというんですが、ベルタの父親はわしの幼馴染でわしら夫婦は子供がないものでうちのやつもわしもあの子を小さい時から可愛がっていました」
ハンナ「亭主にぶたれると青あざ作って子供を抱いて逃げ込んできましたよ」
カインズ「運のない子でね、まだ若いのにせんだっての流感で亭主も子供もなくしちまったんでさ。寡婦なんです。」
ユリウス「親はどうしているんだい」
ハンナ「あの子の亭主が亡くなったちょっと前にやっぱり流行り病で小さい兄弟たちもみんな死んじまいましたよ。あの子の亭主は酒癖は悪かったけれど嫁に来る代わりにあの子の家族の面倒をよく見たんですよ。あの子もそれを恩に感じて感謝していましたね」
カインズ「まだ18ですよ。それで天涯孤独ですから。縁あって女給をさせていますが、よく働くいい子ですよ」
ユリウス「まだ子供みたいに見えるけれど、可哀相に。僕とおんなじだな。家族を病気で亡くしている」
ハンナ「貧乏人には流感はきついですよ、子供なんてひとたまりもない」
ベルタが、ソーセージとパンを持ってくる
ユリウス「ありがとう」
ベルタ「ちゃんと食べなくちゃダメですよ、風邪ひいちゃいますよ、あたしの家族はそれで死んじまいました…なんであたしだけが生き残ったんだろ、あ、ごめんなさい、ごはんがまずくなるよね」
ユリウス「かまわないよ、僕の家族もみな病気で死んでしまったんだ。僕も君と同じ一人だよ」
ベルタ「さみしいですか?」
ユリウス「仕事で忙しくしていれば忘れていられる…でもふと一人になった時に母や弟のことを思い出すよ」
ベルタ「あたしも坊やのことを思い出します。まだ二つでかわいい盛りでしたから、滋養のあるものをと医者に言われてミルクを飲ませたけれど吐いてしまって病気になる前に飲まなきゃ意味ないんですよ、先生も元気な今のうちにちゃんと食べなくちゃいけませんよ」
ユリウス「ありがとう。心配してくれて。今は家族もいないし、ここのおかみさんぐらいしか僕を心配してくれる人もいない」
ベルタ「あたしも心配してさしあげますよ。先生の健康を毎日お祈りしますね」
暗転
 
第21場 カフェ
 
ベルタ「先生今日も遅いですね」
ユリウス「君の仕事を遅くしてすまないね」
ベルタ「いいんですよ、親兄弟もなくてひとりもんですし」
ユリウス「僕も一人だからね」
ベルタ「先生の健康を毎日朝ごはんの時にお祈りしてますよ」
ユリウス「ありがとう」
ベルタ「先生はお酒を飲まないんですね」
ユリウス「食事の時に少し飲むくらいさ。酒をうんと飲む人間は嫌いなんだ」
ベルタ「男の人ってみんな飲むものだと思っていました。」
ユリウス「それは亡くなった御亭主のことかい」
ベルタ「あたしの父親も金もないのに飲む人でしたし、働いていたギース商会の坊ちゃまも沢山飲む人でした。奥様は坊っちゃまとあたしを会わせないようにきつく見張ってました。坊ちゃまは酔っぱらうと女中に手を出して今まで大変だったらしくて。」
ユリウス「酒飲みの典型だな」
ベルタ「持参金がなくてもいいと言ってくれた亭主のところに嫁に行けと親に言われて嫁に行きました。亭主は気のいい人でした。私の家族の面倒もよく見てくれて、でも…あっけなく死んでしまいました。あたしは学もないしここで雇ってもらえてよかった。」
ユリウス「君はえらいな。ご亭主は酒を飲んでは君をぶったというじゃないか、それでもいいひとだというのかい」
ベルタ「お酒が悪いんですよ。父親ぐらいの年だったけれど気のいい人で嫁に行った時の約束通り私の実家の面倒を見てくれました。ギースのお屋敷のお給金は安かったから助かりました」
ユリウス「ギース商会は儲かっているはずだぞ。そんなに給料が安かったのか」
ベルタ「住み込みでご飯も食べられるし、食い扶持が減りますから。ギースのお屋敷では奥様つきの女中だったんですけれど、私は何もできなかったので女中頭からうんと厳しくしこまれました。奥様はこてが嫌いでピンでカールを作らなくてはならなくて、女中頭に何度も練習させられました。お仕着せを着て奥様にくっついて買い物やお茶に行くんです。読み書きも読めるようにはなったんですけれど書く時はつづりがわからないんです。」
ユリウス「僕が教えてあげよう。」
ベルタ「本当?」
ユリウス「僕からおかみさんに話してあげるよ。読み書きができるようになればいろんなことに役に立つよ」
ベルタ嬉しそう。
ユリウス「ハンナ!ハンナ!」
ハンナ「何でございますか大きな声で」
ユリウス「ベルタの仕事が終わった後でいいんだが、僕が読み書きを教えてやりたいんだけれど」
ハンナ「そりゃ仕事のない時なら構いやしませんけれど、先生のご迷惑になりゃしませんか」
ユリウス「とんでもない僕がそうしたいんだ。彼女は可愛い。僕の教えていた生徒を思い出す」
 
第22場ベルタの屋根裏部屋。
 
ユリウス「そう、それでいいんだ、君は物覚えがいい。たまたま学校に行けなかっただけで、そのうちに手紙も書けるようになるし本も読めるよ」
ベルタ「本当?」
ユリウス「ああ」
ベルタ「先生みたいな偉い人があたしみたいな貧乏人の寡婦に親切にしてくださるなんて」
ユリウス、ベルタにキス。
ユリウス「君は可愛い」
ベルタ「恥ずかしい、こんなときにどうしていいのか、知らないんです。子供も産んだのに」
ユリウス「僕も知らない。いやじゃなかった?」
ベルタ部屋を出て行ってしまう
ベルタ『これが恋というものなのかしら
貧しさに追われて恋なんて考えることもなかった
でも、可愛いと言われて嬉しい
好きになってもかなわない人
住む世界が違う人』
ユリウス『これは恋なんだろうか
忙殺されることで
苦しさから逃れていた
貧しい身なり荒れた手をしている
それに隠された心の優しさ
癒される気がする』
二人『優しさに包まれる心地よさ』
暗転
 
第23場カフェ
 
ユリウス「繁盛しているね、」
客「ここのおやじがつくったソーセージは最高だからな」
客「ビールがうまい」
カインズ「先生今日は早いんですね」
ハンナ「先生、ちょっとよろしいですか、ベルタ、台所で鍋を見ていておくれ」
ユリウス「なんだい」
ハンナ「先生、先生もお気づきでしょう。ベルタの気持ちは」
ユリウス「僕もあの子が好きだよ」
ハンナ「先生、先生みたいな立派な人の奥様にはベルタのような学のない寡婦はなれないことは私もあの子も解っています」
ユリウス「考えたこともなかった」
ハンナ「わかっておりますので、どうかやさしくしてやってください。市場に出かけた時、あの子はいつも重い野菜をもってくれるんです。何か買ってやるよと言ったらいつもはいらないというのですが、今朝は髪を結ぶリボンが欲しいというんです。女らしくしたいんですよ、わかってやってください」
ユリウス「ほめてやればいいのかな」
ハンナ「かわいいといってやってください」
ベルタが髪にリボンをつけている
客1「ベルタ最近綺麗になったじゃないか」
ベルタ「ありがとう」
客2「ベルタ、男でもできたのか」
ベルタ「いやだわ、そんなことない、からかわないで」
ユリウス「ベルタ、とても似合うよ」
ベルタ「嬉しいわ」
ユリウス「ベルタ、結婚しよう」
皆が驚いてはやし立てる
ベルタ「あたしみたいな学のない女に先生の奥様何て務まらないわ」
ユリウス「君は馬鹿じゃないたまたま学校に行かなかっただけだ。身寄りのない僕と同じだよ」
ベルタ「先生」
ユリウス「返事は?」
ハンナ「返事も何も先生、正気なんですか?」
ユリウス「無論正気だ」
ハンナ「この子が嫌なわけがないでしょう」
ベルタ、ユリウスに抱きつく。
 
第24場 結婚式
 
ベルタにブーケを手渡すユリウス。そこから1輪ユリウスの胸に返すベルタ
地味な木綿の婚礼衣装のベルタ
ユリウス『これからの人生を
共に二人歩んでいこう』
ベルタ『こんな私であなたにふさわしいのかしら』
ユリウス『それを決めるのは僕だよ』
二人『安らぎとやさしさ小さな毎日の幸せを積み重ねて本物の幸せを築いていこう』
ヘルマン『これからの人生を
共に二人歩んでいこう
ロッテ『こんな私であなたにふさわしいのかしら』
ヘルマン『それを決めるのは僕だよ』
二人『安らぎとやさしさ小さな毎日の幸せを積み重ね本物の幸せを築いていこう』
4人『優しい思いで包み込めばきっと幸せになれると信じて』
ユリウス・ロッテ・ベルタ『もう幸せとは無縁だと一時は考えていた
でも希望の光がさしこんでいる』
4人『ともに希望を見つめて生きていこう』