忙しい忙しくないに関わらず、家を出かける前の僕はバタバタしています。続いていたライブも終盤に差し掛かった7月のある朝も相変わらずバタバタした状態で、マイカーで羽田空港に向かおうとしていました。

 

おそらく最近の車をお持ちの大半の皆さんと同様に、鍵についているボタンを押して開錠施錠、という電子キーのタイプの車に僕も乗っているのですが、その朝に限っては電子キーの開錠ボタンを押してもウンともスンとも反応がありません。んん?なんでだ?その後何度試しても無反応。どうにもこうにもおかしい。

 

(困ったな、急いでるのになぁー)

 

そんな時に「あ、そういえば僕の電子キー、中にステンレスの鍵が収納されているな」と思い出した僕は、ひとまずステンレスの鍵を取り出し、鍵穴に差し込み、開錠すべく右に回してみたところ、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウィーーウーー

ウィーーウーー

ウィーーウーー

ウィーーウーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(え?え?え?え?

 なに?なに?なに?なに?)

 

隣町まで聴こえるくらいの爆音量で警音が鳴り出しました。

 

差し当たって開錠は出来たので、パニックになりながら車に飛び乗り、まずエンジンを掛けることを試みます。そしたらこの爆音は止まるかも!分かんないけど!(涙)

 

僕の車は電子キーを車に差しこんで右に回すとエンジンが掛かる、というシステムなのですが、電子キーが完全に壊れてしまっているからか、差し込んだ鍵が右に回せない状態。エンジンを掛けられません。え?どうしてだ?動かない……。頼む、エンジン掛かって!

 

そんな思いとは裏腹に、電子照合が出来ない不審な鍵と認識されたのか、まだまだ爆音量で鳴り続ける警音。

 

(やばい。マジでどうしよう……)

 

車のメカニックに詳しくない僕は車を購入した際のディーラーのAさんに電話。

 

「あ、それは車泥棒が鍵をピッキングで開ける際の対策でイモビライザー(盗難防止装置)が鳴り出したんですね。ただ通常だと電子キーをすぐ車本体に挿し込んでエンジンを掛ければ、ピッキングじゃない、本人だ、ということでイモビライザーが止まるはずなんですよね。んー、なんでエンジン掛けられないんだろう……。ええと……」

 

万事窮した状態で車内で呆然としていると

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フォン

 

 

 

 

 

 

 

 

1分ほどで警音が鳴り止みました。

 

(ふーーーーーーーーーーーー)

 

(イメージ画像)

 

一安心した状態で、今度は別の問題が。

 

僕は閉所恐怖症なのです。良くも悪くも想像力が不必要に豊かなので、それがプラスにもマイナスにもそれが働き、その時の僕の極力マイナスの心理状態は以下のようになります。

 

実は車自体が壊れてて、内側から扉がどうしても開けられない状態が10時間くらい続いて酸素が無くなったらどうしよう。都会のマンションの駐車場で酸欠で死んだりして。今すぐ開けないと。でも扉を開けたらきっとまた爆音が。もう爆音はやだ。マンションの住人から抗議が来てここに住めなくなったりして。でも、酸欠はもっとやだ。っていうか、羽田!飛行機!

 

(以上、5秒ほど頭の中でグルグルグルと駆け巡った妄想)

 

 

 

そう思ったら居ても立ってもいられない。意を決して扉を開けようとした瞬間に、同じマンションにお住まいの女性が僕の方を向いて「どうも」とおじきをしながらガレージに入ってきたのですが、全く冷静ではない僕はそのタイミングで扉をおもむろに開けます。

 

 

 

 

 

 

ガチャ

 

 

 

 

 

 

 

 

ウィーーウーー

ウィーーウーー

ウィーーウーー

ウィーーウーー

 

 

 

女性「きゃーーーーーーー」

 
 
 
 
 
〜地獄絵図 made by パニックの僕〜
 
 
 

「本当に済みません!僕もどうしたら良いのか分からなくて!本当に済みません!」何度も丁重に謝罪。

 

大人になっても初めての経験は長く感じるということを聞いたことがありますが、先ほどの経験から1分ほどで鳴り止むことは知っていても、その状態だと永遠に鳴っているじゃないかくらいの体感。

 

(嗚呼、僕は一生こんな感じのとんでもハプニングに見舞われながら生きて行くのだろうか。まぁ、基本は全部自分のせいなんだけど、それにしても……)

 

夏を謳歌する余命幾ばくかの蝉たちも黙るほどの爆音がようやく鳴りやんだのを見届けて、コンビニへ走ります。単純に電子キーの電池切れかもな。こんな事態が起きるまで必要性を感じてなかったけど、スペアキー必要だな。中古車でスペアキーがそもそも付いて来なかったんだけど、作っておけば良かったなー。

 

それにしても、防犯システムが必要以上に行き届きすぎてないか?開けただけで爆音が鳴るって!絶対に盗まないし、盗みたくねーわ、こんな車!(いつしか車泥棒の心理)

 

 

電池を替えるべく電子キーを分解してみると、洗濯物と一緒に洗ったわけでもないのに、電子キーの中が水分でビショビショに濡れていて、電池の液漏れが原因で基盤が壊れてしまったらしく、電池を替えてみても電子キーは上手く作動しません。

 

雨の日に水が入り込んでしまったのか。はたまた何かの拍子にカバンの中で水に浸ってしまっていたのか。うーむ、こんなことあるんだな。電子キーって生活防水くらいは施されてるイメージでいたな。

 

 

 

その日はひとまず車は諦めてタクシーに飛び乗って羽田から無事に飛行機にも乗って、旅先から電子キーを直して貰うべく車のメーカーの某店舗に電話をします。

 

僕「●●という状態なのですが、どうしたら良いでしょうか。余りの爆音で近所にこれ以上迷惑は掛けられないので出来うる限り車の扉は開けたくないのですが、車検証のコピー等は持ってますので、ご対応頂くことは可能でしょうか」

 

ディ「川口さま……本当に申し訳ないのですが、車検証は原本じゃないと鍵は直せないんですよ」

 

僕「……(ゴクリ)。もちろん防犯の観点で仰ってるのは分かってます。ただ、あんな隣町まで聴こえるようなイモビライザーが……。もし防犯上ということであれば、僕ではなくメーカーさんが鍵を管理して、扉を開けて頂いて、車検証を確認頂くことは出来ませんか。お願いします。お願いします。おね……」

 

ディ「本当に済みません……事情はお察ししますが……我々が車のところまで行って鍵を開ける、ということは規則で出来ないんですよ。あと、やはり車検証は原本じゃないと駄目なんです……」

 

僕「では極論を言うなら、鍵を直す為に爆音でイモビライザーを再び鳴らして近所トラブルになるか、近所トラブルを起こさない為には車をそのまま放置するか、その2択から選べ、ということなのでしょうか」

 

ディ「申し上げにくいのですが……現状だとそうなりますね……」

 

 

 

 

 

 

ウィーーウーー

ウィーーウーー

ウィーーウーー

ウィーーウーー

 

 

 

 

(心の中で僕の人生に対して警音が鳴っている妄想)

 

電話を切った後、何もかも嫌になってそのまま数時間車のことは考えないようにしていたのですが、思い直してディーラーさんの懇意にしているという同じメーカーの別の店舗に電話してみたところ……

 

 

 

 

 

「ああ、Aさんのお知り合いの。はいはい。なるほど。事態が事態ですし、鍵が壊れてるというより、鍵を失くして車が開けられない、という風に捉えたら、鍵を再発行するしかないですもんね。その方法で再発行を依頼してみます。1週間ほど掛かりますが、大丈夫ですか」

 

と大変柔軟に対応して下さりました。

 

捨てる神あれば拾う神あり。ありがたい……(涙)。1週間でも2週間でも待つよ!ってか、最初の店舗の人、所詮他人の人生だと思って!魔のイモビライザー地獄を味わってみるがいい!(※おそらくAさんの知り合いでなかったら、2軒目の支店でも対応してくれなかった気がします)

 

 

 

 

それにしても去年も和紗ちゃんのライブが終わって京都から戻る時に財布を落としたりと、他のことに気を取られてる時期に何かしらが起きるけど、これに関しては半分アクシデントみたいなものなので、仕方ないか。

 

それにしても7月は色んなことがあって有意義だったな。このレコーディングを以って7月最後の仕事だ。考えればイモビライザーも10分にも満たない出来事だし例年よりトラブルは少なかったと思おう……うん、きっとそうだ……

 

……と非常に強引な自己肯定感で自分を慰めてながら帰宅した夜に、今度は誰も居ない家の鍵が見つからず、台風が接近していたので、泣く泣く最寄りのAPAホテルに予約を取って泊まりました。

 

イモビライザーの話は誰かの参考になるかもと思い書きましたが、APAホテルに泊まった話は文章に書き出すといよいよ自己嫌悪で消えてしまいたくなるので割愛……。鍵は翌日すぐに見つかりましたが、結局毎回そうやって見つかることがお前を成長させない!と友人ふたりに手厳しく叱られました。

 

きっと会社勤めなどしようものなら、顧客情報の入ったUSBを落としたり、タクシーに会議の資料の入ったパソコンを置き忘れたりしかねない社会性ゼロの権化のような僕は、せめて頑張って良い音楽を作って生きて行こうと思っていますので、これからもこんな僕をよろしくお願い申し上げます……。