NHKから国民を守る党(政治団体)がどういうものであるかは本著の読者の皆様はご存じのはずなので省略する。
その代表の立花孝志氏は「嘘つき」呼ばわりされるのを大変に嫌う。2019年の柏市議会議員選挙で大橋正昌氏の応援演説の際に、聴衆から一言そう言われただけで激高し、信者を中心に当該者を取り囲んで最終的に私人逮捕して警察に突き出したという、不当逮捕を疑われてもおかしくない事態を引き起こした。
が、彼は大変な嘘つきである。
2019年7月の参院選に私が供託金を支払い、党公認立候補として立候補をするという話をした際に、その供託金は選挙に当選したら政治団体支部を作ってそこに3倍にして返すと約束。また、同年12月に新橋鳥貴族で立花氏と私が言い争いになった際にも、理屈で敵わないとみるや「不快。金返すから消えて」としか言わなくなり、同日に「約束通り金を返すので、公設秘書と連携して支部を作ってくれ」とTwitterのDMも私に送っている。
が、そうかと思えば「請求書払いにしたから請求書を書いてくれ」と電話してきたうえ、そんな実態のない請求書を書いたら不正な送金を疑われるのでできないと反論すると、とにかくそう決めたから、と一方的に電話を切る。
後日、弁護士さんに相談したところ、「党本部で活動していた時間、本業のタイムチャージで計算、あと交通費等自腹分も計算して請求書を出せばそれは不当とまでは言えない」との助言を頂いたので、2019年参院選で自腹で払った300万円を含めてきっちり900万円(もちろん、本業のタイムチャージで計算したら軽く超過するので値引きして)の請求書を出すも、無視。YOUTUBERの方が質問して下さった際には「裁判したら(反応を)返します」とか言い逃れ、見事に約束を破った。まぁ、説明が長くなったが立派な嘘つきである。
さて、私が個人的につかれた嘘はおいておくとして、以前から立花氏が主張している代表的な嘘について、現役法学部生の私が嘘・間違いを一つ指摘しておきたい。
「NHKと放送受信契約を締結していない、料金を支払いたくない人は、とにかく契約して不払いをした方がお得である」
( ゚Д゚)ハァ?
という当然の反応はスルーするとして、立花氏の論法は次の通り。
①契約を締結すると、時効の利益を受けられる。
②未契約の状態でNHKから訴訟を起こされると、時効の利益を受けられなくなる。
③契約不払い者が支払い督促や代金支払い請求訴訟を起こされた場合には、立花氏が個人的に肩代わりをして支払う(という利益を受けられる)
①、②は法律上の問題、③はそれとは別の問題であるが、それぞれの嘘を示し、解説する。
①NHKの放送を受信できる設備を設置している世帯がNHKと放送受信契約を締結すると、時効の利益を受けられるか?
この点について、2つの視点で嘘だという事ができる。
まず第一点は、「時効とは、無条件で成立するものではない」ということである。
NHKと消費者の間に放送受信契約の締結がなされると、NHK側には消費者に対し受信料の支払い請求権が生じる。この債権は、民法上「定期金債権」と規定されることとなり、
「定期金の債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する」(民法第168条第1項)。
「債権者が定期金の債権から生ずる金銭その他の物の給付を目的とする各債権を行使することができることを知った時から十年間行使しないとき」(同条第1項1号)
立花氏は、自称・法律の専門家であらせられるので、現在は条文がこのように改正(平成29年)で改められていることを当然ご存じのはずであるが、改正前民法では、168条、169条と定期金債権についてわかれており、
「年又はこれより短い時期によって定めた金銭その他の物の給付を目的とする債権は、5年間行使しないときは、消滅する」(改正前民法第169条)
という短期消滅時効の規定を念仏のように唱えていたような気がしますが、気にしない。定期金債権というものは、年金や信託受益権といった受給権を念頭にした概念であって、それを強く保護する趣旨のものであるが、賃料、年金、離婚後の養育費など、およそ定期的に給付が約束される給付請求権には該当する。NHKの放送受信契約に基づく受信料請求権が例外扱いされる理由は、とくに思いつかない。
いずれにせよ、「時効」、特に受信料債権の「消滅時効」の射程に入る年数の議論は別として、実際にその消滅時効によって、不払い者が確実に「時効いっぱい分までしか請求されないという保護を受けることが保証できるか」というと、それは否である。
現行民法第168条第1項1号をみればわかる通り、
「債権者が定期金の債権から生ずる金銭その他の物の給付を目的とする各債権を行使することができることを知った時から十年間行使しないとき」
つまり、債権者であるNHKが、その債権を行使することができることを知った時から「行使しなければ」消滅時効の適用を受けることができうるが、債権者が「ちゃんと支払ってください」と給付請求をすれば、その時点で消滅時効の利益は消えて、またそこからカウントが再開される。この請求は内容証明郵便でも、訴訟でもよい。公的に、ちゃんと債権行使を求めました、という外形をとればよいのである。立花氏はNHK側が積極的に請求権を行使しない前提で決めつけをしているが、必ずしもその消滅時効の利益を受けられる保証はない。
第二点は、「契約の取り消しという選択肢がNHKには残されている」ということである。
NHKの放送受信契約はその名の通り「契約」である。契約とは、当事者が条件に合意して交わす、法的拘束力を伴った約束といった意味合いである。契約の成立は、ここに記した通り「当事者が条件に合意」したという、当事者らの意思が合致することが必要となる。最初から契約内容に記載の放送受信料の支払いをする気がないという前提がある以上、その契約は当事者一方の意思表示に瑕疵があるといえる。これは、民法上次の通り規定されている。
「詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる」(民法第96条1項)
民法では、契約に必要な意思表示について瑕疵がある場合、「無効」と「取消」という二つの制度を採用し、契約当事者のいずれかが不利益を被ることから保護することとしている。民法第96条1項に規定されているのはこのうち、取り消しである。
「詐欺」という用語は民事と刑事でニュアンスというか要件が異なるが、およそ民法の取り扱う範囲では、意図して相手方を騙したという、より一般的な理解に近い意味で理解される。積極的に「相手を騙してやろう」という内心のある当事者について、保護する必要を民法は認めないのである。
基本書を参照すると、この民法第96条の詐欺又は強迫というものが認められる要件はいくつかあるとされている。
A. 違法なものと認められる程度のものであること
B. 詐欺をしようという故意と、これにより相手方に意思表示をさせようという二重の故意があること
C. (被害をうける側の)意思表示が欺罔行為(だます意図をもった行為)により騙され、これにもとづいて意思表示がなされたこと
などである(コア・テキスト 民法I 民法総則 第2版、平野裕之、新世社)
立花氏の主張では、「わざと契約不払い」をすることで、「受信料不払い者に消滅時効の利益を受けさせる」ことで「NHKをぶっ壊す」などとその目的・趣旨を説明している。その趣旨に賛同した支持者、いわゆるエヌ酷党信者がその号令に従って契約・不払いを組織的に行っているという点を、世間一般ではどう評価するだろうか。
刑事事件での「詐欺」とは、その構成要件に「欺罔行為により」「第三者を錯誤に陥らせ」「実行者または第三者に対し、被害者の財産処分をする決心をさせ」「実際に財産処分を実行させた」というものがある。そこに「財産処分」というものがある以上、契約・不払い勧奨それ自体を刑法上の詐欺罪に該当するとして事件化することはおよそ不可能と考えられる。
しかし、民事上そういった財産処分の実行という要件は存在しない。首謀者の稚拙な発想、号令のもと、組織的にわざと支払いの意図のない契約を交わし、さらに後述の通り、万一支払いの督促や定期金支払い請求訴訟を提起された場合には、立花氏が肩代わりするなどと吹聴し、かつ、何の役に立つのかわからないが、どこぞの士業のものに委任契約をすることで、請求書が契約当事者に届かないようにするといった、NHKの通常の業務を妨害する行為を組織的、継続的、意図的(明確な悪意をもったもの)におこなうのがこの契約・不払いスキームなのである。果たして、そのような陰湿で悪質な意思のこもった契約を、裁判所が保護する必要があるのだろうか。
判断するのは裁判所であるが、当事者であるNHKには当該契約を取り消しうる権利が存在する。つまり、仮に契約していたとしても、そんな悪意しかない契約なんか無効です、と、契約当初に遡及してなかったことにするカードがNHKにはあり得るのである。
②未契約の状態でNHKから訴訟を起こされたものの取扱い
前記の第二の点で、契約を取り消され得る可能性があることを述べた。ここで、未契約であるものの取扱いについて示す。
放送法という特別法上に契約義務があるにもかかわらず未契約である者に対しては、NHK側から裁判所に訴えを起こし、その確定判決をもって契約していたものとされ、その契約強制ともいう決定が合憲であるという判例が出ている(最判平成29年12月6日民集第71巻10号1817頁)。つまり、立花氏に扇動されて契約・不払いをおこなっても、この点でも時効の利益を受けられない可能性があるのである。
③契約不払い者が支払い督促や代金支払い請求訴訟を起こされた場合には、立花氏が個人的に肩代わりをして支払うということが現実的か
立花氏は、万一契約不払いに賛同したものに対し、NHKが支払い督促や訴訟という手段をとった場合に、自らの私財、または現在無所属参議院議員2名で構成される「NHK党」という会派に支払われる会派費で、その費用を肩代わりするといった趣旨の発言をしている。これは2022年7月の参院選前後に言及しはじめた「サービス」で、真偽は不明であるが、それ以前もおこなっていたという立花氏の発言がある。
この「サービス」は極めて危険である。なぜならば、「政治関係者」が、「有権者」に対して特別な利益の提供をおこなう事を、法は禁じているからである。具体的には公職選挙法第221条1項が該当する。
「当選を得若しくは得しめ又は得しめない目的をもつて選挙人又は選挙運動者に対し金銭、物品その他の財産上の利益若しくは公私の職務の供与、その供与の申込み若しくは約束をし又は供応接待、その申込み若しくは約束をしたとき。」
実際に、この件について立花氏は刑事告発を受けて、検察官に聴取を受けている。2024年9月6日現在、本件は不起訴となっているが、告発者は不起訴を不服として検察審査会に審査申し立てをおこなっているため、まだ未決の状態である。
立花氏はこの件について「検察官は俺が立候補しなければやっていいですよとお墨付きをくれた」などとちょっと暑さのせいでどうにかなさったような事を仰せであったが、これは彼が勝手に脳内で修正した解釈に過ぎない。「その代わり俺はもう立候補はできひんのや」などと言い、自らが公職の候補者でなければ不問にされると思い込んでいるが、それは彼の勝手な解釈である。
公職選挙法第221条は「次の各号に掲げる行為をした者は」と規定している。「立候補者は」という限定は存在しないのである。
これは本著記載日時点で未決であり、検察審査会を経なければ確定しない。つまり嘘と断定するのは早計であるが、条件に「裁判所が合法と認める場合に限り」という留保が付される。なお、念のため付記しておくが、公職選挙法第221条は「お金を出した側だけでなく、受け取った側にも適用」されうる点に留意されたい。違反した場合には、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金刑が適用される。
と、法律的な側面は別として。経済的にこの約束が果たして貫徹されるであろうか。
立花氏は2019年参院選で議席を獲得し、政党要件を満たして政党助成金の交付を受けることに成功した。が、自らの判断により代表を辞し、後任の大津綾香氏に代表の座を譲って退いた。その後も何故か党の資金(政党助成金と、党名義でかき集めた借金)を処分する権限を堅持していたが、大津氏の尽力により、その謎の資金決済権ははく奪されている。現在の立花氏の資金源は、当人発表の内容によれば、前述の参議院会派NHK党の会派に対して支払われる立法事務費(130万円/月)である。また、2022年に東谷氏を擁立して議席を獲得し、同人が除名処分を受け、さらに比例名簿高順位者を立花氏が次々と排除した結果現在参議院議員である斎藤氏の歳費についても、手取り40万円以外の部分は召し上げるといった発言も確認されている。
こうした資金については、当該無所属議員が存在しなければ得られない。それ以外にも、立花氏は例えば東京都知事選挙の際に支持者から借金を募る形で資金調達をおこなっている。こういった借金が肩代わりの資金となり得る可能性はありうるだろう。
しかし、果たしてそれはいつまで続くのだろうか。立花氏は契約不払い運動に賛同した者に対し、「いつまで」と、肩代わりをする時期を限定していない。約束をしていない以上、嘘と言い切れないが、法律上の問題があると判明した場合、また、立花氏の資金が枯渇した場合には嘘となる。
などと、長文の説明をしたが、「契約不払い最良説」は多分に嘘の要素を含んでいる。
必ずしも、これは立花氏が積極的に嘘をついているという主観的な意味に限定されない。立花氏は、独特の法律解釈、独自の世界線で生きているので、当人は大真面目に嘘をついていないと思い込んでいる可能性がある。ただ、私が日本の法律をみたかぎり、嘘であるとしか思えない。
他方、法律上、資金面の問題から契約不払い者に対して、約束した肩代わりができなくなることも十分ありうる。この場合、当事者である契約不払い者にしてみれば、立花氏を信じたのにも関わらずその約束が履行されなかったという当事者になり得ることを理解しておくべきである。立花氏の主観はどうあれ、客観的にはその当事者にとっては嘘をつかれた、という事実だけが残る。
これはありえない話ではない。私は、客観的にみれば約束が果たされなかった、嘘をつかれた被害当事者のひとりなのである。その属性は立花氏が嘘つきであると断定的に言及するに十分であると考える。