ランダムキーワード:居待月・道・戦人・恋愛
とある娘は恋をする
片道切符のお相手は、誉れ高きドラゴンバスター
雲の上の高嶺の至宝
戦士の名はテトラと言い
娘の名はめだかと言った
テトラが戦場から戻る前夜
めだかはそっと街を抜け出ると
月明かりに照らされた幻想的な野へと赴き
花を一輪摘んでくる
その花を胸に飾って賑わいに雑り、遠巻きに戦士の帰還を祝う
花言葉は『敬虔な恋』
遠くから姿を見るだけで、声も聞いた事はないけれど
元気な姿を見ただけで、充分に心は満たされる
それが、めだかの日常だった
居待月が道往く娘を照らしている
明日の朝にはテトラが帰って来るのだ
大きな戦果と
更なる名誉をたずさえて
それはいいの
と、めだかはよく想う
無事に帰って来て欲しい
それだけでいいの
そんな風にめだかは想う娘だった
いつもの花野でそっと花を摘んだ時
突然魔物が表れた
マウンテンゴリラのような太い身体に、猪のような牙
対するは、細身の娘がたった独り
めだかは
腰のポーチから折り畳み式の小弓を手速く取ると、瞬く間に短矢を放った
次々と矢が命中し、魔物が怯んだ時には投擲された小刀が放物線を描き、魔物の眉間へと吸い込まれて行く
「見事なものだ」
小刀と短矢をめだかが回収していた時に、後ろから声をかけられた
害意を含む言葉と声音では無かったが、めだかは油断なく振り向く
月明かりの下、夢のようにテトラが立っていた
「帰る予定が早まったのはいいが、いきなり夜中に帰ったら向こうに悪いから野宿をしていたのだが、驚いた娘がいたものだな」
と、テトラは言ったが、めだかは別の可能性を考えている
「人の心を読み、それに化ける魔物がいると、聞いた事があるわ」
テトラは一瞬呆気に取られたような顔をしたが、次の瞬間にはニコッと笑った
「では、試してみるがいい」
言い終わるか終わらないかの内に、めだかの腕が振り降ろされていた
先程の短矢が戦士目掛けて飛んで行く
無論、弓を使った時程のスピードは無い
その代わりに
めだかは矢を追って間合いを少し詰める余裕が出来た
あと一歩半で小刀の間合い
戦士は片手で短矢を無造作に掴むと感心したような表情を見せている
「なる程、痺れ薬か。薬草学も詳しいようだな」
同じ動きでめだかは腕を振り下ろした
次に投げ付けたのは
油紙に包んでおいたコショウだった
次の投擲物を警戒して目を皿のようにしていた相手はたまらない
めだかは迷わず間合いを詰めた
突き出された刃が月の光を受けてきらりと瞬く
テトラは眼をつむったままかわしていた
上下左右に小刀が疾走る
しかしまるで風に舞う花びらのようにかわされてしまうのだ
「俺の矢に対する反応を観て咄嗟に目潰しに切り替えるとは天晴な娘だ。太刀筋も悪くなかったぞ」
テトラが言い終わる頃には既に、めだかは組み伏せられていた
突然消えたと思ったら、いつの間にか投げられ、そのまま組み伏せられた
としか、めだかには認識出来ない
戦いの最中、テトラは背負った剣を使う素振りさえしなかった
レベルが違い過ぎる
「信じて貰えたかな?」
「ご無礼をお許し下さい」
真っ赤になっためだかの胸に、秘かな高まりが生じている
しかしテトラは、優しくめだかを起こし背中の土を払った
「あの、テトラ様」
「テトラでいい。俺はもう王宮戦人ではないのだから」
「どうして?」
「俺は戦士であって政治家になるつもりも、政治の道具になるつもりもない。だから辞めた」
複雑な思いが娘の胸中を駆け巡る
不意にテトラが言った
「敬虔な恋、か。良いものだな」
めだか再び赤くなる
「俺も落ち着いたら嫁でも貰うか。強くて、可憐で、奥ゆかしく、敬虔な心を持つ女性。どこかにいないかな?」
テトラが子供のように無邪気に笑いかける
めだかは真っ赤になりっぱなしだった
「しかしいたとしても、一介の戦士に成り下がった俺など相手にしてくれんのかもしれんな」
「そんな事ありません!!!」
めだかの、腹の底から声が出ていた
「あのぅ・・・テトラ様?いえ、テトラ・・もし、あの(トモダチ)もしですけど(ともだち)あの、もしよかったら(友達!)・・・」
真っ赤なめだかがモゴモゴ言う
ぽんっ
と、テトラが背を叩いた
「よし!わかった!こんな俺で良ければ婿に貰ってくれ!」
「あっ・・・ハイ。あの、こちらこそ、お願いします。ふつつかものですが(ええーッ!)」
「む、そういえば」
「はい」
「名前をまだ聞いてなかった」
「もう!(笑)私の名前は・・・ 」
娘の胸に花一輪
敬虔な恋が、優しい風に揺れていた