満月 戦人 ホラー
母親はPTAの会長で、父親はやり手の弁護士だった
だから同級生は勿論、先生も逆らわない
試しに先生の目の前で同級生に生きたカエルを無理やり食わせてみたが、笑って見てるだけだった
その同級生が屋上から飛び降りた
すぐさま母親は学校に乗り込み、父親は様々な番号へと矢継ぎ早に電話をかけ、世間的には
自殺の記録が一件増えただけ
の事となった
翌日
カエルを食わせてもいい奴を新しく作った
これからも、いつもと変わらぬ日常が続くのだ
殴ったり、蹴ったり、葬式ごっこをしたり
自殺のあった翌日だからだろうか
母親が運転手付きの車で迎えに来ていた
「たけし、大丈夫?学校で何か聞かれなかった?」
「別に、新しいのも見っけたし何の問題もないよ」
「新しいのって?」
「新しい遊び相手」
「たけし、少しイジメは控えてちょうだい。パパやママも面倒なんだから」
「いじめじゃないよ。俺もみんなも楽しいし、あいつらだって楽しいんだ」
「ならいいけど今回はちょっと面倒だったから」
「・・・」
相手が可哀想とか一言もないんだな
他人事のようにたけしは思った
「家は左よ」
たけしの母親は運転手に言ったが車はあらぬ方向へと進んで行く
「ねぇ!ちょっと聞いてんの!!!?」
母親が運転手の肩を乱暴に掴む
掴んだ肩が、まるで骨が砕けているかのように
ぐにゃり
とヘコんだ
そのヘコみの上を転がるように首が曲がり、その下に逆さになった頭が提灯のようにぶら下がると
運転手の帽子がぽたりと落ちる
眼窩の部分がポッカリと空いたその顔は紛れも無く
自殺した同級生のものだった
きょははははははは
けたたましく嘲笑う死人の声を聞きながら、たけしと母親の意識は遠のいて行った
がり
ごり
ぐちゅ
ポリ
ポリ
最初は悲鳴があったが、すぐに聞こえなくなった
失禁するたけしの目の前で母親は生きたまま喰われている
何処とも知れぬ山奥に、じゅるじゅると血をすする音が響いた
割り裂いた腹の中に頭ごと突っ込んで内蔵を喰らっていた同級生はふと、何かを思い出したように動きを止めると、顔を上げて、内蔵と血に塗れた笑みをたけしに向けた
満月の月明かりの下に浮かぶ凄絶な笑みに、たけしは再び失禁する
「カエルノオレイニ、ノウミソアゲル」
ガリ、ガリ
死人が母親の頭を噛じり出した時にやっと、その言葉の意味がわかった
助けて
お願いもうしませんから、助けて
たけしの願いは虚しくも容赦無く、暗い闇の奥へと吸い込まれて行った
死人がたけしの原形を留めてさえいない物体にかぶり付いていると、そこを目掛け
虚空に一筋の剣閃が煌めいた
気配を察した死人は敏捷な動きでその場を離れたが、肩に傷を負っている
月輪の光を背に受けて
一振りの刀を持った戦士が立っていた
「これがネクロマンサーか。本当にいるんだな、こんな化け物が」
ニヤリと嗤った死人の背から骨の翼が生え広がる
「そうこなくっちゃ」
烈迫の気合と共に、戦人の刃が舞い煌めいた