天気もいいし、お茶でも飲みに行こうや



久々の休日の朝、電話をかけてきたのは66歳のお爺ちゃん監督



アラブ訛りの英語で「寝るな、良い天気だ、起きろ、お茶を飲もう、きっと気分が良い」


単文だが的確なメッセージを伝えてくる


「今日は散歩したら、きっと風が気持ちいいぞ」


彼の名はアミール ナデリ



$New Cross Style
イランが生んだ世界的巨匠........この半世紀で最も世界に影響を与えた監督の一人.....三大陸映画祭で2度グランプリを受賞した名匠......



と言われているが、実は初対面の時、僕はこの人の事を知らなかった




映画の話なんかしなかったしね






アミールは、大声で、元気で、眼光が鋭くて、言葉が端的で、それでいて笑うとチャーミングなお爺ちゃんだった





向こうもやたらと気に入ってくれて




夜中でも、昼でも向こうの好きな時間に呼び出される




「夜風が気持ちいいぞ」



知るか!と思いながらも、結局連れ出されてしまう




お前は日本人のくせに口が悪い



アミールによく言われる




この人が、酒が飲めたらさぞ楽しいのだが



酒は一切飲まず ベジタリアンである




以前は酒も飲んだらしい



肉も食ったらしい



というかアル中だったそうな



ラスベガスのギャンブルで、映画の制作費を作ったとか伝説的な話もある



家族を失いホームレスにまでなった





ある日、全部止めた


酒も



肉も


「女も好きだが、映画の方が好きなんだ」



それ以来、ストイックな人生を始めたようだ



映画好き?




いや、僕の印象では





映画の野獣かも



獣が涎を垂らし、爛々と輝く眼光で獲物を欲するような


そんな態度で映画に望んでいる


正直ちょっと怖い時もある



「君も私も同じクリエイターとして....」と切り出されると



少し照れくさい気分もする





でも、震災後、初めて会った彼は、少し雰囲気が違った




会うなり、散歩しながら話そうと、代々木公園の方へ




「緑が綺麗だね」と言うと


「俺は砂漠で生まれた。だから砂漠の方が好きなんだ」と珍しく昔話を始めた




自分の人生を映画にすれば?と笑ってしまうほど、壮絶だった




父親は誰だか分からない



母親も子供の頃に死んだ




叔母に育てられた。



7歳の時には、もう映画を作りたい......というより、きっと作るだろうと思っていた。



当時のイラン



貧困地域で生まれた彼が、映画監督など夢のまた夢だったが



確信していたそうだ



11歳の時、お金を握りしめ、映画を見るために旅をする




叔母に言われたそうだ「人生は三回ある。若い時、中年、そして老人。若い時が幸せな人、中年期が幸せな人、そして人生の最後が幸せな人...お前は若い時が苦しかったから、これから良くなるよ」



お金もなく、家族もなく、家もなく、映画監督になるという夢と、一回の映画を観るだけの小銭しかない少年は、映画を観終わった瞬間、映画監督になると決意する



叔母「でも、本当に幸せな人間は、最後が幸せな人間だよ」



アミールは、映画館で働くことになる



映画を観たり、批評を読んだりが、彼の勉強だったらしい



叔母「お前は生まれた時、3つのものを持っていなかった。家族と、子供でいる権利と、生きる希望。それはきっと天に貯金してあるから、いつかおろす時がくるね」



叔母は大した哲学者だった

とアミールは回想する。



「66歳になって、君達のような家族同然の仲間に囲まれて、子供のように君達に甘え、映画という生きがいがある」




16歳の時、一人でロンドンに行った




貯めたお金を全部出して



汽車を乗り継ぎ、船に乗り、イギリスのポーツマスへ



そこからさらに電車を乗り継ぎロンドンのSOHOについた時にはボロボロ



もうホームレスのような恰好



僕「その時、英語はなせたの?」


アミール「ほとんど話せなかった...」


国を出る時、英語のできる友人に手紙を書いてもらった



「私はイランから来ました

ロンドンで上演されるスタンリー キューブリック監督の2001年宇宙の旅 を観るために」




実は、ここに来るまで



何かあると、この手紙を警官や、道行く人に見せ



助けてもらって、ようやく劇場までたどり着いた



なんって無謀な........




で、ようやく映画が観れると思ったら



その汚い恰好を観て、ホームレスと勘違いされつまみ出された



「僕はホームレスじゃない!映画が観たいんだ!スタンリー キューブリックの映画がみたいんだ!」



イギリスって、結構服装と英語の発音で判断されるんですよねー


アミールの訪れた1960年代のロンドンなんって、特に顕著だったでしょう



アラブ訛りの、ボロを着たアラブ人の少年の言う事など誰も耳を貸さないわけですよ



すると、一人のひげ面の男が、ニュっと現れたのだそうです



「坊主、今何んって言った?」



アミールはすかさず手紙を見せます



長旅で、雨と汗と埃でボロボロになった手紙です




男はその汚い手紙を観るや、血相を変えます



「私はイランから来ました

ロンドンで上演されるスタンリー キューブリック監督の2001年宇宙の旅 を観るために」





男「お前、イランからわざわざ来たのか?」


アミール「船と、電車で....」


男「船と電車? こんなボロボロになって!俺の映画を観に来たというのか?」


アミール「俺の?」




見上げると


$New Cross Style
それはスタンリー キューブリック本人










$New Cross Style
キューブリック「その少年を放してあげなさい。私のゲストだ」






これ、本当の話だから凄いですよねw!



なにそれ!




恰好良すぎるんだけど!



かくして、少年アミールは、映画を観る事ができた



あの時の感動は、言葉ではいえない



まるで夢でも観てるかのようだった





そして、その後、彼はイランで監督になり



いくつかの映画をとり





ようやく人生が上手く行き始めた時




国家によって映画が禁止されてしまうんですね




仲間が止めるのも聞かずに、今度はニューヨークへと旅立つ決心をします




朝8時のバスに乗るために




彼は4時から待ちました




その4時間の間に




今日までの人生の設計全てをたてたそうです






思えば、映画を観に主都へ旅した時は小銭だけを握りしめていた



ロンドンへ旅した時は、手紙一つ


そして、国を捨てる時は、鞄一つ




元々何も持っていなかったから、何も怖くなかったのだそうです




「今だってそうだよ」


アミールは嬉しそうにそう言う




「叔母が話してくれた」


とアミールは続ける



「砂漠の民は、いつも風を信じる。風が教えてくれる。行く方角、行くタイミング.....砂漠には山も川もないから、何キロも離れた場所の香りがそのまま運ばれてくる。それで行くべき方向が分かる。風はメッセンジャーなんだ」




僕「アミールは運命を信じる?」

アミール「進むべき方向という意味ではyesだ。だが風を感じられなければ、それにも気付かない。風なんだ。人生で一番大事なのは...。無一文でバスを待っている時、俺は風を感じていた」

僕「うん」

アミール「daisukeは風を感じるか?」

僕「まだよく分からない。」


アミール「でも今日は散歩して良かっただろ?良い風だ」


僕「どっちの意味?人生? それともこのそよ風?」

アミール「どっちもだよ。君は若い。これからいくつもの風を感じるだろう」

僕「信じるよ。それ」

アミール「風なんだよ....全ては」




え~~~




なんっていうんでしょうね





なんか






$New Cross Style

凄く良い休日でした!!!



おわりっ!!!!




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