$New Cross Style

 

「このインスタントのお味噌汁・・・今ならいくらで買う?」

 

海外で必ず体調を壊す僕に、悪戯っぽく母が尋ねてくる事がある。 答えは「有り金全部!」だ。そう、喉から手が出る程欲しい日本のお味噌汁! 僕の「下痢=お味噌汁」の方程式はこの時作られた。 「どんなに外国通な顔して、国際人でございって肩で風斬って歩いてもねー。体調壊した時はお国柄がでるもんよ」母がよく言っていた。

 

あれは、フランスのボルドー地方に行った時の事だったと思う。 例によって、下痢をした。 しかもこの時は、食べた「牛の乳腺」の打撃力がもろボディーに入り、嘔吐もあった。 前から後ろからの典型のような状態。 兎に角、脱水症状は危険なので水だけは沢山飲んだ。 

 

そう、コントレックスを。

 

コントレックス・・・それはパリジェンヌのダイエットの為にのむ硬水で不味いったらありゃしない。 病状は悪化する一方。 ここで一番困ったのは何を食べるかという事。ここ10年、世界規模で和食屋が増えてきたが、僕が幼少期(20年前)は各国の首都で寿司屋がある程度だったと思う。 まして、ボルドー地方などという葡萄畑に囲まれたド田舎にいたっては、和食と中華の違いを知っている人間がいるかどうかさえ疑問だった。 おまけに、ここの郷土料理ときたら、ワインの産地という事もあり酒飲みが好きそうなコッテリとしたものばかり。 レストランに入り、胃に優しい料理ってありますか? と尋ねると、「そうですね。オムレツならメニューにはありませんが作って差し上げられますよ」

 

オムレツかああ~

 

やはり文化が違う。 オムレツは全然胃に優しくない!  パリであったならタイ、マレーシア、中華、ベトナム料理なんかのレストランがあるから、そこでヌードルや粥を頼めば良い、しかし、ここはボルドーだ。 こういう時、意外に日本人の胃に合うのは、レバノン料理!! 中東の料理なのに何故か胃に優しい。 あと、フランスは中東の移民が多いので、大抵何処へ行ってもレバノンレストランがあった。 残念ながら写真は残ってないし、偶然見つけたその店を再び偶然見つける事は二度とないだろう。 ただ忘れる事も無いと思う。 アラビアンナイトのような煌びやか造りのレストラン、100kgは超える巨漢のウェイターが日本語で「こんにちは」と言ってくれた事、 胃腸に優しい料理だけを選んでくれた事、食後に甘くて胃がスッキリするお茶をステンドガラスのようなレバノン食器に入れて出してくれた事、そしてそれが美味しいと言ったら、「明日、目が覚めたら飲むように」と茶葉を分けてくれた事を。 旅に病むと、故郷が恋しくなるのも事実だが、その土地に住む人の優しさが身にしみる事もあると思う。 そういえば、すっかり健康になった僕は、旅先で病む事がなくなった。また久しぶりに下痢でもして誰かに甘えてみたいような気もする。