現在一般的なトラス橋や鉄筋コンクリートの橋に対して、欄干を持たずに水の力を受け流す構造の冠水橋(沈下橋、あるいは潜水橋)などを柔構造の橋と呼びますが、柔構造側にもう一歩踏み込んだものが流れ橋です。
こちらは岡山県矢掛町に掛かる流れ橋。
![イメージ 1](https://stat.ameba.jp/user_images/20190929/11/dain-mizube/52/2a/j/o1008075614601958570.jpg?caw=800)
見た目は今までの冠水橋(地獄橋)をもう少し華奢にした感じですが、注目していただきたいのは単に橋板を渡しただけの単純な桁と比べれば、不釣り合いに頑丈なコンクリートパイルの橋脚という組み合わせです。
![イメージ 2](https://stat.ameba.jp/user_images/20190929/11/dain-mizube/ff/75/j/o1008075614601958575.jpg?caw=800)
こちらも同じく岡山県矢掛町にある桁が乗っていない状態の流れ橋の観月橋。
(残念ながら、奥に写る頑丈な橋脚のしっかりした橋が建設中のようなので、この橋はこのまま撤去される予定みたいです。今頃は撤去されているかもしれません)
![イメージ 3](https://stat.ameba.jp/user_images/20190929/11/dain-mizube/64/82/j/o1008075614601958581.jpg?caw=800)
こちらは荒川支流の高麗川にかかる流れ橋。
流れ橋にかならず付いている構造がこうしたワイヤー(場合によってはトラロープ、麻縄、鎖、など)などで、洪水で冠水したときには流れに逆らわず、それどころか流れに乗って桁を水面に流してしまうという大胆な構造を持っているのが『流れ橋』です。
写真では桁の側面に取り付けられた金具に通したワイヤーが、川岸に自生する樹木の幹に固定されています。
![イメージ 4](https://stat.ameba.jp/user_images/20190929/11/dain-mizube/de/1f/j/o1008075614601958584.jpg?caw=800)
こちらの流れ橋は付け根のコンクリート護岸に直接固定された金属の輪っかに固定されています。
このように川岸にワイヤーで固定されているため、流された後は水が引くのを待って、ロープやワイヤーを手繰り寄せて桁を橋脚の上に戻せば橋は元通りというわけです。
※実際には、上記岡山の流れ橋クラスになると人力で手繰り寄せるのはほとんど無理で、ユンボなどの小型重機で川に突入して、重機でもって桁を戻し、桁の破損箇所がないかを確認し、多くの場合は破損箇所が少なからず存在するのでそれを修繕して、初めて町道や市道(あるいは半市道で半私道)として共用されます。
流れ橋として最も有名なものは京都市内にある上津屋橋ですが、一度だけ訪ねる機会はあったものの寝坊して次回に回してしまいました。
その年の晩夏には洪水で橋が『流失』。
流れ橋では橋が流されたけれど戻せる状態を『流出』と言いますが、ロープやワイヤーでつないだ橋が、流されて失われることを『流失』と言います。
その後、地域のシンボルである上津屋橋は再建が決まりましたが、当時のWikipedia先生によると「流されない新工法で再建予定」となっていました。流されない流れ橋……って、それはすでに流れ橋ではなく、ただの冠水橋なのですが……実際のところはどうなのでしょうか?
ともあれ、京都の有名な観光名所ならいつでも見られるという考え方は、古い建築物には適用されないようです。
いつでも見られるだなんて、自分の甘い考えが悔やまれます。
こういった橋の起源が古いのか? 新しいのか? というのは微妙なところで、江戸時代には橋の管理役を決めていたり、持ち回りの担当者を決めて、川が増水した時には橋板を回収してしまって置いて、水が引いたら橋板を掛けなおすという形で運用されていたようです。
恐らくは、こうした江戸時代にも流れ橋の原型のような橋はあったでしょうが、ロープやワイヤーが水の流れに耐えるような強度を持った事と併せて、コンクリートパイルやコンクリート橋脚などの橋板が流されても破損することのない橋脚が作れるようになって、それで初めて流れ橋という橋の形態が十分なものになったものと考えられます。
広く使われるようになったのが昭和の初期で、現在も流れ橋文化は減少傾向にあり、先にあげた岡山にせよ、京都にせよ、徐々に消えていく過程にあるようです。
と、これは専門家でも何でも無い私の勝手な見解です。
最初に紹介した橋はそれなりの規模のものでしたが、ワイヤーが樹木に固定されたものではもう少し規模の小さな、町会レベルで管理されるものに見えますが、同じように個人で自宅前の川向こうの耕作地に渡るためだけに渡された橋や、沢向こうのお向かいさんの家を訪ねるための流れ橋など、流れ橋の中には更に簡易で、素朴なものもあるようです。
![イメージ 5](https://stat.ameba.jp/user_images/20190929/11/dain-mizube/8b/5e/j/o1008075614601958587.jpg?caw=800)
手持ちの写真の中ではこの辺りが精一杯のささやかなもの。
山間の土地の小さな沢や、必要だから家の前にトラロープ(黄色と黒の縞々のロープ)などで簡易に繋ぎ止めて、近場から大きな石を持ってきただけの橋脚を跨ぐ2~3径間ほどの流れ橋。
そうした橋も消えてなくなりつつあるようなので、ぜひともそんな橋を眺め歩いてみたいものです。
追記:
素朴な流れ橋がありそうな場所を岡山県内からピックアップして、GoogleMapやYahooMapの航空写真を眺め回して、実際に自転車で走り回ったことがありましたが、ほとんど不発に終わった経験があります。
やはり、地元の人からの情報でもないと、そうした素朴な橋を見つけることは難しいようです。日本国内であれば場所にはこだわりませんので、面白い流れ橋の情報があれば、教えていただけると非常に助かります。