何冊目の窪美澄さんかは、

もう分からなくなりましたが、

また違う新しい窪美澄さん、です。


5篇の短編集。


古い団地群を抱える寂れた町で、

暮らす主人公たち。


「トワイライトゾーン」

「蛍光」

「ルミネっセンス」

三篇の主人公は、50代,


自分の人生に退屈していて、

日常を繰り返していくことに、

つくづく倦いている。

もう人生を引き返せないところまで

きてしまった!という思い。


唐突に、

そこへ割って入る一筋の光のように

起きる出来事。

それがどうであれ、

この光を捕まえてみたい。

それが破滅に向かおうとも、

この退屈で窮屈な日常を

乗り越えられるなら…。


何となく分かるような気がします。

もうこれで、このままで、

自分の人生は、終わるんだろうな、

というような感覚でいたのに、

突然、頬を叩かれるように

起こる出来事。

最初は、ただの息抜き、気晴らしの

つもりだったのだけど…。


全力疾走のように、その光に向かって、

破滅に向かって駆け抜ける主人公たち。

怖いお話しです。


50代.、

確かに、諦めてしまうには、

早すぎるような、

やり直すには遅すぎるような、

微妙な年代ですかね?


私は、40代半ばからのやり直し中で

無我夢中だったけど💦

おまけに最後は、癌で締め括ったし😓



一編だけ、中学生の女の子が主人公の

ものがあります。


女の子、花乃は、

幼い頃に交通事故に遭い、

頬に消えない傷ができました。

そのことで両親は離婚し、

中学になると、

頬の傷が気味が悪い、

呪いだ、魔女だ、などと言われ、

いじめられるようになります。

それ以来、頬の傷は、

白いガーゼでいつも隠しています。


担任は、

学校が嫌ならば、

部活動は休んでもいい、

教室にいるのが辛いなら保健室に、と言い、

母も、学校は行かなくていい、

と言いますが、

それで、いじめが無くなるわけではなく…。


この町の古い団地には

祖父がひとりで暮らしています。

母親は、

幼い頃に厳しく暴力的だった祖父を

嫌っていて、

花乃が、母に代わって、

祖父の様子を見に行ったり、

家の掃除をしたりしています。


だけど偏屈な祖父は、

ほとんど口もきかず、

母が作って持たせた料理にも、

手をつけず、冷蔵庫で腐らせたりします。


ところがそんな祖父が、

花乃への虐めに気がつきます。


「魔女だ」と中傷したビラを

まいた子たちを捕まえ、

花乃に木刀を渡して、

「お前はどこも悪くない!悪いのは

こいつだ、気が済むまで叩け!戦え!」

と言います。

そして、

「花乃は魔女じゃない!お前を虐める者が

いたらおじいちゃんがやっつける。

死んだあとは化けて出る!」

と言ってくれます。


そうだ、私は魔女なんかじゃない!

いつだって誰かにそう言って欲しかった!


祖父は、それからすぐ、

団地の部屋で、亡くなりますが、

新学期、

花乃は、頬のガーゼをとり、顔をあげて、

学校に行きます。

おじいちゃんがついていてくれる!



この一編だけが、

とても明るく爽やかで、

暗くて怖い短編集の

清涼剤のような一編です。


窪美澄さんは、

本当にいろんなお話しを書く

作家さんですね。

まだまだいろいろ出てきそう!と

楽しみです。




今日から、寒くなるようです。

ここはどんなに寒くなってもいいから、

能登半島の寒さをこちらで

引き受けられたらいいのに、

と思うけど…。


29年前、1月17日。

阪神淡路大震災

あの朝の地震の大轟音の後、

窓が開いたままで外れて止まった

ベランダから見えたまだ暗い空と、

一瞬の間、

シーンと静まり返って音のしない

凍ったような外の気配を忘れられません。


昼過ぎになって、

大阪市の西の端にあった我が家の

前の道路で、

渋滞で動かなくなった消防車に、

近くのおばあさんが、

「早く消防車通してやって!

早く行かせて!早く行って!」

と叫んでいたのも覚えています。


輪島の火事を見ても、

倒壊した家を見ても、

あの時の神戸を思い出します。


もうどうしようもないけど、

せめて今避難している人たちが、

少しでも早く寒さを防げる環境に、

落ち着けますように。


どうやっても敵わない自然の災難に

呆然とするようです。