引き続き曽野綾子さん。

今読んでいるのは、手持ちになくて、ネットで今回新たに買い直したものなので、どれも再読ではありながら、ほぼ40年ぶりに読んでいます。

細部は忘れてしまっているので、新鮮で、あらためて引き込まれて読んでいます。


「いま日は海に」

主人公加陽子は、少女の頃から、母の友人の息子で、航空将校の西山大樹に、幼い恋心を持っている。

紺の軍服に金ボタン、白手袋に短剣の大樹は、宝塚の王子様のようで、加陽子には手の届かない燦然と輝く星のような憧れだった。

やがて終戦を迎え、大樹は無事帰還するのだけれど、飛行機で飛ぶことしか知らない大樹は、生きがいも張り合いもなくし、ただの平凡な狡い男になってしまう。加陽子には、それもわかっているのだけれど、それでもどうしても大樹を忘れることはできない。

大樹は、隣のお姉さん、虹と、駆け落ちのような結婚をするけど、それでも加陽子は、気持ちを断ち切ることは、どうしてもできない。

大樹の、空を飛びたい、という夢、それを叶えさせるためだけに加陽子は、生きていく。

大樹に弄ばれ、利用されているだけだとわかってはいても、それでも加陽子は、突き放すことはできない。

長い長い年月の末、やっとその思いがかなえられるかという直前、悲劇がおきる。


加陽子は、美人でもなく、頭もあまり良くない。

自分から人生を切り開いたりすることもなく、

ただ流されるまま、たどり着いたところで生きていく。卑屈になることもなく、与えられた仕事や、生活を淡々としていくだけ。

そして結局、それが一番強いのだ、ということが、

読み進むうちに、しみじみ感じられてきます。


愚かだということ、目立たないということ、は

確かに楽しいことではないけれど、

長い年月をかけてみると、

才気があり、華やかな者より、

安定していて強かったりする。

曽野綾子さんの本は、そんなふうな、

人生の不思議なカラクリのようなものを

いつも教えてくれます。