過酷過ぎる現場です。
かなり長いので現場作業員さんの待遇のあたりだけコピーします。
前後はサイトでお読みください。
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原発収束作業の現場から ある運動家の報告
http://fukushima20110311.blog.fc2.com/blog-entry-54.html
―― 大西さんの会社は何次下請けですか?
大西: 3次です。
一番上の発注者が東電。その次が元請け。元請け会社は、東電工業とか、東芝、日立とか、鹿島建設、清水建設などの大手。その次が1次下請け。さらに2次下請・3次下請けは、ほぼ地元の企業。大熊工業とか、双葉企画みたいな名前で、原発周辺でだいたい組をつくっています。組というのは、いわゆる人夫出しですね。
「原発ジプシー」という言い方もありますが、原発労働者は、大部分が、定期点検で全国各地の原発を渡り歩くんですけど、日雇い労働者だけではなくて、それぞれの地元の住民です。
福島や新潟や福井の原発周辺の住民が、原発労働で全国を巡り歩いているのです。そうやって巡り歩く労働者を受け入れる先が、1次・2次の下請け企業です。さらに1次・2次の下請けが抱え切れないというか、すぐに雇用できて、すぐに使い捨てできるような形の3次・4次の下請け会社がたくさんあります。
一番の末端では、親方が2~3人を連れて、現場を移動していく形になっています。福島の中でも移動していくし、定期点検で人が足りなくなったら全国の原発に人を出していく。ということをやっていますね。
―― 大西さんの会社の規模は?
大西: うちの組は10人ぐらいですね。社長も含めて親方が3人です。親方が寄り集まって会社をつくっているんで。それ以外の人たちは、入れ替わり立ち替わりという形です。
―― 組とは?
大西: 親方がいるところを組といいます。
班というのもあります。小さな会社が、別の3次・4次の下に入ったとき、会社自体が、「なんとか班」と呼ばれたりします。
結構、複雑です。東電の現地採用の人、元請けの現地採用の人、さらに下請けの会社の人。みんな学校の同級生なのです。地元の人で、顔見知りなのです。
そういう関係で、仕事を回し合うのです。上になったり下になったり、仕事がなかったら回してという具合に。だから、複雑になるわけです。
(久之浜の作業員宿舎は、プレハブ2階建ての宿舎が12棟。バスでの送迎があり、大きな食堂もある)
―― 人夫出しだと、私が知る範囲では地元の暴力団とかですが?
大西: 組というけど、暴力団ではないです。
僕の友人のいた会社の上は、たしかに暴力団が経営する人夫出しでしたが。
―― 下請けが3次4次5次と行くと、抜かれ方も酷いのでは?
大西: そうです。間に入れば入るほど、どんどん中抜きされていきます。建設労働はみんなそうなんですけど、原発労働はそれ以上。
例えば、東電が、「1人、1日、10万」で出したら、末端では1万5千円になるっていうぐらいの計算ですね。
―― 親方というのは待遇が違うのですか?
大西: それは「抜ける」ということです。親方になったら。
だから僕は親方になるのがいやなのです。
私の友人は、僕よりつらい仕事をやっても、日給8千円。僕よりも賃金は安かったんです。間に2人ぐらい抜く人がいたから。正式には3次かも知れないけど、実質的には5次みたいな会社だったようです。
―― 大西さんはいくらだったのですか?
大西: 9千円~1万円ですね。正規に3次でそうなります。
1次・2次がボコッと抜いているし、自分の親方もとっていますから。
―― そのことをめぐるいざこざは?
大西: ありますよ。あっちこっちで。刺したり、刺されたり。「危険なことだけやらせやがって」と。
ジプシーって言われるのは、そういうことも含めて、あちこちに移っていくからです。あそこがだめだったら次へと。
【取材コラム・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
良く行く飲み屋で、久之浜の作業員宿舎にいるAさんと、何度か会話をした。
Aさんは30代前半、北海道から、仲間と一緒に来ている。
仕事は、1Fの3号機のそば。作業用の道路を造り、配線などを敷設する作業。重機のオペレーターをしているという。
1日、1時間半ぐらいで終わり。「楽だよ」と言うが、線量が高いため。
日当は、1万2千円、プラス3~4万円の危険手当。
それでも、5次請けだから、「ハネて、ハネて」という感じだという。
ただ、Aさんの現在の被ばく量が35ミリシーベルト。たいていの人は、2カ月ぐらいで50ミリシーベルトに達して、それ以上、仕事ができなくなる。
Aさんも、もうすぐ終わりだ。そうしたら、今度は、10キロ圏内の除染作業の方に行こうと思っているという。
Aさんは、「東電さんはよくやっているよ」「いまの待遇に満足している」と、東電や鹿島を弁護していた。
ただ、「いまの被ばく量が35ミリと言われても、それが良いのか悪いのか。どう考えたらいいのかがわからないんだ」と、不安な気持ちを吐露していた。
Aさんは、北海道に彼女を残してきている。「この仕事が終わったら、帰って彼女とドライブに行くんだ」と話していた。
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(久之浜の作業員宿舎)
―― 労働基準法に照らして現場はどうですか?
大西: すべてダメです。一番最初の段階からダメですね。労働契約書は交わさないですから。人間関係だけで仕事がはじまります。
だから、賃金を払う段になって、何とかを引いて、何とかを引いてと。そうなると、「おい、それは聞いてないよ」ということが起こります。
例えば、東電は、泊まる人には食費を支給しています。だけどその食費をなぜか引かれてしまっています。
東電は、メシと風呂と寝ることに関しては「なし」(=会社持ち)としています。さらに、早出で朝飯が食えないとか、夜遅く帰ってくるから晩飯が食えないというときは、「その飯代も支給しますよ」となっています。
だから東電から元請けに食費としてお金が入って、それが1次下請け・2次下請けにいくんですけど、その段階で何故か消えてるんですよね。「あれ~?」って。それで大もめにもめてる人もいました。
それから交通費も。湯本から往復で100キロです。ガソリン代で千円から2千円が一日で飛んでしまいます。 だけどその交通費が込みになっていたりします。
ひどい話ですけど、それは、そもそも労働契約書を交わしてない時点に問題があるわけです。
悪徳企業
大西: でも、ちょっと次元の違う意味で酷いところがあります。企業名を言うと、アトックス(ATOX)という会社。
元の名前がすごいです。「原子力代行」。代行というのは、「原発における諸雑務、一番下の仕事に人夫出しをしますよ」ということです。
カタカナとかローマ字になっているからごまかされるけど、一番ひどい会社です。ある意味、東電以上。
樋口健二さんの写真集に、「雑巾掛けが一番あぶないんだぞ」という話が出てきますが、その作業をやっているのはアトックス。
―― どういう点が酷いのですか?
大西: 僕ら放管が、作業員をサーベイしていると、とにかく一番無防備で、危険な作業しているのが、アトックス。作業員の線量が一番高いのです。
知っている人は、みんな元請けがアトックスと聞いたら、その会社には行かない。アトックスの人に関しては、地元の人はいないです。
知らない人がアトックスに行く。東京のプレカリアート層になる。
普通に「寮付で、飯が食えますよ」と、雑誌とかホームページに出ている。
もちろん、危険な作業への従事についてなど、一言も書いていない。
たしかに、アトックスでは、技術は必要ないです。いまだに、雑巾掛けですから。
しかも、アトックスは、タイベックも着せないで、低レベルの放射性廃棄物を扱わせたりとかしていている。僕らだったら、危険作業に従事していることをわかっているから、低レベルでも放射性廃棄物を扱うときは、タイベックを着て、ゴム手袋を二重にはめて作業をするけど、アトックスの人は、綿の手袋だけで、タイベックも着ない。そういうことを知らない。もしくは、下手するとゴム手袋とかタイベックを着ることを禁止されてるかもしれない。分からないけど。
だから、放管として、一番気をつけているのは、アトックスの作業員。
他の作業員は、タイベックを着ているから、それを脱いだら、そんなに線量は高くない。だから、そんなに詳しくはやらない。だけど、アトックスの作業員だけは、どの放管も、とにかく、袖口とか、一番汚れやすいところを厳しくやって、すぐに水で洗うようにとか、アドバイスをしています。
(いわき市内にあるアトックスの「福島復興本部」)
◇労働条件引き下げの先兵
大西: 原発専門で人夫出しをしたら儲かるということで、1980年代の派遣法改正のときに、真っ先にそれに目を付けたのがアトックス。それがいまや、日本では一番大きい人夫出し業者。全国区で展開している。
発注元が東電だとすると、元請けが東芝とか日立とかで、その下の1次下請けになる。1次下請けの立場で、全ての業務をこれから抑えようとしている。
人をシステマティックに集めるノウハウを持っているからですね。
ヤクザなんかとかは違う。数年前に問題になった人材派遣会社のグッドウィルみたいな感じと言えば、イメージが浮かぶのでは。
とにかく労賃がむちゃくちゃ安い。そして、元請け企業には、格安で受注しています。タイベックスを着なければ、それで経費が浮きますから。
実は、原発労働者の労賃が、すごくディスカウントしているけど。アトックスの影響がものすごく大きい。
あらゆる元請けに、アトックスが入り込もうとしているので、そのおかげで、どんどん労賃が下がり続けている。除染作業は、アトックスがほぼ独占しようかという勢い。
だから、除染というと、単価の話になって、安ければ安いほど良いかもしれないけど、実は、それが原発の被ばく労働の単価をどんどん押し下げている。
結局、アトックスが、賃金の面でも防護策の面でも、労働基準法や放射線障害防止法の壁を取っ払う役割を果たしている。
冷血ですよね。次から次へと供給できるから、労働者を使い捨てにしている。アトックスの働かせ方は、危険だと感じています。
―― アトックスに雇われている人たちは都市の若年層ですか?
大西: そうですね。一番若いです。ほぼ全員二十歳代。
現代の縮図みたいです。
地元の人はほとんどいない。
現場でも、アトックスの人だけ孤立してますね。かわいそうですよ。
しかも、他の下請けに行ったら、しばらくいればある程度の技術なりが身につくでしょうけど、アトックスにいたら技術も身につかないですから。何年やってもふき掃除、何年やってもごみ片付けです。
―― アトックスの実態はマスメディアには知られてない?
大西: 知られてないでしょう。
――労働運動では?
大西: 多分、僕しか知らない可能性が。原発労働者の間では有名ですよ。アトックスって言ったらもう「あんな危険なことさせてるよ」とか「あそこの除染作業をあんなダンピングの価格で請け負っちまって、おれらどうすりゃいいんだよ」とかね。
【Ⅲ】 地元労働者と新たな貧困層
(湯本の温泉街。人通りはまばらだ)
―― 先ほども少し出ましたが、収束作業に携わっている人たちはどういう人ですか?
大西: 原発労働者の出身は、ほとんどが原発立地周辺の市町村です。いまも収束作業をやっているのは、泊、福島、柏崎、福井、浜岡などの人たちです。
僕の今の実感としては、8~9割ぐらいかなと思うくらい。
なぜそうなっているかというと、自分の地元だから何とかしないと、という気持ちがあります。それから、それで食ってきたから、それ以外の仕事ができない、ということもあります。二重の意味で、閉鎖的な環境で作業が行われているのです。
東京・首都圏という電力の消費地が、福島や新潟のような地方を、ある種の植民地にしたような状況にあると言えると思います。経済的に見ても、歴史的に見ても、東北というのは、低開発になるようにずっと強いられてきた。そういうところに、「雇用を生み出しますよ」という形で提示されたのが原発ということなのでしょう。
◇地元のつながり
大西: 現場にいて感じるのは、現場の労働者が、どの会社にいようと、東電であろうと、みんな顔見知りなのです。
小学校が一緒、中学校や高校が一緒、町が一緒という形で、みんなそこに住んでいる住民。だから、「あいつ同級生、あいつ後輩」という感じです。
東電についても同じです。地元採用枠というのがあって、一生、本社に出ることはなく、出世とは一切関係なく、地元の原発を動かしながら一生を終えるために採用される人です。
危険要員という面もあるでしょう。実際、東電の社員という一括りに非難するけど、いま一番危険な作業を行っているのは、実は地元採用の東電社員かもしれません。
危険な作業というのは、下請けだけではないのです。僕は、東電社員と一括りには、ちょっとできないなと思います。だって、「親戚の息子が東電」「知り合いの兄さんが東電」という具合ですから。
だから、現場では、同じ東電でも、地元採用の東電社員にたいする視線と、東京にいて指令を下すだけの東電社員にたいする視線は違います。
――現場で地元採用の東電社員は?
大西: 以前は、東電の社員というのは、ふんぞり返るのが仕事。作業はしない。地元採用でもそうでした。
地元採用の東電社員は、高校で一番とか、生徒会長をやったという人でしょう。現場で作業するのは、同級生でも「落ちこぼれ」の人という感じです。
いまでこそ、東電の社員も、僕らみたいな協力会社の社員にも、頭を下げて挨拶するようになりました。以前は、「おはようございます」と言っても、無視するのが当たり前だったのに。いまは、向こうから頭を下げて、「おはようございます」と言うんですよね。
(Jヴィレッジ直近のコンビニエンスストア。作業関係者で繁盛している)
◇新たな貧困層
―― 原発立地周辺の人以外だとどういう人たちですか?
大西: 後のことはどうなってもいいという人たちがいます。そういう人たちが、1カ月に何十ミリシーベルトも浴びても構わないという風になっています。
その人たちは、そうなった事情があって、借金を背負ったりで、「一攫千金を得たい」と。千金はもらえないんですがね。それでも、「普通の仕事の倍は稼ぎたい」という人です。
「危険だ。危険だ」と言われながら、その危険がどういうものかという知識を持っていない人、知らせられていない人たちです。
3・11以降、1Fを中心に、そういう新しい層が、危険も知らないで、飛び込んで来ています。
1Fの収束・廃炉の作業には、これから、数十万人、百万人単位の人が必要になります。そのとき、確実に言えるのは、新たな原発労働者の層は、プレカリアートといわれている人びと、貧困に陥った若年労働者になるでしょう。