「調子はどう?」
日本から海を隔てたアメリカの小さな村。
「今日はいまいち。ピアノの音がよく聞こえないんだ。」
ピアノの前に座り窓の外を見ている人がいた。
「雨が降るらしいからね。」
そう言って彼の肩に手を置いてカップを渡した。
「そうかもしれないね。
でも・・・
こういう日たくさんの音色が頭に浮かぶんだ。」
カップを受け取ってその人を見上げた彼の瞳は黒く・・・。
「まあほどほどにね。僕は仕事に行ってくるから。」
頬にかかる髪も真っ黒だった。
「夕方までには戻ってくるから。」
彼の頬に軽くキスをすると奥の部屋に消えた。
「今日は・・・ずっと雨・・・。」
彼はそう呟くと無意識に胸元にかかる・・・
クジラのネックレストップを握りしめた。
「じゃあ行ってくる。何かあったら・・・すぐ連絡するんだよ?」
スーツに着替えるとその人は彼の頭を軽くなで・・・
「くれぐれも・・・
無理や我慢はしない事。
約束だよ、翔。」
そう言って部屋を出て行った。
「行ってらっしゃい、悟さん。」
そう呟きながらも・・・
翔はクジラを握りしめたままただ窓の外を見ていた。
雨は嫌い。
水が怖い・・・。
自分の事も何もわからない翔が・・・
唯一わかっている事だった。
「雨・・・好きじゃない。」
そう呟いた翔は・・・
そのままピアノの蓋を開けた。
何も考えずにピアノを弾いている時が・・・
一番落ち着くことができるから・・・。