病室を出ると、ちょうど叔父が歩いてきた。
「急にすみません。」
「かまわないよ。彼は君の患者なのかい?」
「ええ。病院を抜け出してどうしたものか沖縄にいる所連絡が入ってね。」
「大変だね。」
「仕方ないんです。家族からも見捨てられ、唯一自分を大切にしてくれた死んでしまったお兄さんを忘れられずに生きてるんですから。」
おじにそう説明して院長室に入った。
「あ、おじさんもし誰かが彼を探して訪ねてきても・・・
知らないと答えてもらえますか?」
鞄から葉山のカルテをテーブルの上においてそう言った。
「それはかまわんが・・・。」
「しつこく付きまとってる男がいるんです。どうやら警察にも力が聞くらしく、いくつも病院を転々としてるんですよ。」
テーブルの上に置いたカルテを手にしたおじは
「これは大変だね・・・わかった誰にも言わないように伝えておこう。幸い今の所看護部長以外誰も彼の存在は知らないからね。」
そう言って笑った。
「よろしくお願いします。僕も数日は休み取れたのでここにいますので。」
一礼をして俺は院長室を後にした。
あのカルテは俺が偽造したもの。
通ったとされる病院の紹介状も偽装で治療結果も偽造。
その位たやすい事だった。
葉山が俺の事を信じるようにする。
それが今の俺には一番大事なことだった。
外部からの情報を入れず、バイオリンの事も忘れさせる。
信じられるのは俺だけ・・・。
「崎義一、今のうちだ、お前がそうしていられるのも・・・。」
切り札は・・・
お前の大切な駒はここにあるんだから。