患者数が20年間で2倍以上増えた「膵がん」 特に気をつけたい3つのリスク因子 遺伝、糖尿病、あと1つは?

中寺暁子 によるストーリー

 • 8 か月 

2024.6.25

 

早期発見が難しく、診断されたときにはすでに手術ができないケースが多い膵(すい)がん。しかしがん薬物治療の進歩などによって、近年は手術ができる人、治る人が増えてきています。膵がんになりやすい人や気をつけたい症状、治療の進歩などについて、解説します。

 

 本記事は、2024年2月下旬に発売予定の『手術数でわかる いい病院2024』で取材した医師の協力のもと作成し、先行してお届けします。

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 2019年に膵がんと診断された人は、4万3865人(男性2万2285人、女性2万1579人。「国立がん研究センターがん情報サービス『がん統計』全国がん登録」)。2000年には約2万人だったので、20年の間に2倍以上増えていることがわかります。

 

膵がんは高齢になるほどかかりやすくなるので、人口の高齢化による影響はありますが、その影響を除いたデータ(年齢調整罹患率)でも、増加していることがわかっています。高齢化の影響を除いた死亡率をみると、がん全体では減少していますが、男性では膵がんの死亡率だけが増加しています。40年近く膵がんの手術を専門としている、県立静岡がんセンター総長の上坂克彦医師も「驚くほど増えている」と話します。

 

「人口の高齢化以外の明らかな原因はわかりませんが、膵がんの危険因子を考えると、生活習慣の影響があるのではないでしょうか」

 

 膵がんの危険因子としては、喫煙や飲酒、肥満などがありますが、上坂医師が強調するのは三つの危険因子です。

 

「一つは生活習慣病の代表である糖尿病です。『鶏が先か、卵が先か』の議論もあるのですが、糖尿病の人は膵がんになりやすく、膵がんの人は糖尿病になりやすくなります。健診などで指摘されたことはなかったのに突然糖尿病と診断された、もしくはすでに糖尿病を発症していて急に悪化したという人は、膵がんを発症しているサインかもしれないので、要注意です。糖尿病の人は、定期的に膵臓をチェックしてもらうことも大事です」

 膵臓は食物の消化に関わる膵液を分泌するほか、血糖値を調節するホルモンである、インスリンを分泌する働きがあります。膵がんが発生すると、インスリンを分泌する働きに影響が出て、急に糖尿病を発症したり、悪化したりすることがあるのです。また、糖尿病の人はそうではない人に比べて、膵がんになる確率が約2倍になるとも言われています。

 

 二つ目が膵臓にできる「のう胞(液体のたまった袋)」です。

「膵がんの多くは膵管の細胞ががん化してできます。膵臓に膵管内乳頭粘液性腫瘍という、のう胞状の腫瘍ができると、それ自体ががん化したり、膵管内乳頭粘液性腫瘍がない部分の膵臓に膵がんが発生したりするリスクが高くなります。のう胞は、人間ドックなどで受ける腹部の超音波検査で見つかります。のう胞が見つかればCTやMRI検査で詳しく診て、膵管内乳頭粘液性腫瘍と診断、もしくはその疑いが強ければ3~6カ月後に再度確認し、その後も定期的に経過を観察していきます」

 

 三つ目は遺伝で、特に両親、兄弟姉妹、子どものうち、いずれかに膵がんになった人がいる場合です。2人以上いる場合は「家族性膵がん」といって、膵がんを発症するリスクがさらに高くなります。この場合、どのくらいの頻度で、何の検査を受ければいいのかというところまでは確立されていませんが、定期的に超音波検査などで膵臓をチェックしてもらうと安心です。

■危険因子に注意していれば早期発見の可能性が高くなる

 上坂医師が三つの危険因子を強調するのは、これらのことに気を付ければ、膵がんを早く見つけられるかもしれないからです。膵がんを治す最も有効な方法は、手術です。しかし膵がんと診断された時点でがんが進行していることが多く、手術ができるのは2~3割程度。早期発見のための効果的な検診方法がなく、痛みなどの自覚症状が出て受診したときには進行しているケースが多いのが現状です。

 

 ただし、自覚症状の中でもからだが黄色くなる黄疸(おうだん)で見つかる場合は、手術ができる段階であることもあります。膵臓の中でもからだの右側、十二指腸に接している膵頭部にがんができた場合、胆汁の流れが悪くなり、血液中に胆汁があふれ出て黄疸になるためです。

患者数が20年間で2倍以上増えた「膵がん」 特に気をつけたい3つのリスク因子 遺伝、糖尿病、あと1つは?

患者数が20年間で2倍以上増えた「膵がん」 特に気をつけたい3つのリスク因子 遺伝、糖尿病、あと1つは?© AERA dot. 提供

■術前・術後の抗がん剤治療によって、生存率が上昇

 超音波検査や血液検査の「血中膵酵素、腫瘍マーカー(CEA、CA19-9など)」の値などによって、膵がんが疑われたら、CTやMRI検査、超音波内視鏡検査(先端に超音波画像装置がついた内視鏡を使用する検査)を受け、組織を採取するなどして診断します。

 

 膵がんの治療では、まず画像から「手術可能」「手術可能境界」「手術不能」に分類し、手術ができるかどうかを検討します。がんの大きさのほか、主要な血管を巻き込んでいないか、肝臓などに転移がないかどうかといったことが判断の基準となります。手術可能境界とは、手術が可能か、不可能かのボーダーラインのことで、手術をしたとしても、わずかにがんを取り残す可能性が高い状態です。

 

 膵がんの代表的な手術である「膵頭十二指腸切除」は、膵頭部のほか、十二指腸、胆管、胆のうとともに周囲のリンパ節や神経を切除したのち、膵臓や胆管を再建する大がかりで難度が高い手術となります。一方「膵体尾部切除」は、からだの左側にある膵尾部や膵体部、脾臓を切除する方法で、再建の必要がないので膵頭十二指腸切除に比べると難度が低く、近年は腹部に小さな穴を開けて手術する腹腔鏡手術やロボット手術も導入されています。

 

 膵がんは手術ができても、術後に再発するケースが少なくありません。しかし、薬物療法の進歩によって、手術後の5年生存率が大きく伸びています。

「約10年前から『S-1』という抗がん剤を術後に半年間使用することがスタンダードになり、術後の5年生存率が20%程度だったところから、40%以上にまで伸びました。2019年には術前にも抗がん剤治療をすることで、さらに生存率が上がることがわかり、術前の抗がん剤治療も広く実施されるようになってきました」(上坂医師)

 

 また、切除可能境界の場合でも、術前に抗がん剤単独、もしくは放射線治療を加えることでがんを取り残さずに切除できる確率が高くなり、その場合は最初から切除可能と診断されて手術をしたケースと同程度の5年生存率になることがわかってきています。さらに手術不可能と診断されても、抗がん剤治療によって手術ができるようになる例も少しずつ増えています。

 

「治療が進歩し、選択肢が増えたことで、膵がんになっても治る患者さん、長生きできる患者さんが着実に増えています。膵がんと診断されても諦めずに自分のがんの状況、治療方針を医師からよく聞いて、しっかり治療を受けてほしいと思います」(上坂医師)

(文/中寺暁子)

【取材した医師】

県立静岡がんセンター総長 上坂克彦医師

 

大好調の意見

 膵癌は恐ろしい。この記事を参考に、予防、早期発見・治療に努めたいです。