新NISAの裏で進む「金融所得課税」強化…富裕層を狙い撃つ、令和8年度税制改正〈ミニマムタックス〉の最新ルール【税理士が解説】
THE GOLD ONLINE によるストーリー
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2026.8.11
日経平均が最高値を更新するなか、投資で利益を得る人が増えています。その一方で、こうした利益を上げた人を狙い撃ちにするかのように、金融所得への課税強化が進んでいます。とりわけ「ミニマムタックス」の導入と基準の厳格化により、超富裕層だけでなく、M&Aで会社を売却する中小企業の経営者までもが、突然多額の税負担を強いられるリスクがあります。本記事では、税理士法人グランサーズ共同代表の黒瀧泰介氏が、富裕層を狙い撃ちする「ミニマムタックス」のルールとその対策について解説します。
金融課税を巡る「1億円の壁」問題
現在の日本の税制において、役員報酬をはじめとする給与所得や事業所得は、稼げば稼ぐほど税率が上がる「総合課税」が適用されており、最高で55%(所得税45%、住民税10%)の税金が課されます。一方で、株の売却や配当による金融所得は分離課税となり、一律約20.315%(所得税15%、住民税5%、復興特別所得税0.315%)に設定されています。
この仕組みにより、年間所得が1億円を超える層では、収入の大部分を給与ではなく金融所得が占めるようになるため、所得が増えるほど実質的な税の負担率が下がっていくという現象が起きています。これが「1億円の壁」と呼ばれる問題です。こうしたなか、少子高齢化に伴う財源確保と、1億円の壁により労働者の税負担が重いという不公平感を是正する目的で、政府は近年金融所得への課税を強化する動きを本格化させています。
富裕層を狙い撃ち…令和8年度税制改正で「ミニマムタックス」対象者が拡大
この課税強化の具体策として導入されたのが「ミニマムタックス」です。直訳すると「最低税率」を意味し、富裕層に対し最低限の税負担を求めるもので、2025年分の所得税からすでに適用が開始されています。
ミニマムタックスは、「基準所得金額から3億3,000万円の特別控除を差し引き、22.5%の税率をかけた金額」と通常の所得税額を比べて前者のほうが大きい場合、差額を追加で納める仕組みです。対象者は金融所得が10億円規模の超富裕層に限られていました。
しかし、2026年の税制改正により、この基準がさらに厳格化されることが決定しています。計算式の特別控除額が3億3,000万円から半分の1億6,500万円へと引き下げられ、税率も22.5%から30%へ引き上げられます。
これにより、2027年分の所得からは対象者が金融所得3億円台にまで広がる見通しです。
過去の消費税や相続税の歴史が示す通り、新しい税制は一度導入されると基準が徐々に引き下げられ、対象者が拡大していく傾向にあります。将来的に対象が1億円や5,000万円にまで引き下げられ、最悪のシナリオとして金融所得がすべて「総合課税化」されれば、最大55%の税率が課されるリスクも否定できません。
経営者も他人事ではない…M&Aによる売却で数千万円を失う可能性も
この制度変更は、中小企業の経営者にとっても決して他人事ではありません。普段は対象外であっても、M&Aで自社の株式を売却した年や、含み益の大きい不動産を売却した年には、その年だけ一気にミニマムタックスの対象となる可能性が高いからです。
売却を検討している人にとって重要なのがタイミングです。この改正は「2027年分」の所得から適用されるため、2026年中に売却するか、2027年以降にズレ込むかによって、手取り額が数千万円単位で変わる可能性があります。
所得が10億円となる場合、差額が約1億円です。制度の施行を見据え、売却のタイミングを慎重に見極めることが重要です。NISA・退職金・税制優遇…資産を守るための「3つの防衛策」
この増税リスクから資産を守るため、経営者が取り得る対策は主に下記の3つです。
1.NISA枠を最大限活用する
NISAで得た売却益や配当は現状、ミニマムタックスの基準所得金額の対象外です。したがって、1,800万円の枠を優先して使い切ることが確実な防衛策となります。
2.会社売却時の「退職金」の活用
会社を売るときや後継者に引き継ぐ際に株式の売却益として受け取ると、ミニマムタックスの対象となるリスクがありますが、「退職金」として受け取るスキームを組めば、手元に多くの資金を残せる可能性が高まります。
退職金には退職所得控除という大きな控除が適用され、さらに残額を半分にして税金を計算する優遇措置があるため、ミニマムタックスの影響を限定的に抑えることができます。
3.「法人版事業承継税制」の活用
「法人版事業承継税制」は、後継者へ非上場株式を贈与する際の贈与税を猶予・免除する制度です。この制度には現在特例措置があり、これを使えば厳しい要件が免除された状態で100%の猶予を受けられます。
ただし、この特例を利用するには2027年9月30日までに申請を行い、同年12月31日までに実際の贈与を完了させる必要があります。
ここまでみてきたように、ミニマムタックスはM&Aや事業承継を検討している経営者にとっても他人事ではありません。自身の会社の状況を俯瞰し、手取りを最大化するための対策を早期にとっていくことが求められます。
黒瀧 泰介
税理士法人グランサーズ共同代表/公認会計士・税理士
大好調の意見
「ミニマムタックスはM&Aや事業承継を検討している経営者にとっても他人事ではありません。」とのことであるが、庶民にとって他人事か。