世界最大の原発、柏崎刈羽再稼働で軋轢-エネルギー問題緩和期待も

小田翔子 によるストーリー

 • 8 時間 •

2024.5.29

 

  柏崎市と刈羽村にまたがる約420万平方メートルという海沿いの広大な敷地に建つ東京電力ホールディングスの柏崎刈羽原子力発電所は、かつて2030年までに原子力を電源構成の50%に引き上げようとしていた日本のエネルギー戦略の要とも言うべき存在だった。施設内にはギネス世界記録の証明書が掲げられ、この施設の総出力約820万キロワットが世界一であることを示している。

 

  施設全体では約1300万世帯以上の生活を賄うに十分な出力を持つこの原発は現在、電力を生み出していない。柏崎刈羽の7基の原子炉は、11年の東日本大震災に伴う福島第一原発の事故の後、停止したままだからだ。

 

  各地で原発が停止した結果、資源に乏しい日本は多大なコストを負っている。昨年の石炭や液化天然ガス(LNG)などのエネルギー資源輸入額は約27兆円。日本の家庭や企業は、電力消費のピーク時に節電に追われるようになった。化石燃料への依存にもつながり、気候変動への対応という公約を手の届かないものにする恐れも出ている。

 

  現在、日本が半導体工場やエネルギーを大量に消費する人工知能(AI)データセンターの誘致などを通じて経済成長を目指す中、福島の原発事故を防ぐことができなかった東電HDに原発の再稼働を許すべきかについての議論が活発化している。

 

  原子力見直しの機運が高まっているのは日本だけではない。国際原子力機関(IAEA)は、想定シナリオの一つで原子力による発電容量は22年の水準から30年までに24%、50年までに140%増加すると予測する。少なくとも15カ国が新しい原子炉を建設中であり、その筆頭が中国だ。インドは30年代初頭までに原子力発電能力を3倍にしたいと考えている。石油大国のサウジアラビアも民生用原子力プログラムの構築についてアメリカと協議中だ。

 

  しかし、休止中の原子炉を再稼働させることは政治的にも難しい。

世界最大の原発、柏崎刈羽再稼働で軋轢-エネルギー問題緩和期待も

世界最大の原発、柏崎刈羽再稼働で軋轢-エネルギー問題緩和期待も© Photographer: Shoko Oda/Bloomberg

エネルギー基本計画

  柏崎刈羽の2基の原子炉は17年に国の原子力規制委員会から運転再開の認可を得たものの、地方自治体の認可が得られていないため同社は運転再開の時期を定めていない。柏崎刈羽の本拠地である新潟県議会定例会は来月開かれる予定で、そこで再稼働を支持するかどうかが議論される可能性が高い。

 

  柏崎刈羽の今後を巡り膠着(こうちゃく)状態となっている中、政府はエネルギー基本計画の見直しに着手した。このプロセスはおおむね3年ごとに行われ、経営者や学者、政治家、業界団体などで構成される委員会では原子力による発電割合の目標などについて議論する。日本がクリーンエネルギー促進のために十分なことをしていないという不満についても判断材料となるとみられる。

 

  日本にとって新しい電力供給源が必要ということに議論の余地はほとんどない。ロシアによるウクライナ侵攻や中東での紛争は、発電量の70%を占める化石燃料に頼ることのリスクを浮き彫りにした。そうした中で、全国で21基の原子炉が未使用のまま放置されている。

 

  東電HDの小早川智明社長は4月の記者会見で1日でも早い再稼働が望ましいとした上で、「本質的には海外の輸入に頼らない、一定の割合をつくることが重要と考えている」と述べた。

 

  日本では東日本大震災以来12基の原子炉が再稼働しているが、東電HDの管理下にある柏崎刈羽の再稼働には特に象徴的な意味合いが強い。

元日の地震

  東電HDは安全上の懸念に適切に対処してきたと主張する。同社のウェブサイトには、柏崎刈羽で取り組んでいる対策が掲載されている。その中には、高さ15メートルの防潮堤や洪水防止壁の設置、緊急時に原子炉を冷却するための施設の建設などが含まれる。

 

   だが、能登半島地震により、地元住民らは原発のリスクを再確認したという。

  新潟県議の土田竜吾氏はインタビューで、元日に起きた地震により「まさに複合災害の時の避難が目に見えた」と述べた。土田氏は地震が多い日本では原子力利用はやめるべきだと話す。地震で家屋が倒壊した場合、住民が放射能の影響から逃れるために身を隠せる場所がないかもしれないという点を懸念しているという。

 

  柏崎市の桜井雅浩市長はインタビューで、原発については「推進の立場に身を置くとは言ったことがない。あくまでも容認の立場」だと述べた。柏崎や日本全体のためにも他の代替エネルギーへの移行が可能になるまでは、原子力の利用を受け入れるべきだというスタンスだという。桜井氏は、柏崎刈羽の6、7号機の再稼働に価値があると認め、その他の原子炉に対しては1基以上の廃炉計画を明確にするよう、東電HDに求めた。

原子炉新設も

  ブルームバーグNEFのアナリスト、オニール萬里子氏らは2月1日付のリポートで、政府の30年のエネルギーミックスにおける原子力比率20-22%という目標達成のためには認可待ちの全10基の原子炉を稼働させる必要があると指摘した。そして、これらの原子炉のほとんどは寿命が限られている。

 

  同リポートでは今後10年以内に現在の原子炉の半分が認められた運転期間の期限を迎えるとの見通しを示し、政府は再稼働を加速させる以上のことをしなければならないだろうとした。

 

  日本の電力会社は、原子炉の新設が必要と指摘している。電気事業連合会の副会長が4月、政府に対して投資の指針となる明確な政策を求めた。

 

  新潟市郊外に創業125年の酒蔵を構える笹口孝明氏(76)は、東北電力が原発建設を計画していた新潟県の巻町長を務めていた。笹口氏は仲間とともに計画の是非を問う住民投票を求める草の根運動に取り組んだ。その結果、住民の多くが反対票を投じ、03年に計画は廃案となった。

 

  笹口氏は、柏崎刈羽の再稼働については新潟県民にも投票で決める権利が与えられるべきと考えているという。原発再稼働には「新潟県民全部の生命、 財産、 健康、 生活がかかっている」ため、知事や県議会だけで決められる問題ではなく「県民に信を問うべき」と話した。

10月再稼働予測も

  しかし、再稼働に向けた動きは進んでいるようだ。経済産業省は3月に村瀬佳史エネルギー庁長官を派遣し、花角英世知事と再稼働について話した。

  そして東電HDは、柏崎刈羽の7号機に核燃料を装填(そうてん)する作業を完了した。ブルームバーグNEFは、日本での過去の原発再稼働例を分析し、10月にも柏崎刈羽7号機が再稼働されると予測している。

 

  柏崎刈羽を巡る状況は、多くの国が直面している健康や安全への懸念と、国のエネルギー需要や気候変動目標とのバランスを取ることの難しさを浮き彫りにしている。

  柏崎市の桜井市長は、少なくとも柏崎刈羽の原子炉の一部が再稼働することにメリットとデメリットの両方があることを認めている。

 

  桜井氏は原発事故による放射能への懸念がある一方で気候変動による熱中症や洪水、山火事など現実の脅威もあり、それらと戦うためにも「原発はまだ必要」との考えを示した。

 

大好調の意見

 東電には過去の様々な失敗を鑑みてみれば原発を安全に運転する能力はないと信ずる。とぉろで不思議に思うことがある。あれだけ原発反対のリベラル勢力が全く音なしの構えであることである。