若者の賃金が上がらない日本に巣食う「魔物」の正体…!ライドシェアもPCR検査も骨抜きにした「逃げる日本」とエリザベス女王の「決定的な違い」

原田 泰(名古屋商科大学ビジネススクール教授 元日本銀行政策委員会審議委員) の意見

 • 3 時間

2024.5.22

 

移民議論から見えた!経済成長の「新しいやり方」

アメリカのバイデン大統領が2024年5月1日、アジア系アメリカ人の集会で行った発言は、衝撃的なものだった。

「アメリカ経済の成長は移民を歓迎しているからだ。なぜ中国の経済がひどく低迷しているのか。なぜ日本が困難を抱えているのか。なぜロシアやインドもそうなのか。それは外国人嫌いで、移民を望んでいないからだ」

 

前編「「賃金」が上がらないのは「日本に移民が来ないから」ではなかった…!バイデンに揶揄された「外国人嫌い」の日本が忘れていた「最も大切なこと」」では、バイデンの発言を受けて移民政策に本当に効果があるかどうかを検証した。

 

移民が来ることで、低賃金の分野では働き方の改革が起こらず、旧態依然とした非効率な働き方が残り生産性は必ずしも上昇しない一方、日本人が高い賃金の分野で働く可能性が増える。また、優秀で新しい考え方や手法を持つ外国人労働者を入れることで生産性が上がることもあるが、彼らが日本に留まり経済に大きな貢献をしているかといえば、これもまた疑問が残る。

 

移民の経済的な貢献が、新しい考え、新しいやり方を持ち込む人による生産性の上昇だと考えた場合、生産性を上げる主体とは移民ではなく新しい考え方、新しいやり方の方だということが見えてきた。

つまり、移民労働者を入れるよりも大切なことは、「新しいやり方」を取り入れることということになる。

それは何か。たとえばウーバーである。

「新しいやり方」から逃げる日本

米企業のウーバーは個人がITによって直接需要者と結びつき、タクシー同等のサービスを行うビジネスを展開する。このビジネスは「ライドシェア」と呼ばれ、アメリカでは2009年に本格的に導入された。

 

先日アメリカ旅行中、ボストンでウーバーに乗ったが、運転手はアメリカに17年いるという中国人だった。今まで中国料理のコックをしていたが、コロナで失職し、それ以来ウーバーの運転手をしているとのことである。

ウーバーが地図に英中(簡体字、繁体字)韓スペイン語で表記されるソフトを提供し、極めて便利とのことである。あまり英語がうまくないが、それでも十分に運転手の仕事をできている。

 

こうしたライドシェアの仕組みは欧米やシンガポールなどで導入が進んでいる。

ところが、日本はこの「新しいやり方」からとことん逃げているのである。

日本でも本年度にライドシェアが「解禁」されたと宣伝されている。

 

しかし、これはライドシェアとは似ても似つかぬ仕組みである。営業主体は個人ではなくタクシー会社であり、事業を行おうとする個人はタクシー会社への登録が必要だ。タクシー会社にウーバー機能を代替する合理的理由があるとは思えない。

ライドシェアに反対するタクシー業界に配慮した妥協の産物であり、新しいやり方を取り入れたとはまったく言い難い。

コロナでも「古いやり方」にこだわった日本の行政

このように日本では「新しいやり方」からとことん逃げてしまう傾向がある。それは、信じがたいことに国民の命が危険にさらされる世界的パンデミックの最中でも同じだった。

 

コロナ禍の時代に、日本だけがPCR検査数が極端に低かったことを読者は覚えておられるだろうか。なぜ少なかったかと言えば、手作業でしていたからだ。検査をピペットで手作業でやっていれば、1日何百万回なんてできやしない。

 

当時、「日本生まれ「全自動PCR」装置、世界で大活躍、 なぜ日本で使われず?」(TBS NEWS23 2020年06月29日 https://www.youtube.com/watch?v=341BaeFmSOw)というニュースをTBSが報道していたが、機械でやることを厚生労働省が邪魔していたからだ。この自動機械は日本製で、全世界で使われているのに、厚労省は機械の導入を遅らせた。私は、これは厚労省による機械打ち壊し運動(ラダイト運動)だったと思う。

 

一方、韓国は、コロナに対してすぐさま自動機械で大量検査をした。検査の生産性は日本の100倍以上だろう。韓国では、あらゆるところでこのような生産性の上昇が実現している。だから、全体として生産性が上がり平均賃金は日本を追い抜いた。

逃げてはいけない

『ザ・クラウン』(Netflix)というエリザベス2世と戦後のイギリス史を描いたドラマがある。

1967年のポンド切り下げ時の話だが、エリザベス女王が王室の厩舎の競走馬が昔はレースで優勝したのに、近年は成績が振るわないことを嘆く場面がある。それで女王はどうしたか。

フランスとアメリカの厩舎を訪ね、彼らが科学的方法で競走馬を育成していることを知る。イギリスも、学ばなければならないと言って、旧態依然の厩舎のトップをすげ替え、新しいトップを任命する。

 

女王は、海外の最新の方法を知った新しいリーダーが必要だと認識したのだ。

ありあらゆるところで、政府が新しいやり方を邪魔していては経済が困難に陥るのは当然だ。外国人がするか日本人がするかは大した問題ではない。

新しい方法を取り入れることが重要なのだ。

 

さらに連載記事「サンデーモーニング「関口宏の発言」にうんざり…佐々木麟太郎の「米名門大学進学」を批判する「昭和の空気」が、日本のスポーツをダメにした!」でも、日本に巣くう「魔物」に迫っていこう。

 

大好調の意見

 「しかし、これはライドシェアとは似ても似つかぬ仕組みである。営業主体は個人ではなくタクシー会社であり、事業を行おうとする個人はタクシー会社への登録が必要だ。」との指摘には同意したい。

 

初めてライドシェア導入の制度の説明を聞いた時には、これでは気楽にライドシェアなんてできないではないか。タクシー業界からの献金が効いたなと思ったものである。確かにビ本のやり方は、もし事故が起きた時にはどうするなどを考えた結果であるが、それでは個人営業ではなくなっている。

 

これが日本の魔物なのかもしれない。