“ウクライナに武器支援”英国が新たな段階へ 仏大統領も派兵に言及 欧州の危機感

テレ朝news によるストーリー

 • 6 時間

2024.5.20

 

英国は、ウクライナに供与した武器を対ロシア向けに使用を容認することを示唆した。フランスのマクロン大統領も「あらゆるオプションを排除しない」と発言しており、ロシア優勢下の状況で、欧州各国の首脳陣の姿勢に変化が出てきている。

 

1)ロシア優勢に強まるヨーロッパの危機感 イギリスの支援は新たな段階へ

プーチン大統領は、5月9日の戦勝記念日での演説で、「ナチ継承者の正当化などは西側エリートの共通政策だ。ロシアは全面的衝突を防ぐため、あらゆる努力を尽くし、我々を脅す者は誰も許さない。我々の戦略的な力(核部隊)は常に戦闘状態にある」と述べた。

 

こうした発言の背景には、欧州首脳が、ロシアに対しこれまでにない強硬な姿勢を見せ始めている現状があるとみられている。

 

イギリスのキャメロン外相は5月2日、ウクライナに供与した兵器について、「ウクライナ人がどのような行動を取るかについて、我々の見解では、支援した兵器をどのように使うかは彼らの判断であり、我々は、注意事項は何もつけません」と述べた。

 

さらに記者から「ロシア領内への使用も含めてか」と問われ、「それはウクライナが決めることだ。そして、ウクライナにはその権利がある」と応じた。

多くのメディアはこの発言について、イギリスが供与した兵器をロシア領内に向けて使うことを容認したと受け取った。秋元千明(英国王立防衛安全保障研究所日本特別代表)氏は以下のように分析する。

 

最近、フランスのマクロン大統領が、「部隊をウクライナに出す。あらゆるオプションを排除しない」という発言をしており、イギリスも同じ立場をとり始めたということだ。

西側は、これまでエスカレーションを防ぐために抑止的な姿勢だったが、この2年間、弱さを見せることがかえって状況を悪化させてきたという側面がある。

 

しかし、NATO加入国で核も保有するフランス軍がウクライナに入ったら、ロシア軍が攻撃できるか疑問が残る。ウクライナが、イギリスの供与したミサイルでロシア領内の軍事施設を攻撃したらエスカレーションが起きるというのも西側が懸念しているだけだ。プーチン氏は西側の懸念を捉えて強気な発言を行っている。

 

エスカレーションを恐れ、自己規制的な戦略をとるより、“あらゆるオプションはあり得る”という堂々とした姿勢をとろうとマクロン大統領が示し、イギリス側も足並みをそろえてきている。

プーチン大統領はこの状況をどう考えているのか、小泉悠(東京大学先端科学技術研究センター准教授)氏は、以下のように述べた。

 

アメリカが援助再開を決め、マクロン大統領やキャメロン氏の発言など、欧米は強気に転じている。プーチン氏は、それなりに面白くなく思っているのではないか。

戦争開始から2年間、ロシア側は、西側が軍事援助を行ったことに対して、何らかの軍事的報復を加えると言い続けてきた。その牽制が効かなくなれば、さらなる強烈な脅しをかけなければならなくなる。最近のロシアの戦術核部隊の演習指示や、プーチン氏が戦勝記念日の演説の開始早々に戦略核戦力の話をしていることもその現れと見る。ロシアは西側の変化に対して、核の牽制をかけてきた、ということではないか。

2)ウクライナが敗北すれば、ロシアは欧州で戦争を拡大させる?

欧州の首脳からは、ウクライナが敗北した場合、ロシアは欧州で戦争を拡大させるのでは、と懸念する発言が相次ぐ。

 

イギリスのスナク首相は4月23日、「ロシアの残忍な野心からウクライナを守ることは、我々の安全保障とヨーロッパ全体にとって不可欠だ。もしプーチンがこの侵略戦争に成功することを許せば、彼はポーランド国境に留まることはないだろう。」と発言した。

 

フランスのマクロン大統領は、5月2日のエコノミスト誌のインタビューに「もしロシアがウクライナで勝てば、欧州の安全保障はなくなる。ロシアがそこで立ち止まると誰が考えるだろう?他の近隣諸国、モルドバ、ルーマニア、ポーランド、リトアニアなどには、どんな安全があるのか?」と答えた。

 

 秋元千明氏(英国王立防衛安全保障研究所日本特別代表)は、以下のように分析する。

アメリカが数ヶ月間援助を停止したことで、欧州各国はアメリカに依存し過ぎてきた現状を反省し、アメリカ抜きで欧州の安全保障に対処しなければならないという意識が芽生え、ロシア脅威論にさらに火がついたという側面があるのではないか。

 

NATOでは、ウクライナ侵攻以来、ロシアの今後の戦略計画のシミュレーションが作られ、40年後のロシアがどう動くかまで想定し、実際にどこが攻撃され、どう対処するかなど、具体的なシミュレーション計画を立てている。

 

今回、スウェーデンとフィンランドが加盟したことで、バルト海が事実上「NATOの湖」になった。ロシアが最初に狙ってくるのは、バルト海を中心に、ロシアの飛び地のカリーニングラードとベラルーシを結ぶ「NATONのアキレス腱」とも言われる、スバウキ回廊と想定されている。

このような西側のロシア脅威論に対し、ロシアが被害妄想だと反論しても、もはや西側諸国は信用していないのが現状だ。

3)変わる潮目? 2025年春のウクライナ反攻への流れは整いつつあるのか?

かつて冷戦下では、旧ソ連とNATO加盟諸国の間には、ワルシャワ条約機構の加盟国が間にあった。しかし現在、双方は直接、総延長約2600kmの国境を接している。

小泉悠氏(東京大学先端科学技術研究センター准教授)は以下のように分析する。

ロシア側から見れば、軍事的に望ましくない状況だ。冷戦後にNATOを存続させるべきだったのか、東方に拡大させるべきだったかに関しては、様々な議論がある。ロシア側は、ワルシャワ条約機構が消滅したのに、なぜNATOだけが存続し東に進んでくるのかと。今回も開戦直前からプーチンは、ウクライナもこの先NATOに加入するのがまずいから先手を打つのだと、しきりに言っていた。

 

しかし、ウクライナのNATO加入は、2008年のブカレストサミットで1度、話が出ただけで、その後は特に取りざたされていなかった。今回、NATOのせいで戦争が起こったという議論があるが、私はロシア側の主張は鵜呑みにはできないと考えている。スウェーデン、フィンランドがNATOに加盟し、フィンランドはロシアと1350キロもの国境をロシアと接するが、ロシアは内側で兵力増強をした程度で、何もしていない。

 

NATOの拡大をロシアが非常に脅威と捉えていることと、今の欧州のあり方そのものを直接結びつけて考えられないだろうと私は考える。

杉田弘毅氏(共同通信社特別編集委員)は、以下のように分析した。

ここにきて潮目が変わってきたと考えている。4月20日にアメリカの下院がウクライナ支援法案を通した。欧州首脳はこれまで悲観的だったが、徐々に強気になってきている。これまで欧米がエスカレーションを恐れ、何もできない姿勢が問題だったという認識が進んだのではないか。

 

この先、初夏のロシアの攻勢でウクライナ東部が取られる可能性があるという流れの中で、このままではいけないと動き出したということだろう。今後は、兵器が届いて、兵員を訓練し動員できるかが重要なポイントになる。これまで2024年は、ウクライナはかなり劣勢と思われていたが、攻勢を食い止めるだけの態勢を整えつつある。

 

さらに2025年になれば欧米の兵器生産量が上がり、逆にロシアの兵器はピークアウトすると言われている。2024年は持久戦で持ちこたえ、25年春からウクライナが本格的に攻勢に出ていくという、西側諸国が描いていたシナリオが、少し実現に向けて展望が見えてきたのではないか。

 

<出演者>

杉田弘毅(共同通信社特別編集委員。明治大学で特任教授。2021年度「日本記者クラブ賞」を受賞。書籍「国際報道を問い直す-ウクライナ報道とメディアの使命」)

秋元千明(英国王立防衛安全保障研究所 日本特別代表。専門は国際安全保障と紛争分析。元NHK記者)

 

小泉悠(東京大学先端科学技術研究センター准教授。専門はロシアの軍事戦略や旧ソビエト連邦の安全保障。著書「終わらない戦争 ウクライナから見える世界の未来」)

「BS朝日 日曜スクープ 2024年5月12日放送分より」

 

大好調の意見

 「ロシア優勢下の状況で、欧州各国の首脳陣の姿勢に変化が出てきている。」とのことであるが、欧州と米国は何故ちょこちょこと小出しに援助するのであろうか。最初から最大限の支援をしておれば、ウクライナの現状は今と違っている。ロシアを刺激することを恐れ、ロシア本国への攻撃を禁止し、武器の供与ももったいぶって小出しにしてきた。

 

 その結果、ウクライナが負けそうになって初めて気が付いたみたいなふりをしているが、本心はウクライナが負けようと、自分らの国に悪影響が無ければよいと言う狭い考えではないだろうか。

 

だが、もしもウクライナが負けてロシアの衛星国になればNATOの最大の失敗として、現在権力者たちは責任を問われるであろう。