抗がん作用をうたう「代替療法は危険な治療」 民間療法 間違えると有害に

スポーツニッポン新聞社 の意見

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2024.4.29

 

がんの民間療法のイメージ

がんの民間療法のイメージ© (C) スポーツニッポン新聞社

 

 がん治療の最前線、米国で働く日本人医師が現場から最新の情報を届ける「USA発 日本人スーパードクター これが最新がん治療」。テキサス州ヒューストンにある米がん研究最大の拠点「MDアンダーソンがんセンター」で治療に取り組む小西毅医師による第22回は、米国におけるがんの「民間療法」についてです。

 

 ≪通常の西洋医学と民間療法の違い≫

 がん専門の医師をしていると、日本、米国を問わずたくさんの患者さんから、いわゆる民間療法に関する質問を受けます。

 「友人からキノコ粉末のサプリを薦められた」

 インターネットにはたくさんの情報があふれ、患者さんはどれが正しいか分かりません。結論から言えば、これらの民間療法の多くは医学的な根拠に乏しく、有効性がないどころか、有害なものすらあるのが実情です。中には患者さんの気持ちにつけ込み、高額な請求をする業者やクリニックもあります。

 

 しかし一方で、民間療法の中には無視できない有効性が確認されるものもあります。米国最大のがん専門病院であるMDアンダーソンでは、これらの民間治療を一つ一つ検討し、有効性が認められるものを上手に組み合わせて治療の一環としています。本日は、米国がん治療における民間療法の使い方について解説します。

 

 がん治療の原則は、手術、抗がん剤、放射線、免疫療法などの現代西洋医学です。これらの治療は臨床試験、使用後調査など科学的な方法で、多数のがん患者で効果が証明され、副作用も慎重に検討されています。医学的には最も安全で確実な治療と言えます。通常は医師など医療従事者が治療を担当し、健康保険も適用されます。

 

 一方で、世の中には通常の西洋医学とは異なる「それ以外の治療」が存在します。それがいわゆる民間療法で、補完・代替療法とも呼ばれます。食事療法、健康食品やサプリメント、漢方薬、鍼灸(しんきゅう)、マッサージなど、多岐にわたります。これらは患者さんが自己責任で行うもので、多くは健康保険が適用されず自費です。医師の処方がなくても薬局等で簡単に手に入り、施術も自由に受けられるものが多いですが、中にはビタミン大量点滴療法やがんワクチン注射など、医師の介入が必要なものもあります。

 

 民間療法は大きく分けると、補完療法と代替療法に分類されます。補完療法とは、手術や抗がん剤などの通常のがん治療を手助けする支持療法です。たとえばMDアンダーソンでは、鍼灸、マッサージ、ヨガ、心理カウンセリング、ストレス軽減法、栄養指導、音楽療法、運動療法などを専門に行う部署があります。通常の抗がん剤などの治療にこれらの補完治療を組み合わせることで、がん治療の副作用を和らげたり、痛みや抑うつ、不安を和らげるなど、がん患者が生きる手助けをします。

 

 ≪米がんセンターで認められた「補完療法」≫

 補完療法は有効性が科学的に証明されています。「手術後のむくみと痛みで追加治療が難しい状況だったが、リンパマッサージと鍼灸で症状が楽になり、術後の放射線治療が順調に受けられた」「抗がん剤で食欲や味覚が落ち体重が減り始めたが、栄養指導と運動療法で筋肉を維持し体重を保ち、抗がん剤を続けられた」「がんになって精神的に落ち込み治療できない状況だったが、心理カウンセリングと音楽療法で前向きになり治療継続できた」など、症状を和らげ、がん治療を継続しやすくします。

 

 MDアンダーソンでは通常のがん治療にこれらの補完療法を組み合わせ、より効果的で副作用の少ない「統合医療 Integrative medicine」というがん治療の概念が確立しています。専門の医師とセラピスト、カウンセラーがチームをつくり、がん治療を支えています。

 

 代替療法は、通常のがん治療の代わりに抗がん作用を期待して行われる治療です。同じ民間療法でも補完治療とは全く異なります。「抗がん剤が全く効かなかったのに、キノコ由来のサプリを飲んだらがんが消え去った」など、夢のような広告を見たことがあると思います。しかし代替治療の多くは効果や副作用の検証が不十分。効果がないばかりか、たとえサプリでも強い毒性が判明したり、逆にがんの増殖を早めてしまう事例すらあります。

 

 ≪情報過多の時代、患者の“見極め力”重要≫

 一昔前、アガリクスというキノコ由来のサプリが、抗がん効果をうたって爆発的に流行しました。しかしその後の研究で、逆に発がん物質を含む製品があったことが判明しました。他にも、抗がん剤の副作用を和らげるとされていた漢方薬が、実は副作用だけでなく抗がん剤の効果そのものを弱めていたことが判明した事例もあります。

 

 抗がん作用をうたう代替療法の一番の問題点は、最も有効な通常のがん治療を受ける機会が奪われてしまい、気づいたときにはがんが進行して手遅れになることです。MDアンダーソンでは代替治療は「危険な治療」と位置づけ、はっきりとやめるよう勧めています。情報過多の時代、患者さんには正しい情報を見極める力が求められています。がん治療を受ける患者さんは、民間療法が気になっても勝手に始めず、主治医に必ず相談してください。

 

 ◇小西 毅(こにし・つよし)1997年、東大医学部卒。東大腫瘍外科、がん研有明病院大腸外科を経て、2020年から米ヒューストンのMDアンダーソンがんセンターに勤務し、大腸がん手術の世界的第一人者として活躍。大腸がんの腹腔鏡(ふくくうきょう)・ロボット手術が専門で、特に高難度な直腸がん手術、骨盤郭清手術で世界的評価が高い。19、22年に米国大腸外科学会Barton Hoexter MD Award受賞。ほか学会受賞歴多数。

 

大好調の意見

 「がん治療を受ける患者さんは、民間療法が気になっても勝手に始めず、主治医に必ず相談してください。」との小西剛医師の助言は素直に尊重すべきものと思われる。