奇々怪々!「安全」を最重要視する習近平の警衛局長が次々に消える

林 愛華 によるストーリー

 • 5 時間 •

2024.4.21

 

習近平が気にすること

一般にグローバル化の進展は、国と国との関係を、対立ではなく、協力へとつなげるはずだ。

だが、それは習近平主席の好みではない。中国のトップに立ってから、11年1ヵ月も過ぎたが、自慢できる成果も、減速する経済をよくする術もなく右往左往している。

それでも今後とも長く政権にしがみつくには、何かもっともらしい理由が必要だ。その何かがはっきりしてきた。

 

4月15日、「習近平総書記は終始、国家の安全を一番重要なこととみなしている」と、「人民網」が報じた。「求是網」も、「国家の安全は習近平総書記の心の中で最も重要なこと」と報じるなど、政府系マスコミがこぞって取り上げた。「なぜ(習近平)総書記が国家の安全を最重要なことと見なすのか」といった解説記事でも競い合っている。

これらの報道のおかげで、やっと習近平主席が最も重視することがはっきりとわかった。それは経済ではなく、民生でもなかった。また、対外関係や福祉も、習主席にとって重要ではない。

 

習近平主席が一番気にしていることは、国家の安全なのだ。いや、国家の安全というのは、単なる建前かもしれない。実は、政治闘争の激しい渦のなかで、自分自身の安全と権力を守りたいだけなのではないか。

 

習近平主席はこれまで、経済の悪化を顧みず、外資系企業を脅かす国家安全法などの法律を、次々に強引に成立させた。外国人を勝手に逮捕し、民営企業を脅しつけてきた。同時に、腐敗取り締まりという口実のもと、胡錦濤前主席をリーダーとする「団派」(中国共産主義青年団出身者)を含めた反対派を、権力中枢から排除してきた。

 

4月15日には、「総体国家安全観」(全面的な国家安全観)」は、習近平主席が「中央国家安全委員会」の第1回会議で提出した創造的な概念だと、「新華社」が報道した。

「国家安全」を目指す意味

そもそも中国には、「中央国家安全委員会」というものは存在していなかった。しかし、習近平氏が総書記になって、2013年の11月に開かれた「3中全会」(中国共産党第18期中央委員会第3回全体会議)で、「中央国家安全委員会」の設立が決定された。

2014年1月24日には、党中央政治局が習近平主席を、中央国家安全委員会の主席に任命した。そして同年4月15日に、第1回の会議が開かれたのだ。

 

「中央国家安全委員会」が設立されたのは、周永康元常務委員など粛清した「大虎」(大幹部)と関係があると指摘されてきた。周永康元常務委員は、かつて「党ナンバー9」まで登りつめた指導者で、胡錦濤時代に公安部長(警察トップ)、中央政治局常務委員などを歴任した。

 

2010年ごろから、その後失脚した薄熙来元重慶市党委書記(元党中央政治局委員)と協力して、習近平氏を倒すことを企んだ。2012年ごろには、胡錦濤主席など国家指導者を盗聴していたことも発覚した。

 

習近平氏が、2012年11月の第18回中国共産党大会で、共産党総書記に就いてからも、対抗勢力からの牽制を受けた。一方、習近平総書記を暗殺しようとした事件の噂も絶えなかった。2015年8月に天津で発生した大爆発も、習近平総書記が標的だったという噂もある。

 

最高幹部の職住地である「中南海」での権力闘争の激しさは、尋常ではない。そのためにも「中央国家安全委員会」を設立し、「国家の安全」を強化する必要があったのだ。

習近平総書記は、自らの肝煎りで作った組織であるが故に、信頼する人間をトップに据え、反対勢力と対抗する必要があった。党内にある自分に対する不満や、党内の忠誠心がない人たち、対抗する勢力を排除しようとしたのだ。

 

国家の安全を強調し重視することは、国民に自分への求心力を持たせることに直結する。「国家安全」は習近平にとって一石二鳥だったのだ。

 

習近平総書記は、孤独な最高指導者である。安全を警護する部門は、中央警衛局だ。中央警衛局長は、習近平総書記が一番信頼できる人でなければならない。しかし、香港の「明報」などの報道によると、習近平総書記が中国の最高指導者になって以来、すでに3回も中央警衛局長を交代させている。過去には16年間も務めた局長もいた。そうした前例と較べると、習近平政権では、警衛局長が交代する頻度が高い。

頻繁に行われる交代

習近平氏が中国共産党総書記2012年、中央警衛局長は曹清氏だった。曹氏は2007年から、この職を担っていた。習近平総書記が任命した人物でなかったせいか、2015年に更迭された。

 

その後任には、信頼する王少軍氏を据えた。しかし王少軍局長は、2023年4月26日に67才で病死したと、「新華社」が報じた。

 

2021年7月には、中央警衛局長がまた交代した。就任したのは周洪水氏で、かつて人民解放軍北部戦区の陸軍副参謀長だった人物だと、「明報」は報じた。しかしこの人事は、中国政府系メディアは報じていない。

 

中央警衛局は、中南海に住む中国の最高幹部の警護を担う部署で、安全の要(かなめ)である。かつて文化大革命で悪名を轟(とどろ)かせた「四人組」を逮捕したのも、中央警衛局だった。歴史上、常に政治闘争と関わっている存在だ。

 

伝えられるところによると、中央警衛局は毛沢東元主席が作った組織で、「毛沢東ルール」がいまだに守られている。それは、警衛員たちは最高幹部たちの安全を守るうえで、警衛局長の命令にしか従わない。もし、最高幹部と警衛局長の意見が違ったら、警衛局長の指示に従うというルールだ。

 

警衛される最高幹部たちの行動は、警衛局長に報告される。中南海で行われた重要会議では、会議場に着いたら必ず銃を会議専用の警備責任者に渡して、会議が終わったら返される。

会議場で銃の携帯を許されるのは、最高指導者の護衛のみ。まさに独裁政治の独特な規則だ。

 

中央警衛局を完全にコントロールできた指導者こそ、権力の座は安泰というわけだ。そのため、中央警衛局長は習総書記が絶対的に信頼している人物が就く。

それが、頻繁に中央警衛局長を交代させてきたことをみると、習総書記は自分の安全に自信をもっていない。「国家安全委員会」を設立して10年にもなるというのに、皮肉なことだ。

 

大好調の意見

 この記事で指摘されるまで気が付かなかったが、習近平にとって自分が中国の国家主席であることはが目的で、国家発展なんか二の次かもしれない。それにしても、いやな気分の国家運営であり国民から見放されているのであろう。

 

しかし、自分以外の後継者はほぼいないのであるから、本当に4期目、5期目の国家主席就任もありうるかもしれない。怖いことである。