経済評論家・山崎元さんが遺した「投資の結論」…シンプルだけどお金を効率よく増やせる運用法

山崎 元 によるストーリー

 • 16 時間

2024.3.6

 

今年1月、食道がんのため65歳でこの世を去った経済評論家の山崎元さん。山崎さんがこれからを生きる息子のために、お金と人生、幸せについて書き下ろした最後の一冊『経済評論家の父から息子への手紙』より、「お金の運用」について語った内容を一部抜粋・編集してお届けします。

お金の運用はこれだけ覚えておけばいい

さて、君が稼いだお金の増やし方だ。手短に結論から述べよう。お金を効率良く増やすには、次のようにするといい。

(1)生活費の3~6カ月分を銀行の普通預金に取り分ける。残りを「運用資金」とする

(2)運用資金は全額「全世界株式のインデックスファンド」に投資する

(3)運用資金に回せるお金が増えたら同じものに追加投資する。お金が必要な事態が生じたら、必要なだけ部分解約してお金を使う

投資する金額の決め方、投資対象の選択、「買い」と「売り」のタイミングについて説明したので、お金の運用について必要な「基本」はこれですべて説明したことになる。簡単だろう?

 

「父ちゃんは、長年お金の運用を専門にしてきて、本もたくさん書いているのに、これだけかよ?」と君は言いたいかもしれない。だが、本当にこれでいいのだ。この運用法を上回ることは、運用の専門家にとっても簡単なことではない。

 

現実には、例えばNISAやiDeCoといった制度を利用すると得なので、使える制度は最大限有効に使うといいが、これらは、お金を運用する際に利用したら有利な置き場所であり、言わば「器」だ。その利用法は「基本」を実行する上でのアレンジに過ぎない。

すべて、「全世界株式のインデックスファンド」ないしは、これに類似する運用商品に投資したらいい。

 

この記事では、これらの制度について説明しない。制度は時々で変化するし、利用法は常識で分かるはずだからだ。

生活費の3~6カ月分は確保しておく

多少の支出の集中があっても借金をしないで済む程度のお金は、別途確保しておくべきだ。通常、生活費の3カ月から6カ月分くらいだろう。

 

クレジットカードのリボルビング払いやキャッシングなどの細かな借金もしないように注意せよ。これらの借金残高に対する金利は高く(例えば年率15%)、運用の期待利回り(株式でも短期金利+せいぜい5~6%)を遥かに上回る暴利だ。

 

父は、かつて大学で講義する際に、「デートの際にクレジットカードをリボルビング払いで決済する相手とは結婚しない方がいい」と毎学期教えていた。経済観念の乏しい相手と結婚すると苦労するからだ。

 

運用資金の全額を「全世界株式のインデックスファンド」に投資していい。インデックスとは株価指数のことだが、全世界の株式で構成されたインデックスに連動する投資信託に投資するのだ。

 

今なら、通称「オルカン」こと「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」でいい。理由は、有利な形で分散投資されていて、運用の手数料が安いからだ。

 

手持ちの運用資金のすべてを株式に投資することに抵抗感があるかもしれない。

インデックスファンドに投資した場合の株式投資のリターンは、100年に二、三度クラスの「最悪の場合」でも1年に3分の1くらいの損失、同じくらいの確率の「幸運な場合」では4割くらいの利益、平均的には短期金利がほぼ0%なら年率5~6%くらい、だと実務の世界や学者の間では考えられていて、父も「そんなものだろう」と思っている。正確な数字は誰も知らない。

運用資金をすべて投入するのは怖い?

この記事のもととなった書籍の執筆時点の日本の短期金利はほぼゼロなので、これプラス5%と見て、株式投資の期待リターンをおおむね「年率5%」くらいだと考える。現在の日本の税制では、実現した利益に対して約2割の税金が掛かるので、実質は年率4%くらいとなる。

 

この条件に、運用資金のすべてを投入することに君は抵抗感があるだろうか?

確かに、「3分の1の損失」に当たると痛いし、日々の株価の変動が気になるかもしれない。

 

しかし、考えてみよう。特に、若いころの運用資金額はたかがしれたものであるはずだ。

 

これに対して、自分自身のその他の経済的リスクを考えると、会社やビジネスの浮沈、給与・ボーナスの変動や、転職などによる収入の改善や逆に減少、健康状態の変化、家族や周囲の状況の変化、など多くのリスクに直面しながら、これらに「何とか対処している」はずだ。

 

例えば、お金が足りなくなれば、より多く働いて稼いだり、あるいは生活費を節約したりして、何とかなっているのではないか。

しかも、運用資金は「当面使わないお金」だ。数字で表れていて分かりやすいからといって、金融資産の損得にばかり注意を向けるのはバランスが良くない。

もし株価が大きく下がってしまったら……

では、月日が経って投資が進み、金融資産の額が大きくなった時にはどうなのか。

この場合、「3分の1の損失」の金額は、収入のアップダウンよりもかなり大きなものになっているかもしれない。しかし、金融資産の額がそもそも大きいということは、それだけ経済的な余裕が大きくなっているということだ。

 

やはり、「運用資金」を全額「全世界株式のインデックスファンド」で持っていて問題がない場合が多いはずだ。

 

お金を引き出そうとした時に、株価が大きく下がっているような事態が「結果的に」あるかもしれない。その時には残念に思うだろうが、「意思決定時点の(事前の)選択として正しかった」けれども、運が悪かったのだと考えて納得せよ。

 

その損失は「サンクコスト」(埋没費用。既に発生していて取り返しが不可能なコストのことで、意思決定上は無視するのが正しい)だ。それ以上の意思決定はできなかったのだし、株価はコントロールできない。

 

人生にあっては、コントロールできないことについて悩んでも仕方がない。できることは確率・期待値的に良い選択をして、後は好結果を祈るだけだ。それ以上はない。

 

しかも、損をしても、幸い「お金で済む話!」だ。命を取られたり、信用を失ったりするような問題ではない

 

大好調の意見

山崎元先生の遺書的の話である。それにしても65歳とは早すぎる。先ず健康に留意することを最優先するべきであるとしみじみ考えた。