ローソンはギリギリまで追い込まれた…?KDDIとの資本提携と非上場化を選んだ狙い

加谷 珪一 によるストーリー • 1 時間

202.2.21

 

KDDIがローソンに対してTOB(株式公開買い付け)を実施する。成立すればKDDIと三菱商事が共同経営を行い、ローソンは上場廃止となる見込みだ。KDDIのITインフラを活用してあらたなコンビニ・ビジネスを模索する流れだが、大手3社中、最下位が続くローソンがギリギリまで追い込まれたと解釈することもできる。

親会社との近すぎる関係

よく知られているようにコンビニ業界は大手3社の寡占市場となっており、セブン-イレブンがトップシェアを維持し、これにファミリーマート、ローソンが続く。2023年時点におけるセブン-イレブンの店舗数は2万店を超えており、続くファミリーマートは約1万6000店、最下位のローソンは1万4000店と低迷しており、しかも店舗数は減少傾向にある。加えてローソンの店舗あたりの売上高は小さく、トップのセブンはもちろんのこと、2位のファミマに追い付くのも難しいというのが現状だ。

 

ローソンが大手最下位から浮上できない理由のひとつとされているのが、親会社との近すぎる関係である。現在、ローソンは三菱商事の子会社となっており、商品の多くを三菱商事のグループ会社である三菱食品から仕入れている。

三菱商事はダイエーからローソン株を取得したのち、ローソンに対するTOBを行って子会社化した。経営トップも三菱商事から派遣されているので、市場では事実上、両者は一体と見なされている。コンビニの親会社が商社であることが必ずしもマイナスとは限らないが、本来、商社とコンビニは「卸」と「小売店」の関係なので、利益相反が発生しやすい。

コンビニは小売店なので、店に来店する顧客が求める商品を提供できなければ業績を拡大することはできない。ある商品について、系列商社以外のものと系列商社経由の2つが候補となり、系列商社以外の商品が魅力的であると判断されれば、そちらを採用するのが小売店としては正しい選択といえる。だが、大手商社に経営権を握られていては、こうした独自の力学は働きにくい。

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セブンとローソンの経営戦略

コンビニ大手の中で、仕入れ先となる商社と明確な資本関係を結んでいないのは最大手のセブン-イレブンだけだが、同社はベストな商品を仕入れるため、あえて特定の仕入れ先と資本関係を結んでいないのだ(セブン&アイ・ホールディングスには商社の三井物産が出資しているが、両社の関係はそれほど密接ではない)。

 

ローソンはセブンと比較して商品力が劣っているというのは以前からよく指摘されている。セブンは老舗であることも手伝って、よい立地に出店できており、廃棄ロスも最小限に抑えられるため、総菜などで思い切った商品展開が可能となる。後発であるローソンは立地が悪く、セブンほどリスクを取れないという事情もあるが、仕入れの制限が商品開発に影響しているというのは多くの関係者が指摘している。

 

系列の縛りがあるという点では、伊藤忠グループに属し、市場シェア2位のファミリーマートも同じだが、同社はセブンを超えてシェア1位になる戦略を事実上、放棄しており、セブンとは異なる独自路線の追求で生き残りを図っている。具体的に言えば、若者や単身者などにターゲットを絞った商品展開や出店戦略である。

 

ファミマの主力商品のひとつはファミチキだが、これはコンビニの主力顧客層に躍り出た高齢者ではなく、若年層を強く意識したものである。近年、ファミマはコインランドリーとの併設店を積極展開しているが、これも単身者や若いカップルなどを狙ったものといえるだろう。さらに言えば、ファミマはタバコ類やアルコール類の販売にも積極的であり、やはり顧客層を絞っている様子がうかがえる。

 

高齢化が進む今の日本では、人口比率が高く、経済的にも余裕がある高齢者層を狙うのが小売店の王道であり、その戦略をストレートに追求しているのが王者セブンである。一方、ファミマは高齢者層の獲得はあきらめ、若年層市場を徹底的に開拓しようと試みている。

 

これに対して、どちらにも中途半端な立ち位置となっているのがローソンである。

非上場化のメリットとKDDIの課題

ローソンは主要顧客が絞り切れておらず、商品開発においても制約条件が大きいため、セブンの市場もファミマの市場も追いにくい。都市部を中心に健康志向に応えたナチュラル・ローソンを展開したり、傘下の高級ブランドである成城石井を活用し、比較的所得の高い都市住民の獲得を強化しているが、あまりうまくいっているとは言えない。

 

このままでは3社の中でジリ貧となる可能性が高まっており、同社が浮上するためには、ライバル2社にはない新しい強みを発揮する必要がある。その中で出てきた選択肢が通信会社KDDIとの資本提携および非上場化である。

 

ローソンは上場企業なので、常に収益を上げるよう市場から要請される。コンビニのビジネスは特殊な形態で、店舗運営のほとんどが本体企業ではなく、各地域の小規模なフランチャイズ企業によって行われている。コンビニ本体の収益源は各店から得られるロイヤリティーなので、店舗全体の業績と本体の業績が一致するとは限らない。

 

店舗の業績が芳しくなくても、本社がフランチャイズ料金を引き上げて業績を拡大することができてしまうので、本社に対する業績要求が強すぎると、店舗を疲弊させる恐れがある。非上場化すれば、当面、その心配はなくなるので、理屈上は機動的な運営が可能となる。

 

加えてKDDIは巨大な通信会社であり、6600万人もの契約者を擁している。この巨大な顧客基盤をローソンの店舗に誘導できれば、従来では実現しなかった顧客数の大幅増が期待できる。しかしながら、この話はあくまでもローソン側から見たものである。

KDDIはKDDIで、実はローソンと似たような問題を抱えている。

競合にないリソースを活かせるか

携帯電話の業界も大手3社の寡占市場となっているが、NTTドコモが圧倒的な立場であり、NTTによるドコモの完全子会社化によって同社の競争力はさらに高まっている。ドコモは高齢者や法人など中核的な顧客を押さえているので、今後も有利に事業を展開できる。

 

一方、ソフトバンクはドコモの客層はあきらめ、完全に若年層に特化している。コンビニ市場にあてはめれば、セブンの立ち位置となっているのがドコモであり、ファミマの立ち位置はソフトバンクに近い。KDDIはドコモとソフトバンクの中間的な立ち位置となっており、コンビニ市場におけるローソンとよく似ている。

 

KDDIにしてみれば、5000億円もの資金を投じてローソンに出資する以上、ローソン店舗網をフル活用して、自社の携帯電話のシェアを高めたいと考えるはずだ。ローソン側の思惑とKDDI側の思惑の両方を満たすサービス展開ができれば理想的だが、それがうまくいく保証はない。

 

いずれにせよローソンが「通信インフラ」というライバル2社にはないリソースを手にしたことは間違いない。このリソースを、ローソン本体、KDDI、そして三菱商事の3社がともに利益を得る業態に展開できるのかが、同社の将来を決めることになる。

 

大好調の意見

 「いずれにせよローソンが「通信インフラ」というライバル2社にはないリソースを手にしたことは間違いない。」との指摘はそのとうりであろう。後は如何に協力関係を強化実施できるかにかかっている。