楽天はもう食べごろ!喰らうは「KDDI・ローソン」か「伊藤忠・ファミマ」か…サイバー藤田の“漢気救済”はある?

鈴木貴博 によるストーリー • 8 時間

2024.2.17

 

モバイル事業の失敗で苦戦する楽天グループですが、私は「楽天モバイルが経営破綻する可能性は低くなった」と考えます。実は「窮地で食べごろ」な楽天を喰らうかもしれない2大企業連合と、1人の救世主が見えてきたのです。それは「KDDI・ローソン」「伊藤忠・ファミマ」と、「サイバーエージェントの藤田晋社長」です。(百年コンサルティング代表 鈴木貴博)

ジワジワ高まる「楽天買収」の現実味

“買収のうまみ”に皆が気づき始めている

 未来予測を専門にする経済評論家の鈴木貴博です。先週、三菱商事とKDDIがローソンの共同経営に乗り出すというニュースについて二つの記事を書きました。

 

 一つ目は「この買収がいかにすごいことなのか?」についての評論家としての見解(詳細は『ローソン「KDDI・三菱商事の共同経営」で王者セブンが負けるかもしれない3つの理由』を参照)。

 

 二つ目は「業界のうわさとしてその裏にもうひとつの動きがあるかもしれない」という臆測についての記事でした。

 

 その業界のうわさとは、楽天モバイルの失敗で窮地にある楽天グループをKDDIが救済合併をするのではないかというものです。もしそうなればKDDI、ローソン、楽天が持つビッグデータは、新たに莫大な資産価値を生む可能性があり、GAFAMに対抗する国産クラウド、国産AI企業連合が誕生するかもしれないという話になります(詳細は『KDDIが楽天を買収したらアマゾン超えも夢じゃない?ローソンTOBの「先」を予測してみた』を参照)。

 

 このうわさについては、間違いなく業界ウオッチャーは同じことを考えたはずです。実際、ここ1週間の報道を見ても、堀江貴文さん、入山章栄さん、石川温さんらが異なる立場から同様にその可能性について見解を述べていらっしゃいました。

 問題は、ここからです。

 

 みんながKDDIによる楽天救済の可能性に関心を持ち始めてしまったことで、重要な変化が起きます。楽天の凋落(ちょうらく)が、KDDIによるローソンTOB(株式公開買い付け)のおかげで止まるかもしれないという話です。

 

 なにしろ楽天モバイルの赤字を除けば、楽天経済圏にはものすごく大きい買収価値があることに複数の企業連合が気づいてしまったのです。楽天を応援する人たちにとって、この変化は朗報です。

 今回の記事は、このように前提条件が変わったことで楽天という会社の未来がどう変わるのかについての予測記事です。極めて不確実性が高い話題だという前提で、未来予測の話を進めてみたいと思います。

自転車操業の続く楽天は「もうすぐ食べごろ」かもしれない

 ちょうど今週、2月14日に楽天グループの2023年12月期決算の発表がありました。良い点と悪い点を整理しますと、良い点としてはモバイルを除く中核事業はすべて売り上げ等を伸ばしていること、楽天モバイルの営業赤字は2022年の4590億円から2023年は3230億円へと1300億円も減っていること、そして2024年の資金調達のめどが大体ついたということです。

 

 一方で悪い点は、楽天モバイルの契約回線数が609万回線と増えてはいるけれども大幅には増えていないことです。結局のところ、当面の目標である800万~1000万回線に早期に到達できない限りは、状況の好転は見込めないはずです。

 

 その決算発表の後、ふたつの変化を目にしました。ひとつは楽天グループの5年連続赤字転落を報道するヤフーニュースのコメント欄です。楽天モバイルを応援するユーザーの声で溢れていたのです。悪いニュースに対してこれほどの数の好意的なコメントが寄せられるのは異例です。ふたつめは翌日の株価です。楽天グループの株価が一時ストップ高で15%も上昇したのです。

 

 これまで楽天は、日干し攻勢に遭っている戦国大名のような状況でした。日干しというのは1.8兆円の有利子負債の借り換え時期がつぎつぎと到来することを指します。城内の備蓄米にあたるキャッシュは枯渇しているので、いつ干上がってもおかしくはない状況です。

 お金を貸している側は、備蓄米がないなら城内にある宝物を切り売りすればとささやきます。城内には莫大な価値を持つ宝物が眠っているので、それが米と引き換えで手に入るとなれば貸し手側はうれしい限り。こうして1年先まではめどが立ったが、その後はまだわからない。表現は悪いのですが、ほぼほぼそのような戦の最中に楽天グループはおかれていました。

 

 金融の世界では、企業は腐りかけたところがおいしいものです。熟したところで果実をもぎ取ってもうけるのが、金融のビジネスモデルです。楽天銀行、楽天証券の次に楽天カードがたぶん売りに出されるだろうというところに来ていたのです。

 ところが、「今年の秋から来年の春あたり、楽天は食べごろになるから、それまで待とう」と思っていた人たちにとって、皮肉な話ですが、今回のKDDIによるローソンTOBがその計算を狂わせたのではないか? というのが私の見立てです。楽天の株価が15%上がった理由は、投資家が「楽天本体の株を持っていたら高値で誰かが買ってくれる」と気づいたせいではないでしょうか。

 

 つまり、食べごろになるまで待っていたら、カラスに果実をさらわれるかもしれないような新たな状況が生まれたのです。

 そのカラスが誰なのか、そして楽天の生存確率は上がったのか? そのことを考えるために、楽天から見たら今回のコンビニ再編はどう見えるのかを考えてみましょう。

KDDIよりも先に「楽天買収」を狙うのは伊藤忠・ファミマ連合かもしれない

 この先、コンビニと通信、リアルとネットとAIとが融合することで日本国内にGAFAMに対抗できるような企業連合が生まれるとすれば、そのために必要な四つの要素が重要な意味を持ちます。

 それは、

(1)リアル購買関連のビッグデータ

(2)ネット購買関連のビッグデータ

(3)GPS関連のビッグデータ

(4)ポイント経済圏としてのユーザー基盤

 です。

 

 そして今のところ、この四つすべてを持っている企業はなく、仮に三菱商事・KDDI・ローソン・楽天連合が成立したら初めてその四つがそろうというのが先週の記事の要点でした。

 

 では、他の業界関係者の持ち札を確認してみましょう。

 コンビニ業界の王者セブン-イレブンと2位の伊藤忠・ファミマ連合はどちらも(1)しかカードを持っていません。

 イオンはコンビニでは弱い立場ですが、小売流通の王者という意味では同様に強い(1)のポジションにある企業です。

 一方で携帯業界トップのドコモは(3)が異常に強いだけでその他は弱い。この4者が潜在的に楽天を「花嫁」として迎えることに関心を持つ可能性がある集団です。

 

 そして対照的というか、楽天と近い立場にあるのがソフトバンクです。ヤフオク!、ヤフーショッピングがあり、ソフトバンク携帯がありLINEがあり、そしてQRコード決済で圧倒的シェアを持つPayPayを保有します。(2)と(3)と(4)のカードを手持ちにそろえていて、あと1枚で上がり待ちという状態にあるわけです。

 

 では、このメンバーによる業界再編が起きるとしたら、誰が動くのでしょうか?

 KDDIの狙いがうわさとして広まった時点でも動きが遅いのは、セブンとドコモでしょう。どちらもスマホ決済関連で一度、過去にトラブルを起こすというミソをつけていて、できれば今の本業のビジネスモデルにフォーカスする戦略を取りたいと考えているはずです。セブンはヨーカ堂のリストラで手いっぱいでしょうし、ドコモにとっては次世代ネットワークのIOWNに戦略を集中したいはずです。

 

 次に、変化は好きだけれども早急なM&Aは好まないのがイオンです。今、イオンはドラッグストア再編に力を入れていますが、そのスピードは徳川家康のように慎重です。少しずつ資本を入れて時間をかけてじっくりと子会社化を目指すというのが、イオンのスタイルです。

 

 そう考えると、今回のKDDIによるローソン買収のニュースで、一番敏感に動く可能性があるのは武闘派の伊藤忠・ファミマ連合でしょう。

 なにしろ放置すれば、セブンやファミマから大きく後れを取って業界3位に転落する危険性がある一方で、今動けば楽天とソフトバンク、両にらみで業界再編を進められる可能性があるわけです。

楽天の「伊藤忠・ファミマ連合への加入」は消費者にとっては悪い話ではない

 三菱商事連合への対抗軸として伊藤忠・ファミマ・ソフトバンク連合ができるというのがひとつわかりやすい絵柄なのですが、それと比較すると伊藤忠・ファミマ・楽天連合というのは、実は伊藤忠にとっての座組みとしては悪くはないのです。

 というのは前者、つまりソフトバンク連合でも(1)(2)(3)(4)の4要素がそろうといえばそろうのですが、問題が二つあります。

 

 一つは、ソフトバンクは(2)と(4)、つまりネット通販とポイント経済圏の力が少々弱いこと。そしてもう一つが、連合を組む場合にどうしても対等な力関係になってしまうという問題です。

 

 それと比較すれば伊藤忠・ファミマ・楽天連合というオプションは(2)と(4)が異常に強いうえに、やり方次第ではファミマと楽天を伊藤忠の下に配置することができる可能性があるわけです。さらにいえば、そこまで完成させればあとはドコモと伊藤忠はIOWNを支援する形でいくらでもつながることができる。

 

 そう考えると、カラスになって果実を横からかっさらうという絵柄に伊藤忠・ファミマ連合が関心を持つ可能性は、資本主義の世界では起こりうる事態だと思うわけです。

 さて、そこで楽天です。楽天モバイルの状況が好転しない限り、このままじわじわと銀行団に宝物を削られていくかと思っていた状況で、突然、「花嫁」として業界中の注目が集まるという前提変化が先週起きたのです。

 

 ひとことで言えば楽天に「風が吹いた」わけで、これまで選択肢になかった生き残り策を考える余地が生まれたことになります。つまり切り売りではなく楽天グループをまるごと迎え入れたいと言い出す相手と手を組む可能性です。

 

 これは、楽天という企業そのものを応援している消費者にとっては朗報です。どんなに楽天が好きでも、このままだと楽天ポイントは改悪され、しまいに家計に優しい楽天モバイルのサービスが止まってしまったらとハラハラしながら応援してきた消費者たちにとっては、新たな可能性が見えたことになるからです。

 

 しかし、きれいごとだけで済むかどうかは疑問です。経済の再編というものは必ず資本という権力の移動を伴います。結果として三木谷浩史社長の掲げてきた未来が残るのか消えるのか、このあとのリーダーシップが未来を左右します。

楽天の「独立維持」をかなえられる重要人物はサイバーエージェントの藤田晋社長かもしれない

 では、その楽天の未来を誰が左右することになるのでしょうか? オーナーの三木谷社長なのか、伊藤忠、三菱商事、KDDI、みずほFGの誰かなのか? 力関係でそれが決まるのか、それとも三木谷社長が腹をくくって決まるのか? いったい誰が鍵を握るのでしょうか?

 

 そういったすべての情勢を考えるとこの問題にはもうひとり、重要なキーパーソンが隠れているかもしれません。せっかくの未来予測記事なので、そこまで予測してみましょう。

 

 それは資金繰りの窮地にあった楽天に100億円を出資した、サイバーエージェントの藤田晋社長です。

 サイバーエージェントが楽天に出資をしたのは昨年5月の第三者割当増資が初めてです。100億円の出資というのは巨額な出資である一方で、すでに外形が巨大企業になっている楽天に新規で100億円を投資しても株主としては大した出資比率にはなりません。

 

 では、藤田社長がなぜ楽天に出資をしたのかというと、これは業界の強いうわさですが20年前に三木谷社長から受けた恩を返すための「漢気(おとこぎ)出資」だったのだと言われているのです。

 

 実はサイバーエージェントは、上場直後の2000年に会社乗っ取りの危機にありました。資本政策を誤った結果、村上ファンドが多数株主になる直前まで行ったのです。一説によれば狙われたのは手つかずで会社にあった200億円の現金で、当時時価総額90億円だった会社の経営権を奪い藤田社長を追い出したら会社を清算して、200億円を株主に分配しようと企てていたのだと言われています。

 

 そのとき、サイバーエージェントに出資をして窮地を救ったのが三木谷社長でした。理由は「ベンチャーがたたかれているから助けないとね」という漢気からだったと報道されています。いずれにしてもこのときの手助けがなければ、わたしたちもAbemaTVでサッカーのワールドカップを視聴することができなかったはずです。

 

 その経緯を考えると、当時とは逆に楽天という日本を代表するベンチャーが「削られている」いま、それを助けるのは藤田社長の使命ではないのでしょうか。

 

 おそらく過去2年間、楽天モバイルの苦境が続いた状況ですから、三木谷社長はそうとう消耗しているはずですし、この先を決める交渉の場でも切れるカードは多くはありません。

 

 しかし、サイバーエージェントが楽天の後ろ盾になると宣言すると実は、未来予測としてはもうひとつ前提が覆ります。金ではなく立ち回りで恩返しをすることで、楽天の未来を買収ではなく独立維持に持ち込めるかもしれない。ここから話がさらに混迷しますが、読者の皆さんもお付き合いください。

 

 (1)(2)(3)(4)、つまりリアルのビッグデータ、ネットのビッグデータ、GPSデータ、ポイント経済圏の四つを握って、巨大な国産クラウドと協力な国産AIを加えてGAFAMに対抗するビジネスモデルを組もうとしたとしても、実はもう一枚カードが足りないのです。

 

 そのカードとは? グーグルやメタの成長エンジンがその要素ですし、アマゾンが実質的に自社消費をしていたのもこの要素です。それは「広告」です。

 

(5)強い広告メディアを持っている

 という五つ目の条件が、実は重要なのかもしれないのです。

 

 GAFAMとかマグニフィセントセブンとか、アメリカの巨大IT企業をくくる言葉はいろいろありますが、そこにネットフリックスを加えるという考えが存在します。実はFANGと呼べるフェイスブック、アマゾン、ネットフリックス、グーグルというのはビジネスモデルが広告を軸に補完関係にある点で、この先の成長余地としてはさらに一段上が狙える4社でもあるのです。

 

値を考えると、ソフトバンクならヤフーを持っている関係で、ビッグデータをAIで料理をしたあとの換金の出口を広告に持っていくことは容易なのですが、楽天単独だとそこが弱くも見えるのです。

 

 しかし仮に、「楽天市場とAbemaTVは資本は薄くてもブラザーなんだぜ」と言い出せば、花嫁の価値がさらに上がる。言い換えれば、楽天の交渉力がより強くなることになります。

 

 かつて憔悴(しょうすい)していた藤田社長の前にさっそうと三木谷社長が出現したように、その逆が起きれば恩返しになるうえに、サイバーエージェントが日本版GAFAMの一角に名乗りを上げる展開すらありえるストーリーに変わります。

 

 さて、話をまとめます。

 KDDIのローソン買収が、コンビニ業界と携帯業界そしてネット業界に大きな波紋を投げかけました。業界では急激に楽天に関心の目が注がれる状態になっていますし、楽天モバイルが単純に経営破綻するという嫌な未来が、少し遠のいたのも事実です。

 未来予測としては、「まったく予想がつかない混沌が生まれた」というのが正直なところですが、今回の記事でその混沌ぶりと、たくさんの可能性がご理解いただけたのではないかと思います。引き続き業界を注目したいと思います。

Photo:Diamond

Photo:Diamond© ダイヤモンド・オンライン

 

大好調の意見

 面白い話ではあるが、4社も5社も結合して大きな経済効果を狙う話は企業運営が上手くいかないのではなかろうかと心配です。