楽天は1兆円超の社債償還前でも危機は脱したか。鍵を握る楽天モバイルの次なる課題

石川 温 によるストーリー • 2 時間

2024.2.15

 

楽天グループは2月14日、2023年12月期の通期決算を発表。最終損益は3394億7300万円の赤字だった。

EC、銀行、証券、トラベルなどは好調だったが、設備投資が重荷になっている楽天モバイルが足を引っ張った格好だ。

ただ、楽天モバイルによる大幅赤字は今に始まったことではない。楽天グループが携帯電話事業に新規参入するときから予想されており、これが「通常運転」といってもいいぐらいだ。

ただ、今後数年で1兆円を超える社債償還が迫っているため「楽天グループが経営危機に陥るのではないか」ともみられていたが、廣瀬研二副社長によれば「2024年のリファイナンスリスクは解消した」という。

課題は残るが、改善傾向の楽天モバイル

実際、足下の数字を見る限り、当面の危機は脱した感覚がある。

楽天モバイル事業は3375億2400万円の赤字だが、前期が4792億5700万円の赤字だったことを考えると、かなり数字が改善している。

契約者数に関しても、2023年12月末時点で596万件、直近では620万件を超えているというから好調と言える。

契約者の増加は主に法人の顧客獲得が伸びているが、一方でARPU(1人あたりの通信料収入)は1986円と60円下がってしまった。これは法人向け料金プランでは低廉な価格設定のプランが用意されているためだ。

楽天モバイルの主要KPI。

楽天モバイルの主要KPI。© BUSINESS INSIDER JAPAN 提供

楽天モバイルとしては、2024年12月までに、月次EBITDAの黒字化を目指す。

そのためには契約回線数としては800〜1000万件の獲得がマストだ。さらにARPUにおいても、2500〜3000円と今に比べて500円以上の上乗せをしていく必要がある。

「家族割引」の開始は苦渋の選択か

楽天モバイルの定義する「家族」で楽天モバイル回線契約があれば、割引が受けられる。

楽天モバイルの定義する「家族」で楽天モバイル回線契約があれば、割引が受けられる。© BUSINESS INSIDER JAPAN 提供

楽天モバイルは2月21日より「最強家族プログラム」を開始すると発表したばかり。グループの代表者と同じ名字のユーザーであれば20回線まで、月額110円(税込)を割り引くというものだ。

これによって、ARPUは当然下がってしまうだけに、目標の2500〜3000円に向けて、マイナススタートを余儀なくされてしまう。

とはいえ、楽天モバイルにとって「最強家族プログラム」の導入は避けては通れなかったようだ。

2023年まで、楽天モバイル関係者に「家族割引は導入しないのか」と質問していたのだが、その際には「紹介プログラムでの数千ポイントの付与が効いており、月々数百円を割り引くよりもインパクトがあるので、いまのところ家族割引は考えていない」としていた。

だが、2024年1月のイベント終了後に三木谷浩史会長が以下のようにボヤいていたこともあった。

「自分も色んな人に楽天モバイルを勧めているが、『家族割引に入っているから、自分だけ楽天モバイルにはできない』といって断られてしまう。

他社の家族割引より、ウチの最強プランを家族全員で契約した方が安いはずなのだが、人間の心理がそうさせるのか、なかなか家族割引を辞めてウチを契約してくれない」(三木谷氏)

当時、家族割引を始めるつもりはなかったようだが、「楽天モバイルが家族割引を検討している」という記事に世間から反響があり、水面下で準備していた「最強家族プログラム」の発動を余儀なくされたようだ。

楽天モバイルのARPUは、法人プランによってやや下がっている。

楽天モバイルのARPUは、法人プランによってやや下がっている。© BUSINESS INSIDER JAPAN 提供

三木谷氏としては、最強家族プログラムによって、家族をまるごと楽天モバイルユーザーにして契約者数を稼ぐ一方、音声かけ放題などのオプションによってARPUを上げていくつもりのようだ。

ただ、楽天モバイルが他社に比べてARPUを上げにくい。そもそも音声通話アプリである「Rakuten Link」によって国内通話料を無料で提供してしまっている上、留守番電話などもプラン料金に含まれる。

他社でさえARPUで10円を上げるのに必死な事を考えると、楽天モバイルは有料オプションやコンテンツサービスが少なすぎるため、ARPUで500円を上げるのは相当、困難だと思われる。

実際、14日の記者会見の質疑応答では「楽天モバイルは他社よりオプションが少ないが、どうやってARPUを上げるのか」という質問が飛んだ。

それに対して三木谷会長は「いくつか検討しており、今後楽天らしいオプションを出していきたい」と語ったものの、明言は避けた。

 

大好調の意見

 この記事で今日の株価が100円アップの731.3円になって午前が終わったのか。びっくりした。良かった!良かった!。