中高年の睡眠は「遅寝、遅起き、だらしなく」が大原則…「75歳までに身につけたい理想の睡眠習慣」

遠藤 拓郎 によるストーリー • 3 時間

2024.2.14 

 

目覚めのスッキリ感は、朝の太陽の光から

本稿では「75歳までに身につけたい睡眠習慣」について、お話ししますが、「習慣作り」の手始めとして、拙著『朝5時半起きの習慣で、人生はうまくいく!』について、簡単に触れておきたいと思います。

この本のテーマは「早起きの習慣をいかに作っていくか」でした。

この本で、私は「体に負担をかけない早起きの習慣は、朝5時半起きが限界である」と結論づけました。

なぜ、私は「朝5時半起きが限界である」と主張したのでしょうか?

その理由について、論点をコンパクトにまとめてみたいと思います。

のちほど解説しますが、ヒトの体内時計の周期は25時間で、朝の太陽の光で24時間に修正されています。

朝の太陽の光には「体内時計を1時間早める機能」、つまり「体内時計の調節機能」があるのですが、実はもう1つ大事な役割があります。

それは「メラトニンの分泌を抑える働き」です。

メラトニンについても、のちほど詳しく説明しますが、例えば、朝の太陽の光を浴びると、何となく「スッキリ感」を得られますよね?

その理由は、朝の太陽の光を浴びることによって、メラトニンの濃度が「眠気が消失するレベル」にまで一気に下がるからです。

眠気を吹き飛ばし、目覚めのスッキリ感を出すためには、朝の太陽の光が欠かせないのです。

朝4時起きは肉体的にも精神的にも負担がかかる

ちなみに、バリバリ仕事をしているビジネスパーソンの中には「朝2時起き」「朝4時起き」といった「極端な早起き」を実践する方がいらっしゃいます。

なぜ、こうした極端な早起きが可能なのでしょうか?

それは、体内時計に「履歴効果」と呼ばれる機能が備わっているからです。

「履歴効果」とは、何でしょうか?

簡単に説明すると、過去に同じリズムを続けていると、そのリズムを続けやすくなる性質を持っているということです。

ですから、朝2時起きや朝4時起きといった極端な早起きであっても、それを強制的に続けていると、そのリズムを維持しやすくなります。

結論から言えば、朝2時起きや朝4時起きといった極端な早起きは、やってできないことはありません。しかし、可能だからと言って、「実践していいですか?」と問われれば、私の答えは「NO」です。

なぜなら、太陽が上がらないうちに起床をすると、メラトニンの分泌を抑えることができない状態で無理矢理、体を起こすことになってしまうからです。

少なくとも東京で、朝の4時に太陽が上がってくることはありません。

ホルモンバランス的にはまだ寝ているのに、体だけ無理矢理起こしてしまうと、肉体的にも精神的にも負担がかかってしまいます。

朝5時半起きが「体に負担がかかりにくいギリギリのライン」

そのように考えると、理想的なのは、朝起きてから、比較的すぐに太陽の光を浴びることができる時間に起きることです。

そこで、実際に「東京の1年間の日の出の時間」を調べてまとめたのが、図表1のグラフになります。

「1年の間で、平均的な日の出の時間が何時なのか」を調べてみると、東京の場合、春分や秋分の時期の「朝5時半くらい」が1つの目安になります。

先ほど説明をしたとおり、体内時計には履歴効果があるため、いったん習慣を身につけてしまえば、同じ習慣を続けやすくなります。

履歴効果を活かして、太陽が早い時間に上がってくる「春分から秋分の半年間」で朝5時半起きの習慣を身につけましょうというのが、私の主張でした。

日の出の時間が遅い冬の季節は、起きるのが少しつらく感じられるかもしれません。

しかし、春分から秋分の半年間で身につけた生活習慣の履歴効果によって、残りの半年間を乗り切ることが可能になります。

このように、様々な点を考慮すると、朝5時半起きが「体に負担がかかりにくいギリギリのライン」なのです。

中高年に朝5時半起きが不向きな理由

さて、ここまでをご理解いただいたうえで、本題に入りましょう。

中高年の方の中には、朝5時半、もしくはその前の時間帯に起きて、早朝から散歩をしている方が数多くいらっしゃいます。

しかし、こうした早起きは、中高年の方々にはオススメできません。

なぜなら、朝5時半起きは、あくまでも若いビジネスパーソン向けの習慣であって、中高年の方々の睡眠習慣としては、明らかに不向きだからです。

なぜ、中高年の方々にとって、朝5時半起きは不向きなのでしょうか?

その理由は、中高年は1日のサイクルをできる限り遅らせた方が良いからです。

分かりやすくイメージしていただくために、子どもと高齢者の睡眠を比較してみましょう。

高齢者と違い、子どもは体力(起きている力)だけでなく、睡眠力(眠れる力)もあります。

ですから、例えば、起きている時間が17時間、眠っている時間が8時間だとすると、1日が25時間になってしまいます。

これに対し、高齢者は体力も睡眠力も落ちてしまっています。

仮に起きている時間が15時間、眠っている時間が7時間だとすると、1日が22時間になってしまいます。

先の記事でお話ししたように、ヒトが眠れる時間はどんどん短くなっていきます。

この時間を長くすることはできません。

ですから、1日を24時間にするためには、起きている時間を15時間でなく、がんばって17時間に延ばす必要があるのです。

「眠る努力」より「起きている努力」を

実は、睡眠における努力の方向性は1つしかありません。

例えば「眠る努力」と「起きている努力」、仮に2つの努力の方向性があるとするならば、あなたにできるのは、いったいどちらでしょうか?

例えば、眠くもないのに「眠る努力」をしても、絶対に眠ることはできません。

あなたにも経験があると思いますが、「眠らなければならない」と思えば思うほど、逆に目が覚めてしまうものです。

ヒトは「眠る努力」はできません。あなたにできるのは「起きている努力」だけで、それこそが「睡眠における唯一の努力の方向性」なのです。

さて、「体内時計の履歴効果」と「睡眠力の低下」について、ご理解いただいたうえで、「どのような習慣を作っていくべきか」について、具体的に話を進めていくことにしましょう。

健康寿命を延ばしたり、アンチエイジングをしたりするのに欠かせないのが「成長ホルモン」です。

中高年の睡眠を考えるうえでは、「成長ホルモンの分泌量をいかに増やすか」が大事で、ここがゴールと言っても過言ではありません。

次からは「成長ホルモン」について、詳しく解説します。

7時間以上床にいない

成長ホルモンの分泌には、深い睡眠が欠かせません。

つまり、成長ホルモンの分泌を増やすためには、質の良い睡眠が欠かせないということになります。

では、睡眠の質を高めるためには、いったいどうすればいいのでしょうか?

そのためには、「メラトニン」や「コルチゾール」といったホルモンをうまく活用する必要があります。

「いかにうまく眠れるか」を司るのが「メラトニン」というホルモンです。

これに対し、「いかにうまく起きられるか」を司るのが「コルチゾール」というホルモンです。

これらのホルモンは毎日決まった時間に分泌されますが、これは「体内時計」によって、その分泌がコントロールされているからです。

例えば「これから夜ですよ」という信号を体内時計が出すと、メラトニンが分泌され、眠りの準備を始めます。

同様に「もうそろそろ朝が近いですよ」という信号を出すと、コルチゾールの分泌が高まり、グリコーゲンという糖の塊をエネルギーに変えていきます。

体内時計がホルモンの分泌をコントロールしてくれるからこそ、ヒトは時計がなくても、毎日同じような生活を送ることができるのです。

太陽の光を浴びないと、体内時計は2時間遅れる

先ほどもお話ししましたが、体内時計について知っておかなければならないのは、体内時計は1日が25時間であるということです。

ヒトは25時間の時計を持って、24時間の生活に対応しています。

では、体内時計は、この1時間の差をどうやって縮めているのでしょうか?

その調節をしているのが「朝の太陽の光」です。

朝日を浴びた瞬間に、ヒトの体内時計は25時間から24時間に短縮されるようになっているのです。

例えば、週末に寝だめをして、スッキリ月曜日をむかえられると思ったら、逆に体がだるかったという経験はありませんか?

これは寝だめをするのが悪いのではなく、週末に寝過ごすことによって、朝の太陽の光を浴びることができなかった結果、体内時計が遅れたままになってしまったからなのです。

仮に、土曜と日曜の2日間、朝の太陽の光を浴びなかったとすると、体内時計は2時間遅れてしまいます。普段、朝6時に起きている人は、朝4時に起きるような感覚になってしまうのです。

朝5時半から8時半の3時間が最も起きやすい

さて、ここまでをご理解いただいたうえで、「成長ホルモンをいかに増やすか」について考えてみましょう。

睡眠の質を決めるメラトニンとコルチゾールの分泌は、体内時計によってコントロールされています。

ということは、これらが分泌される時間に合わせて眠れば、深い睡眠が増えて、質の良い睡眠を得られるということです。

では、メラトニンやコルチゾールが分泌されるのは、いったい何時くらいなのでしょうか?

まずメラトニンですが、図表2のとおり、夜の9時(21時)頃から分泌されて、朝の9時頃には分泌されなくなります。

メラトニンが多く分泌されるのは、その中間である0~6時ですから、この時間帯が「最も眠りやすい時間帯」になります。

一方、コルチゾールは、図表3のとおり、夜中の3時頃から出始めて、朝5時半から朝8時半の3時間の間にピークになります。

コルチゾールは体の栄養素からブドウ糖を作り出して、それを燃やすことによって体温を上げます。

そのため、コルチゾールが分泌されると、体温が上がってきます。

体温が上がってくると、ヒトは目が覚めやすくなりますが、コルチゾールの分泌が一番多くなるのは、朝5時半から8時半の3時間です。

ですから、この3時間が「最も起きやすい時間帯」になるのです。

0時から朝6時が「睡眠のゴールデンタイム」

このように、メラトニンとコルチゾールの分泌を考えると、0時から朝6時が「最も質の良い睡眠を得られる時間帯」となります。

言い換えれば、この時間帯こそが「睡眠のゴールデンタイム」なのです。

ちなみに、睡眠のゴールデンタイムは老若男女、万人に共通です。

子どもであろうが、中高年であろうが変わりません。

なぜなら、ホルモンを出すタイミングを決めているのは体内時計ですが、体内時計が何によって決まっているのかと言えば、それは太陽だからです。

日の出、日の入りは万人に共通ですから、それによって決められている体内時計やホルモンの分泌のタイミングも、万人に共通です。

ですから、睡眠のゴールデンタイムが0時から朝6時であることは、万人にとって共通なのです。

さて、ここまでをご理解いただいたうえで「理想の睡眠時間」について、考えてみましょう。

先の記事で玉腰教授の研究データをご紹介しましたが、死亡率が最も低く、体に最も負担がかかりにくい睡眠時間は7時間です。

ですから、中高年の方々にとっては、1日7時間の睡眠が理想的と言えるでしょう。

これを先ほどのゴールデンタイムに当てはめてみると、中高年の方々にとって、理想の睡眠時間は、夜11時半(23時半)から朝6時半の7時間です。

言い換えれば、「眠れようが眠れまいが、この時間帯以外は床に入らずに、起きていてほしい」ということです。

7時間以上は床にいない。これが「第1の習慣」になります。

中には「何だ、そんな簡単なことかよ」と思う方もいらっしゃるかもしれませんね。

しかし、夜11時半(23時半)から朝6時半の7時間以外、床にいないということは、言い換えれば、1日24時間のうち、残りの17時間は起きていなければならないということです。

これは中高年の方々にとって、口で言うほど簡単なことではありません。

やることがなく、ただテレビを観ながらボーッと過ごしているだけでは、1日17時間も起きていることは難しいでしょう。

そこで「第2の習慣」が必要になります。

1日17時間起きているために、日中をどのように過ごすべきなのでしょうか?

次から解説していきます。

1日7000歩程度の活動をする

先ほどお話ししたとおり、中高年の睡眠は「1日7時間以上は床にいない」というのが、まずは基本になります。

そうした考え方をベースにして、私のクリニックで、実際に患者様に睡眠指導をした例をご紹介しましょう。

次のページの図表4は、患者様に行動計を装着してもらい、「1日の活動量」や「睡眠の状態」を解析したカルテになります。

この患者様は当時57歳の女性で、「寝付きが悪く、なかなか眠れない……」ということで、私のクリニックにいらっしゃいました。

2020年7月4日から9日にかけてのカルテになりますが、クリニックで睡眠指導を行ったのは7月6日になります。

カルテの内容を具体的に説明すると、グレーの色の濃い部分が「よく眠れている時間帯」です。

これに対し、グレーの色の薄い部分が「途中で目が覚めている時間帯」=「睡眠が悪い時間帯」になります。

実際に指導をする前の7月4日から6日に比べ、指導後の7月8日と9日は色の薄い部分が減り、「よく眠れている時間帯」が明らかに増えていることがお分かりいただけるのではないでしょうか?

私がこの患者様に指導したのは、次の2点のみです。

①午前1時から午前8時までの7時間以外は床にいないこと

②日中にできる限り歩くこと

以下、順番に説明しましょう。

まず①ですが、この患者様の場合、7月6日に指導をする前は、起きる時間がバラバラで、午前8時に起きたり、午前10時に起きたりしていました。

話を聞くと、「居間に布団を敷いて寝ている」とのことで、7月5日は午前8時に起きているものの、寝足りなかったのか、午前10時から12時くらいまで、再び寝てしまっています。

ですから、この患者様にまず指導をしたのは、「午前1時から8時までの7時間以外は床にいないでほしい」ということです。

午前8時になったら起きて、居間に敷いた布団を片づけてもらい、それ以外の時間は床にいないように指導しました。

中高年の睡眠は「遅寝、遅起き、だらしなく」

先ほど、「睡眠のゴールデンタイムに合わせて、夜11時半(23時半)から朝6時半の間に寝ましょう」という話をしましたが、この時間帯を厳密に守る必要はありません。多少、時間が前後しても大丈夫です。

繰り返しになりますが、中高年の睡眠の基本は「遅寝、遅起き、だらしなく」です。

ここに「だらしなく」を加えているのは、中高年の場合、「この時間帯に、絶対に寝なければならない」と考えると、余計なストレスがかかってしまうからです。

余計なストレスは睡眠の質を下げます。

ですから、多少時間がズレてしまうのは、全くかまいません。

歳を取ったら、少しズボラな程度でちょうどいいのです。

次に②ですが、この患者様には、日中にできる限り歩くよう指導しました。

指導前の7月4日と5日は1700歩程度でしたが、指導後の7月7日は2000歩、7月8日は4000歩と徐々に歩数が増えています。

その結果、7月8日と9日は、ともに「途中で目が覚めている時間」が減り、「よく眠れている時間」が増えて、睡眠の質が向上しました。

1日7000歩程度の活動をする。これが第2の習慣です。

日中の活動性を上げて、睡眠の質を上げる方法

ちなみに、私が言う「1日7000歩程度の活動」は、1日7000歩程度のウォーキングと考えていただいてかまいません。

もちろん、ゴルフやスキーなどのスポーツで体を動かすことも、この活動の中に入ります。

もしくは、肉体労働やボランティアなどで体を動かすのもしかりです。

7000歩は、平均的な速度で歩けば、1時間程度のウォーキングになります。

1日7000歩のウォーキングは、本書で解説していますが、「体温を上げる」という観点からも、非常に有効です。

以上が日中の活動性を上げて、睡眠の質を上げる方法になります。

---------- 遠藤 拓郎(えんどう・たくろう) スリープクリニック調布院長 慶応義塾大学医学部特任教授、医学博士。東京慈恵会医科大学卒業、同大学院医学研究科修了、スタンフォード大学、チューリッヒ大学、カリフォルニア大学サンディエゴ校へ留学。東京慈恵会医科大学助手、北海道大学医学部講師を経て、現職。祖父(青木義作)は、小説『楡家の人々』のモデルとなった青山脳病院で副院長をしていた時代に不眠症の治療を始めた。父(遠藤四郎)は、日本航空の協賛で初めて時差ボケを研究。祖父、父、息子の3代で90年以上、睡眠の研究を続けている「世界で最も古い睡眠研究一家」の後継者である。 ----------

 

大好調の意見

 著者の遠藤拓郎氏は、文章の書き方をご存じないようだ。初めのころは違和感を感じていじってみたが、中止した。これで大学教授が務まるものなのかと不思議な気分である。