KDDIが楽天を買収したらアマゾン超えも夢じゃない?ローソンTOBの「先」を予測してみた

鈴木貴博 によるストーリー  • 1 日

2024.2.10

 

ローソンのTOB(株式公開買い付け)に乗り出すKDDIですが、この選択には「先」があるかもしれません。もしもKDDIが楽天を買収したら、アマゾン超えも夢じゃないかもしれないのです。(百年コンサルティング代表 鈴木貴博)

KDDIが将来、楽天を買収する?ローソンTOBは序章に過ぎない

 あらかじめお断りしておきますが、この記事は未来予測を専門とする経済評論家による臆測記事です。ただ、業界内には根強いうわさがあって、「そういった話は当然、議論はされているだろう」という話でもあります。

 

 ローソンに対してKDDIがTOBを行い、三菱商事と共同経営に乗り出すというニュースが世の中を騒がせました。ここ数年では、一番話題性のある資本提携ニュースです。そのあらましについては今朝、解説記事を書きました(詳細は『ローソン「KDDI・三菱商事の共同経営」で王者セブンが負けるかもしれない3つの理由』を参照)。

 

しかし、今朝の記事で経済評論家としてあえて触れなかったことがあります。

「はっきりと書くことは差し控えますが、KDDIにはもう一つ小売り分野で大型買収の可能性がある」と書いた部分です。

 やはり重要な要素なので、きちんとした説明は必要だと思い直しました。私は「KDDIが近い将来、楽天を買収する可能性がある」と考えています。

 そのような構想が実際に進行しているかどうかは証拠がないという前提で、あらためてこれからの事態の展開、可能性を解説したいと思います。

KDDIがローソンを共同経営してもGAFAMレベルにはなれない

 その可能性を感じたのは、記者会見の中で三菱商事の中西勝也社長が切り出した「(今回の提携で)GAFAMがGAFA“L”に変わる」というコメントでした。GAFAMとはグーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル、マイクロソフトというアメリカのIT巨大企業を指す言葉です。その一角に、将来のローソンが入るというのがそのコメントの趣旨です。記者会見を耳にした多くの報道陣は、巨大買収で舞い上がった経営者が大風呂敷を広げていると感じたことでしょう。

 

ただ一部の業界関係者は、即座にある考えが頭に浮かんだはずです。「今回の提携、もう一つその先があるのではないか?」 という推測です。

 当たり前の話ですが、三菱商事とKDDIがローソンを共同経営するからといって、GAFAMに比肩するほどの存在になるとは誰も思いません。今朝の記事で書いたように、ローソンがセブン−イレブンを追い抜く日がやってくる程度の話です。それはそれで大きな話なのですが、GAFAMというのは大風呂敷すぎるということです。

 

 しかしもしそこに、もう一つ、業界で根強くうわさされるM&A案件が加わったとしたら、どうでしょうか? 一部の業界関係者が即座に思い浮かべたその存在が、楽天市場です。

ローソンと提携した後ならばKDDIにとって楽天買収はメリット大

 ダイヤモンド・オンラインでも何度か取り上げさせていただきましたが、楽天グループは今、経営の正念場に来ています。巨額の投資とともに参入した楽天モバイルの不調で累積赤字がかさむうえに、1.8兆円の有利子負債は今年、来年と次々と借り換えの時期を迎えます。

 

 その結果、楽天証券、楽天銀行といった優良子会社は、相次いで外部の投資を受け入れる形で資金化されています。この後は虎の子といわれる楽天カードで、その次はいよいよ本丸の楽天市場かとまで予測されている状況です。

 

 この先としては楽天が自力で持ち直すシナリオと、どこかの段階で救済する企業が現れるというシナリオが考えられるのですが、その後者の候補にはKDDIの名前がちらついていました。KDDIは楽天モバイルと通信網の補完で提携していて縁が深い会社なのです。

 

 ただ、これまでの観測ではKDDIが楽天モバイルを救済するメリットは大きくはないというのが業界観測でした。なにしろKDDIはすでに携帯の全国網を構築しています。楽天モバイルの加入者が加わっても、業界シェアは2~3%増える程度でしかありません。楽天モバイルが持つ仮想ネットワークの技術力を加味したとしても、巨額救済のメリットは小さいのです。

 

 ところがここに三菱商事が座組に加わると、絵柄は一気に変わります。頭の中で想像してみるとすぐにわかります。三菱商事、KDDI、ローソン、楽天市場、楽天カード、楽天証券、楽天銀行が一つのグループになったら何が起きるでしょうか?

 

 想像できることが、三つあります。

(1)楽天、ローソン、auの持つビッグデータがそろうことで、日本最大の情報資産を保有する企業連合が誕生する

(2)それらの情報を自前のデータセンターに蓄積し、独自のAIで学習させていくことで、GAFAMに対抗しうる国産クラウド、国産AIが出現する

(3)そのビジネスモデルが国内で成功した段階で、ローソンのアジアの店舗網を武器にアジア展開することで日本の数倍の事業規模に拡大していく

 

 もしそうなれば、その先にあるのは国産企業初のGAFAMです。実際に計算してみると、その現実性が実感できます。

 三菱商事の時価総額は直近で11兆円、KDDIは10兆円で、合算すれば21兆円の企業集団ということになります。GAFAMの時価総額は1兆ドルというのが一つの目安で、日本円にすれば時価総額150兆円を超える企業集団です。

 単純計算ですが、株価が8倍になれば三菱商事・KDDI連合はGAFAMに到達できます。ローソン・楽天の誕生と成功で倍、国産クラウドの誕生と成功で倍、そしてアジア展開で倍に膨れれば、GAFAMに到達という計算が成り立つのです。

 

 一方で、三菱商事・KDDI連合なら、電撃的な楽天への資本参加もありえます。有利子負債の借り換えのめどが立たなくなった段階で、1.8兆円の借金を9000億円ずつ、楽天の負債を資本に組み替える条件で救済に乗り出したとしたら、楽天はともかく銀行団はもろ手をあげて歓迎するのではないでしょうか。

アマゾンが米国で失敗した無人コンビニもKDDI・三菱商事・ローソン・楽天連合のチャンスに

 今朝の記事で少し書きましたが、アメリカでは長らく、GAFAMの一角であるアマゾンがインターネット通販からリアル小売りへの進出を画策してきました。まずはスーパー大手のホールフーズを買収し、次に無人コンビニのアマゾンゴーへ進出したのです。ただ、その動きが最近、うまくいっていないといわれています。

 

 アマゾンゴーが展開しているアメリカのカリフォルニア州では、万引を警察が捕まえないというおかしな法律ができたおかげで、社会の治安状況が悪化しています。正確には950ドル(約14万円)までの窃盗は重罪にならないという法律です。こういった犯罪は生活苦が原因であるケースが多いので、刑務所に入れずに更生させるという趣旨で成立した法律でした。

 

 これは、本音では行政のコスト面の事情が大きかったようです。刑務所に1人収監すると年間1000万円を超える行政コストがかかるわけで、予算不足に悩む州としてはカネがかからず人道的にも見えるこの法律で、状況をなんとかしたかったわけです。

 

 しかし、結果として起きたのは万引や車上荒らしなど窃盗犯罪の増加でした。アマゾンゴーは無人店舗にたくさんの商品が並ぶ業態ですから、治安のない社会では成立しません。無人コンビニはいずれアメリカから日本に上陸する黒船だと思っていたところから一転して、現地の様子を見る限り、ゆるやかに撤退に向かっているようにも見えるのです。そしてそうなってくれば、アマゾンが目指してきたリアル小売りをDXで革命的に変える試みは、他のIT企業にチャンスが巡ってくることになるわけです。

 

 そのような業界事情があったため、冒頭の話に戻りますが「GAFAMがGAFA“L”に変わる」などという言葉が三菱商事のトップから出てくると「いよいよアマゾンに取って代わるつもりで、戦略構想を描き始めたのか?」と業界人はざわざわしてくるわけです。

 

 さて、冒頭で申し上げたように、今回の記事は業界内の臆測をもとにした記事です。楽天に関しては三菱商事もKDDIもローソンも、何を聞かれても否定するでしょう。

 

 ただ、ここにチャンスがあることは誰もが気づいている事実でもあります。当然、今回の三菱商事、KDDI、ローソンの提携で、ドコモもソフトバンクも、セブン−イレブンもファミリーマートも伊藤忠も、長期戦略を大急ぎで組み直し始めているはずです。

 

 その意味では三菱商事の社長がなぜ、わざわざ買収価格が上がってしまうような「GAFAMがGAFA“L”に変わる」発言をされたのかは謎ですが、日本の小売業界は、今回のニュースを転機に、大きく動き出すことになるようです。

 

大好調の意見

 「GAFAMがGAFA“L”に変わる」などという大きな絵がかける日本人は残念ながらいないと思う。そういう構想力が日本にあったならばもっと日本は違っていた。日本に出来ることは、トヨタの改善運動を果てしなく続ける程度である。