「全固体電池」は評価真っ二つ! 試作価格は従来「5~20倍」、韓国から刺客登場で日本EV電池戦略どうなる

矢吹明紀(フリーランスモータージャーナリスト) によるストーリー  • 10 時間

2024.1.22

 

韓国開発、リチウム金属電池の実力

 現時点において、業界内で期待されている電気自動車(EV)用の次世代電池といえば、全固体電池である。

【画像】「えっ…!」これが「全固体電池」です(全11枚)

 全固体電池とは、従来のリチウムイオン電池では液体だった電解質を固体化したものだ。電池としての性能はもとより、安全性にも優れているという大きなメリットを持つ。固体化電解質には大きくわけて

・硫化物系

・酸化物系

・ポリマー系

の3タイプが、電池全体の形状としては

・バルク型

・薄膜型

がある。

 これらはどれも長所と短所があるため、どれが一番優れているのかを評価するのはあまり意味がない。要するに適材適所、使用機器や使用環境に合わせて適宜選択することが重要となる。ちなみに自動車用としては「硫化物系 × バルク型」が必要なパワーとサイズの点で最も適しているといわれている。

 

しかし、これまであまり話題になっていなかった自動車用2次電池の実用試験が韓国で行われ、その性能の高さがニュースになっている。その電池とは「リチウム金属電池」である。この名称で区分される電池は、実は過去にもあった。しかしそれは充電可能な2次電池ではなく使い捨ての1次電池だった。いわゆる単3形のリチウム乾電池がそれである。

 

 それに対して今回韓国のKAIST生命科学研究所とLGエネルギーソリューションが共同開発したEV用リチウム金属2次電池は、同サイズの従来型リチウムイオン電池に対して

「約1.5倍」の能力を持っていると伝えられている。この性能レベルは単純に比較できないが、おおむね全固体電池のそれに近いといっていいだろう。

 

 具体的には従来型のリチウムイオン電池では600km程度だった最大航続距離を900kmまで延伸できたというもの。この電池はその電解物質には液体のホウ素酸塩-ピランを使っているのが特徴であり、構造的にもよりシンプルとなるという。この電解物質は液体電解質としては安全性も高く、EV用としては申し分ない。

全固体電池に並ぶ実力

 ちなみに、リチウム金属2次電池については、ソフトバンクが開発を進めている成層圏通信プラットホーム用の重量エネルギー密度の高い特殊電池が過去に報じられている。しかし、この電池は極めて特殊な用途であり、自動車に使用するのは現実的でないため、EVの議論ではほとんど触れられてこなかった。

 

 高い性能と安全性を誇るリチウム金属2次電池。次世代EV用電池の“エース”と目されてきた全固体電池に匹敵する強力なライバルの出現は、今後のEV業界にどのような影響を与えるだろうか。

 

 ここでもうひとつ、興味深い調査結果に注目したい。同じく韓国のSNEリサーチによる、将来のEV用電池市場を予測したリポートである。その内容は、「近い将来に全固体電池が実用化されたとしても、市場への浸透は極めて限定的なものとなるだろう。理由は原材料が高価かつ希少なため、市場での価格競争力的に弱いものとならざるを得ない」というものだ。

 

 新型リチウム金属2次電池の存在は、まさしくこうした全固体電池の弱点を克服したものと見ることもできる。今回の韓国のリチウム金属2次電池開発成功のニュースは、おそらく今後のEV電池市場に大きな影響をもたらすだろう。

 

 しかし、現状ではあくまで実用化を目指した実験に成功したというレベルの話であり、技術的進捗(しんちょく)度という意味では全固体電池と大差はない。それが今後市場で十分な競争力を持つ存在に成長できるかどうかは、もう少し時間が必要となるだろう。

日本のEV戦略の鍵

 このような状況下で、日本はどのような方向に進むのが正しいのだろうか。

 開発を進めてきたメーカーにとって、全固体電池の価格が基本的に高いことは周知の事実である。試作段階の価格は、既存のリチウムイオン電池の「5~20倍」といわれていた。率直にいって、この数字は現時点では製品として実現するには高すぎると考えられていた。

 

 つまり、メーカーにとってコスト高という問題はすでに織り込み済みなのだ。例えば、トヨタは新技術の説明のなかで、まずは車両全体のコストを抑制しやすいフラッグシップモデル、特に高性能モデルにのみ全固体電池を採用し、量産効果でコストダウンを図る戦略を発表した。

 

 例えば、トヨタは新技術の説明のなかで、まずは車両全体のコストを抑制しやすいフラッグシップモデル、特に高性能モデルにのみ全固体電池を採用する戦略を発表した。つまり、最初から広く普及させることを狙っているわけではないのだ。

 

 こうした状況を踏まえて日本のEV用電池戦略の今後を推測すると、おそらく次のような形になるだろう。

 まず、日本は既存のリチウムイオン電池技術のさらなる性能向上を目指す。その過程でリチウム金属2次電池の可能性があれば、そちらへの転換も選択肢となるだろう。

 

 その上で、これまで何度も価格変動の影響を受けてきた電池材料の安定確保を目指す。これが最も妥当な方策と思われる。電池材料は、自然界で産出されるものが価格面で優れているが、それが将来も安定しているという保証はない。

リサイクル技術が開く将来

 そのため近年、電池のリサイクル、いわゆる“都市鉱山”に注目が集まっている。

 この分野を商業的に軌道に乗せることは、既存のリチウムイオン電池の量産コストを下げる上で大きな意味を持つ。

 

 ひいては、コスト削減が難しい全固体電池を低コストで量産できるようになるまでのつなぎの技術にもなる。

 

 全固体かリチウム金属か――。将来のEV戦略を構築するとなると、そう単純ではない。原材料の確保から廃棄物のリサイクルまで、しっかりと腰を据えてシステム化することが、将来的に最も安定した戦略となる。

 

大好調の意見

 全個体電池の現時点における状況がこんな状態とは思いもしなかった。全然、実用化には遠い状況ではないか。テスラと中国はよく販売しているものだ。こんな未熟な技術を消費者に押し付けるものである。