まもなく米国株のピークか?日本のバブル崩壊時に酷似する上げ相場の終焉迫る

市岡 繁男 によるストーリー  • 5 日

2024.1,8

 

  • FRBによる急ピッチの利上げにもかかわらず上昇してきた米国株。今後予想される利下げでさらなる株高期待の声も挙がる。
  • だが、このところの上がり方は日本のバブル崩壊時に似ている。ダウ平均が近くピークをつける可能性がある。
  • 米露で大統領選が控えるなど、各種イベントがある中、注意が必要だ。

(市岡 繁男:相場研究家)

はっきりしない世界的な株価高騰の理由

 自然界の異変が続いています。2023年12月上旬、中国・上海では30年ぶりの暑さになったそうです。さらにその1週間後、今度は40年ぶりの寒さになったと報じられました。中国では古来、自然界の異変は人間界で起きることの前兆として捉えられてきました。

 

 日本でも2024年の元日に石川県能登地方を震源とする令和6年能登半島地震が発生しました。被災されたみなさまにお見舞い申し上げます。

 大地震で始まった2024年、政治経済も大揺れとなり、各種相場もこれまで以上に振幅が大きくなるのではないかと見ています。

 

 そう思えて仕方がないのは、昨年から続く世界的な株価高騰の理由がはっきりしないからです。

 欧米の中央銀行は何度も利上げを行い、総資産を圧縮してきました。本来ならば中央銀行が利上げのみならず、量的引き締め(QT)を行えば株安になってしかるべきですが、そうはなっていません(図1)。

【図1】出所:FRB、ECB、日銀、MSCI

【図1】出所:FRB、ECB、日銀、MSCI© JBpress 提供

(本記事は多数のグラフを基に解説しています。正しく表示されない場合にはオリジナルサイト「JBpress」のページでお読みください)

利上げしたのに金融緩和状況は利上げ前のレベル

 それどころか、金融が引き締め基調にあるかどうかを映すシカゴ連銀の金融環境指数は、2022年3月の利上げ前のレベルまで金融が緩んでいることを示しています(図2)。

【図2】出所:シカゴ連銀、WSJ

【図2】出所:シカゴ連銀、WSJ© JBpress 提供

マイナス成長なのにドイツ株は最高値更新

 つまり米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げは全く効いていないのです。また米国のように景気が良いのであればともかく、マイナス成長が続く中で最高値を更新しているドイツ株の動きも理解不能です。

 

 2024年はFRBや欧州中央銀行(ECB)による利下げが想定されており、昨年以上に株価が上がると見る向きが多いようです。

 しかし、現在の米国のダウ平均の上がり方は、1989年末の日経平均の値動きとよく似ており、新年早々にも株価がピークをつけそうなイメージです(図3)。

【図3】出所:日本経済新聞、WSJ

【図3】出所:日本経済新聞、WSJ© JBpress 提供

アップルなどわずか7銘柄に資金が集中

 当時の日本株は金利が高止まりする中、投機筋が品薄株を買い上げることで平均株価を押し上げましたが、現在の米国株もアップルなどIT関連7銘柄に資金が集中し(S&P500株価指数の時価総額のうち30%がこの7銘柄)、1989年の日本株とある意味で同じような状況です。

 

 では米国株は34年前の日本株と同じ轍を踏む可能性があるのでしょうか?

 カギを握るのはウクライナ戦争と中東紛争の先行きだと思います。

 古来、戦争は最大のインフレ要因であり、FRBがウクライナ戦争勃発の直後から利上げに踏み切ったのは偶然ではありません。

急増する米国の政府債務

 この数年、米国の政府債務は急増していますが、コロナ禍の一服後も政府債務が増えているのは、バイデン政権によるウクライナ援助が一つの要因です(図4)。そうしたお金が軍需産業を中心に米国に還流し、現在の株高を支えている可能性があります。

【図4】出所:米経済統計局(BEA)、FRB「Flow of Funds」

【図4】出所:米経済統計局(BEA)、FRB「Flow of Funds」© JBpress 提供

 

 パウエルFRB議長は「バイデン政権の支出は持続不可能」と異例の政府批判発言をしました。実際、FRBが金融を引き締めても政府が大規模な財政支出を続けていたら、穴の開いたバケツに水を入れるようなものです。

 

 そんなパウエル議長は12月中旬の会合で、これまでとは正反対の利下げ容認発言をしました。あまりにも急な変心ゆえ、何か隠された金融問題が浮上するのではという憶測すら呼んでいます。

 

 戦争は通常、相手国の首都を占領する形で終わりますが、ロシアはウクライナの首都であるキーウに進軍する気配はなく、戦線は膠着しています。しかし、一般論として、双方の戦力が同等であれば、人口が多い方が有利であり、兵力の補充に腐心するウクライナの劣勢は否めません。

パウエル議長はなぜ利上げ容認発言したのか?

 また、ロシアは今年3月に大統領選がありますので、プーチン大統領もそれまでに大規模攻勢をかけて、ウクライナ戦争に決着をつけたいはずです。

 先述のように、FRBはウクライナ戦争の勃発直後から利上げを開始しました。その戦争が終わると、インフレ圧力は弱まり、利上げスタンスを維持する必要はなくなります。うがった見方をすれば、パウエル議長が心変わりしたのは、そうした戦局を巡る情報が入り、利上げを続ける前提条件がなくなったからとも考えられます。

ウクライナ戦争が終結しても世界平和訪れず

 しかし、戦争が終結した場合、今度は米国株が変調を来す可能性があります。政府債務増で拠出した対ウクライナ支援金が軍需関連等に還流し、金利が上昇しながらも株高が続く要因となっていたからです(上記の図4参照)。

 

 いまのマーケットコンセンサスは、FRBが利下げに転じたら昨年以上の株高になるというものです。しかし「利下げ=株高」になるとは限りません。

 

 直近の例で言うならば、FRBは2016年から2019年半ばにかけて積極的に金利を引き上げました。その後、2019年8月に利下げを行いましたが、株価はその後の数週間で6%強も下落し、コロナ禍を挟んで10カ月間で3割も暴落しています。景気が低迷することなく高金利を維持できるのであればFRBは何もしないはずです。

 

 それが一転、利下げを行うということは、何か利下げを行わなければならない景気悪化要因が出現したということです。その場合は普通、株価も下落します。これまでタカ派だったパウエル議長の突然の変心は、ウクライナ戦争の終結などの「景気に対する悪材料」を知らされたのかもしれません。

 

 しかし、たとえウクライナ戦争が終結したとしても、それで世界平和が訪れるわけではありません。中東情勢がさらに悪化するリスクが高まっているからです。ひょっとすると、欧米主要国、さらにはロシアなども、来るべき中東での大戦争に備え、ウクライナでの休戦を急いでいるのかもしれません。

 

 次回は、中東情勢が悪化した場合、どうなるかについて取り上げます。

※本稿は筆者個人の見解です。実際の投資に関しては、ご自身の判断と責任において行われますようお願い申し上げます。

 

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