富裕層マネーの専門家が「長期投資は株一択」と断言するワケ、金投資の意外な結果も…

江幡吉昭 によるストーリー  • 7 時間

2024.1.4 

 

インフレが進む中、資産を守るために株や債券、金などさまざまな金融商品に分散して投資をしようと考える人が少なくありません。しかし、過去のデータを見ると、超長期で投資をするなら「株一択」であることが分かります。知っておきたい「超長期投資の鉄則」とは。(アレース・ファミリーオフィス代表取締役 江幡吉昭)

200年間で株・国債・金の価値はどう変わった?

 30年にわたるデフレが終わり、インフレ下における投資の必要性を認識する人は増えているようです。「投資の勉強をし始めた」といった話をよく聞きます。

 そのような投資初心者は、軽く読めるお手軽なハウツー本に手を出しがちです。そういった初心者向けの本も悪くないですが、私は少し投資用語が分かったくらいの段階で、なるべく早く投資に関する名著(取っ付きづらいですが)を読んだ方が、さらに自分のためになると考えています。

 

 投資に関する名著に、米ペンシルベニア大学のジェレミー・シーゲル教授が書いた『株式投資』(日経BP)があります。この本は、1801年から2006年のなんと200年間にわたる超長期にわたって株や債券、金やドルがどの程度上昇したのかを豊富なデータで検証しています。10年、20年という中長期の期間であれば、皆さんご存じの通り、株式投資は非常に優位性が高いです。

 

 それでは、200年にわたる超長期ではどのような結果になるのでしょうか。

 この著書によると、1801年に1ドルの投資をしたとして、

・株式は1ドルが75万5163ドルで約75万倍に上昇

・長期国債は1ドルが1083ドルとなり1083倍

・金は1ドルが1.95ドルで約2倍

・米ドルは0.06ドルで15分の1以下

※ドルベース、実質トータルリターン

 と分析しており、株式ポートフォリオの大部分を株式指数ファンドに投資することが最適であると結論付けています(株・債券などの分散投資ではなく、各国株式で分散投資をするということ)。

 

 意外なのは、株式の上昇に比べて金が大して上昇していないことです。株が約75万倍の価値になっているのに対して、金は約2倍。その差は歴然です。今は金が円建てで高値を更新しているし、金は長期保有に向いているというイメージがあります。しかし、超長期で見ると株式にはるかに劣るのです。

 

 金が他の資産に比べて上昇していない理由としては、利息や利益などの価値を生み出していないということがあるでしょう。また、ドルが大きく下落しているのは、金本位制をやめた1930年代以降であり、無限に紙幣を発行できるようになったことが影響したと考えられます。

 

 なお、このジェレミー・シーゲルのデータは米運用会社のウィズダムツリーが2021年までのデータを加えて整理していますが、これによれば株は233万4990ドルになっており実に233万倍、金は4.06ドルで4倍、ドルは0.043ドルで実に20分の1以下になってしまっています。

株を長期保有するなら押さえておくべき二つのポイント

 いずれにせよ、ここから「長期投資は株一択」ということが分かるでしょう。では、なぜ株が超長期で見ると有利なのか。それは、株そのものが利益を生み出すものだからです。

 

 金は、先に触れたようにそれだけでは何も生み出さないものです。一方、株式は企業として利益を生み出すことができるので、長期的にはアウトパフォームするのです。

 

 よって私自身は株・債券・コモディティーなどの分散投資は必要ないと考えており、2024年から始まる新NISAは分散投資をする必要はなく、株式一択と考えています。そして、その株は長期にわたって保有することが重要です。もっと言うと、100年単位の“超長期”で保有すべきだと考えています。

 

家計の金融資産残高が2121兆円 4期連続で過去最高を更新

 株を中長期的に保有する上でおすすめの方法として、二つのやり方があります。

 まず一つは、新NISAやiDeCoなどを利用し、10~20年単位の中長期で株を積み立て保有すること。これは、多くのメディアで言われている通り、自分自身の老後の資産形成に役立つでしょう。

 そして二つ目は、特に企業経営者や富裕層におすすめしたい方法ですが、法人を使って100年単位で株式を保有することです。

「資産形成がすでにできており、その築いた資産を子どもや孫などの一族に超長期で残したい」という人たちは、あえて、株式を法人で代々保有すべきだと考えています。超長期の投資は、個人には向いていないからです。

 人間の寿命は数十年。親が築いた株式は、親が死亡すると、多くのケースで子どもが相続直後に売却して現金化してしまいます。株式投資は1代限りになりがちなのです。

 そこで法人を使います。法人は基本的なルールを定款で記し、それとは別に社訓や経営理念など、さまざまな決まり事を設定します。最近では、大金を支払って“家族憲章”を作っている超富裕層がいるくらいです。

 100年以上にわたって考え方を継承し、株式の長期保有を担保するためには、法人での投資が向いています。子どもや孫には、「株や金などを永続的に持ち続けるために持っている」というこのファミリーカンパニーの目的を伝えるとともに、会社を継いでもらうのです。

 出口を考える投資は個人で保有し、できれば永続的に一族のために持ち続けたいものは法人にしておくという形で株式投資に取り組むのは非常に有用でしょう。

資産の継承方法は生前贈与だけではない

 投資については、「ポートフォリオを組んで分散投資をすれば大丈夫!」と考えている初心者が少なくありません。

 

 しかし、ポートフォリオを組んだとて、個人投資家はリーマンショックのときのような大暴落のときは恐怖で何もできません。上手にリバランス(資産を再配分すること)などはできないと、私は断言します。

 

 リーマンショックのときは株だけでなく、債券やコモディティーも全ての資産がほぼ同時に下落しました。そんな危機下においては、「5%下がったら買おう」などと思っていても、恐怖で下落した資産の押し目買いはそう簡単にできません。

 

 ポートフォリオを組むというのはなんとなく安心感があるものの、それはあくまで平時の話で、混乱期にはそう簡単にはいかないのです。そこで、株、債券、コモディティーなどを無理やり組み合わせて複雑なポートフォリオを組むことはせずに、あえてシンプルに株式投資一択というわけです。

 

 ちなみに法人で株を保有するなら資産管理会社をつくるのが一般的だと思われるかもしれませんが、一般の事業法人で超長期に株式投資を行う会社もあります。

 100年以上の超長期投資をしたいと考える人がどれほどいるのかは分かりません。自分の代だけ裕福に暮らせたらいいという人もいるでしょう。

 

 しかし、子どもや孫に生前贈与を行うなど、自分の子孫にはその資産を十分に引き継ぎたいと考えている人は少なくないはずです。 短期的には毎年110万円程度の生前贈与でもいいかもしれません。しかし、子ども、孫、そしてもっと先の代のことを本当に考えるなら、資産を豊富に持っている人こそ法人に優良な株式やファンドを持たせ、超長期的にそれらを保有して、家族、一族の発展の礎としていくことです。

 

 超長期での法人での株式投資は出口の問題はあるものの、次の代に資産を残すという観点では現時点で最も超長期投資に最適な手法といえるでしょう。このデフレを脱却できそうなタイミングで、超長期にわたって株で一族の資産を守ることも視野に入れるべきだと私は考えています。

 

 最後にウォーレン・バフェットの名言の一つを紹介して本稿を終わりにします。

「私の好きな保有期間は永遠である」

 

大好調の意見

 「超長期での法人での株式投資は、出口の問題はあるものの、次の代に資産を残すという観点では現時点で最も超長期投資に最適な手法といえるでしょう。」とのご指摘ではあるが、私の考えは違う。

 

最も重要なことは如何に子孫を十分に教育するかである。と言っても、単に大学教育や大学院の教育を与えることではない。克己心や向上心とともに、持続的に努力する気質を植えてあげることである。

 

西郷隆盛は子孫に美田を残さずと言ったと言われるがまことにそのとうりである。だが、それだけでは不足すると思われる。