高齢者の幸福「居場所が9割」 金や健康よりも大事な理由

毎日新聞 によるストーリー  • 1 日

2023.12.28

 

人生100年と言われる時代を迎え、老後の生活に必要なお金や健康法の情報があふれている。そんな中、NPO法人「老いの工学研究所」理事長の川口雅裕さん(59)は「もっと大事なのは居場所です」と語る。

 

川口さんは、高齢期の幸福感を住環境や地域コミュニティーとの関係から考えた「なが生きしたけりゃ 居場所が9割」(みらいパブリッシング)を出版。前向きに過ごしていくための知恵とはどんなものなのか。

 

 川口さんは京都大学教育学部を卒業後、リクルートコスモス(現コスモスイニシア)に入社し、人事や広報を担当。退職して組織人事のコンサルタントとして活動し、2012年には同研究所の設立にかかわった。

 

 「高齢者の暮らしに関する指南本があふれていますが、その多くは医療関係者による健康法や生活習慣に関するものです」。川口さんには、高齢者の不安に乗じたビジネスのように映り、「高齢期の幸せは、もっとほかの要素とも密接に関係しているはず」と考えるようになった。以降、住居を中心とした身の回りの生活環境をどう充実させれば幸せに暮らせるのか、という観点でアプローチし、本書にまとめた。

 

 「高齢期の喪失体験は束縛からの解放」「高齢期でも人は成長し続ける」「年を取ることは後退ではなく変化」――。本書には、逆説的な指摘も目立つが、どれもデータやエピソードを交え、説得力がある。

 

 何よりも川口さんは、日本における「高齢者観」の根本的な見直しの必要性を強調。「高齢者は弱く、守るべき存在」というとらえ方が、かえって高齢者の自立や能力発揮の妨げになるとの見方を示す。

 

 本書の一節で「良かれと思ってやっている行動が、かえって高齢者の健康を損なうことになっていないか」と問いかけ、高齢者を「子ども扱い」するのではなく「大いに期待し、その能力を発揮してもらう」ことが健康寿命を延ばすことにつながるという。

 

「意図せぬ孤独」解決するために

 

 本書では、「意図せぬ孤独をどう解決するかが高齢期の一番の課題」とも指摘する。交流したいのに周囲に人が少ない。集いの場があっても情報が届かない。参加する意欲自体がわかない――。「意図せぬ孤独」を招いてしまう要因はさまざまで、本書では「自分の意志で孤独と交流を選択できる環境をどうやって整えるのか」を大きなテーマに掲げる。

 

 身体の状況に応じた安全・安心な住宅の確保や住み替えの検討、自分の役割や居場所を実感できるコミュニティーへの所属などを推奨。「健康の秘訣は同世代で集まること」を重要視する。メリットは、年寄り扱いされることがない∇心身の痛みやつらさをシェアできる∇集う機会を日常に組み込むことで規則正しい生活につながる∇身だしなみや清潔感に気を配るようになる――など多岐にわたり、どれも健康維持に結びつくという。

 

 「老後の生活資金には2000万円必要」「健康寿命は70歳代前半」。気になるデータが世の中にあふれ、「自分に当てはめてみて不安になった」という人は少なくないだろう。だが、本書はデータ解釈の誤りや抽出方法の不備などを丁寧に解説し、別の捉え方を提示することで、不安感の払拭に努める。

 

 川口さんは「人生の最終盤を自分らしく、ポジティブに暮らせるきっかけになればいい。心地よく感じる自分の居場所をぜひともに見つけてほしい」と話す。「なが生きしたけりゃ 居場所が9割」は四六判、224ページ。1760円。【中川博史】

 

大好調の意見

「高齢者を「子ども扱い」するのではなく「大いに期待し、その能力を発揮してもらう」ことが健康寿命を延ばすことにつながるという。」との指摘は有難い指摘ではなかろうか。参考になる本ではなかろうか。