「2つの鬼」を退治し盤石となった「高市女王政治」が避けて通れない3つの重大課題

清水克彦 によるストーリー

 • 5 時間 

2026.2.12 

 

 

「高市一強」時代の幕開け

「選挙後の国会の風景は、これまでとガラッと違ったものになるよ。高市さん一強時代の幕開けだよ。女王さまだよ」

 これは、2月3日、自民党の参議院議員が筆者に語った言葉である。国政選挙の直前、大手メディアが弾き出す情勢調査の中で、特に信頼性が高いとされる朝日新聞が、自民党の獲得議席を「292議席に達する可能性がある」と予想したのを受けてのものだ。

 蓋を開けてみると、自民党の獲得議席は316議席。全委員会の委員の過半数と委員長ポストを独占できる絶対安定多数(261議席)はおろか、単独で衆議院全体の3分の2を超え、連立を組む日本維新の会の36議席と合わせ352議席の圧勝となった。

 これにより、「永田町の気圧配置」は、安倍一強時代と同様、「政高党低」(高市政権の決定権が自民党を上回る状態)となり、万一、参議院で法案が否決されても衆議院で再可決でき、衆議院では憲法改正の発議が可能となった。

 振り返れば、1月19日、衆議院を解散する考えを明らかにした高市早苗首相は、「私に国家経営を託していただけるのか、国民の皆さまに直接、ご判断を頂きたい」と述べ、選挙戦での遊説では、「私」という1人称を前面に出して、「私でいいのかどうか、首相を選ぶ選挙だ」と強調してきた。

 その結果、自民党の大幅な議席増、そして選挙直前に「反高市」色を全面に出して旗揚げした中道改革連合が大惨敗したことを思えば、国民は、国内外ともに揺れ動く難局のかじ取りを高市首相に一任したと言えるだろう。

 人気投票と化した選挙で勝った高市首相は、当然ながら自信を深める。この先、国政選挙は再来年夏の参議院選挙までない。高市首相の自民党総裁としての任期は来年夏までだが、今回の圧勝で再選は濃厚だ。つまり高市首相は、2年半という何でもできる時間を手に入れたのである。

 2月18日頃と見られる特別国会以降、食料品の消費税減税をはじめ給付付き税額控除の検討が進むのは良いことだが、他に以下のような政策が、首相と官邸主導で進められることになる。

○高市カラーである積極財政を前面に掲げた経済対策

○防衛3文書の改定で、防衛力の増強、国家情報局の創設でインテリジェンスの強化、スパイ防止法の策定、場合によっては非核三原則(核を持たず、作らず、持ち込ませず)の見直し

○外国人管理政策の強化

○旧姓の通称使用の合法化

○皇室典範の見直しや憲法改正に向けた地ならし

成功した2つの「鬼退治」

 今回の選挙で、高市首相は2つの「鬼退治」に成功した。1つは、最大野党、中道改革連合を叩き潰したことだ。

 とりわけ、立憲民主党系の候補者たちは、小選挙区で「高市人気」に押され、政策面で公明党の「原発容認、安保は合憲」を飲んだことでコアな支持者に見限られた。

 頼みとする比例での復活も、全国11の比例ブロックで名簿上位を公明党系の候補者に譲ったためにかなわず、選挙に強いとされた小沢一郎氏をはじめ、岡田克也氏、枝野幸男氏、安住淳氏といった幹部級の前職が次々と涙を飲んだ。

 他方、政策と比例名簿での上位掲載を飲ませた公明党は議席増となり、中道という急ごしらえの寄り合い所帯の中で、残酷なまでに明暗が分かれる形となった。

 中道が野田佳彦共同代表らの責任問題はもとより解党の危機に直面する現状では、国会が始まったとしても、高市首相の「旧統一教会問題」や、選挙中の「円安で外国為替資金特別会計の運用はホクホク」といった発言を追及する声は迫力を欠くことになるだろう。

 もう1つは、自民党内で麻生太郎副総裁から自立できたことである。

 高市首相が唱える「積極財政」には、つねに「責任ある」という冠がついてきた。これには、財務相経験者で高市首相の生みの親でもある麻生氏や、麻生氏を義兄に持つ、同じく財務相経験者の鈴木俊一幹事長らの意向に配慮して、という側面もあった。

 それが、「私が首相でいいのかどうかを問う」と位置づけた選挙で圧勝したことで、麻生氏らの呪縛から解き放たれ、自分主導で政策を前に進めることができる優位な立場へと変化した。

 加えて、公明党の連立離脱や中道改革連合の旗揚げで厳しい戦いが予想された自民党の若手候補者たちは、高市首相の応援や「高市人気」のおかげで議席を手に入れたり、守ったりすることができたため、その多くが“高市チルドレン化”し、高市首相からすれば、弱かった党内基盤を一気に強化することにも成功した。

 つまり、高市首相は、今回の圧勝で、最大野党ならびに麻生副総裁という「鬼退治」に成功し、強い味方まで得たことになる。

直面する3つの課題

 まさに「女王」とも呼べる立ち位置を手に入れた高市首相だが、課題も存在する。それは以下の3つだ。

○連立の枠組み

 衆議院に限れば、自民党だけで何でもできる状態。連立を組む維新は数のうえでは不要。ただ、参議院では維新と合わせても過半数に届かない。そうした中、維新から閣僚を起用して重い責任を負わせるのか、衆議院の定数削減や大阪副首都構想でもめた場合、連立を解消するのか、あるいは、どこかのタイミングで国民民主党と組むのか、2027年春の統一地方選挙をにらんでの政権運営も問われる。

○止まらない円安

 輸出産業は「ホクホク」だが、行き過ぎた円安は物価高を招く。高市首相が理想とする英国の元首相、マーガレット・サッチャーは、インフレ期に宰相に就任し、緊縮財政と規制緩和で経済を立て直した。物価高抑制には、財政支出を抑え金融を引き締めるのがセオリーだが、高市首相の政策は「積極財政」と「低金利」で真逆。

○答弁の危うさ

「とにかく明るい高市首相」は個人的に「買い」だが、台湾問題に関する「存立危機事態」発言に加え、選挙期間中、札幌市での遊説で語った「外国資本に土地を買い続けさせるわけにはいかない」発言、さらには既述の「ホクホク」発言など、時折、記者会見や国会答弁で危うさがのぞく。

好都合なトランプ

 では、外交面ではどうだろうか。アメリカのトランプ大統領にとっては、高市首相率いる自民党が圧勝したことは好都合だ。

 トランプは、国際的には「グリーンランドを領有したい。反対するなら関税を課す」という発言で欧州と対立し、国内的には中西部ミネソタ州での不法移民取り締まりで犠牲者を出したことで、11月の中間選挙を前に支持率の急落に直面している。

 そんなトランプからすれば、高市首相は決して文句を言わないリーダーであり、防衛費の増額などによって、東アジアの安全保障に一定の責任を負ってくれる宰相に映る。言い換えるなら、「もっとも問題がない国の、もっとも話が合いそうな人物」に思えるからである。

「日本人のあなたは、そんな首相では物足りないと言うかもしれませんが、欧州と争い、ロシアやイランと交渉しているトランプは、日本のリーダーに関して高市さんであり続けてほしいと思っていたはずです」

 これは、在ワシントン保守系シンクタンクの研究者の弁だが、この言葉からも、トランプが3月後半にも高市首相を国賓待遇でアメリカに招こうとしている理由が見えてくるようだ。

不都合な習近平

 しかし、中国の習近平総書記(国家主席)はそうはいかない。

「台湾で大変なことが起きたとき、私たちは日本人やアメリカ人を救いに行かなきゃいけない。共同行動を取っているアメリカ軍が攻撃を受けたとき、日本が何もせず逃げ帰れば、日米同盟はつぶれる」

 1月26日、テレビ朝日での党首討論で、高市首相はこのように述べ、再び台湾問題に深く言及した。筆者も「その通りだ」とは思うが、案の定、中国は反発し、春節(旧正月)を前に、あらためて自国民に対し日本への渡航自粛を呼びかけたことは記憶に新しい。

 ただこれは些末な出来事だ。

 大事なのは、高市政権が発足した去年10月、中国・北京で開かれた中国共産党にとって重要な会議「4中全会」で、2027年秋に行われる党大会での習近平の「総書記4選」を進める方針が固まったこと、そして、超異例の「4選」が濃厚になった習近平が、1月24日、盟友と見られてきた中国共産党・中央軍事委員会の張又侠副主席らを粛清したことだ。

 国内経済の立て直しがうまくいかない中、習近平が4選を果たすには、これまでスローガンとして掲げてきた「中華民族の偉大なる復興」、すなわち台湾統一を成し遂げなければならない。

 そのためには、武力を行使してまで台湾を統一することに慎重な張又侠を、たとえ幼なじみであっても失脚させるしかないと考えたとしても不思議ではない。

 台湾統一を前に、自分に従順な最強の軍を作ろうとしている習近平にとって、防衛力を強化し、サイバー、宇宙、電磁波といった新領域戦に備えようとしている高市首相は邪魔でしかない。スパイ防止法の制定などインテリジェンス強化に前向きな姿勢も不都合極まりないのだ。

 高市首相はこの先、トランプと習近平とのグランド・バーゲン(大国間取引)を警戒しつつ、気分屋の大統領の機嫌を取り、牙をむく大国の動きに備えるほかない。

ハネムーン期間はもうない

 政権発足後100日のハネムーン期間が終わるか終わらないかのうちに衆議院解散に踏み切り勝利した高市首相。

 その高市首相はここまでの首相就任3カ月で、ガソリン暫定税率廃止、電気・ガス代支援、子育て応援手当支給などを達成してきた。とはいえ、すべてが高市政権による成果というわけではない。

 いろいろな意味で日本を強く豊かな国にできるか、選挙後、すぐに「鼎(かなえ)の軽重」ならぬ「サナエの真価」が問われることになる。

(政治・教育ジャーナリスト/びわこ成蹊スポーツ大学教授 清水克彦)

 

大好調の意見

 良い指摘であり参考になります。怖ろしいのは今後の対トランプ対応であろう。まさか今度も飛び上がって喜ぶわけにはいくまいて。