この記事は、穂吉のブログの「2012-06-05 16:57:36」にUPした『日本の神話22. ~第一部 創世~  =第三章 出雲国にて=』という記事を再編成してUPしています。



最初のお話し 『日本の神話01』     前回のお話し 『日本の神話21』



 須差之男命は、全ての爪を剥がされ、髪を短く刈られ、とうとう高天原を追放されてしまいました。

 追放された須差之男命は行くあてもなく、流浪の旅を続けておりました。彷徨い歩き、やがて出雲国の肥河(ひのかわ)の上流の鳥上(とりかみ)と云う地に辿りついた時のことでした。

『これから私は、どうしたら良いのだろう・・・』

 須差之男命は川の流れをじっと眺めていました。

 すると、一本の箸が流れてきたのです。

 その箸を見た須差之男命は、此処より上流には人の住まう場所があると悟ったのです。とにかくそちらに行ってみようと、須差之男命は歩きはじめました。

 上流へ上流へと歩いていくと、泣き悲しむ老人と老婆と出会ったのです。その二人の間には、若い娘が立っていました。この娘も、しくしくと泣いています。

『お前たちは何者ぞ。』須差之男命は尋ねました。

『私どもは、この土地の神、大山津見神(おおやまつみのかみ)の子でございます。私は足名椎(あしなづち)、妻は手名椎(てなづち)と申します。これは我らの娘、櫛名田比売(くしなだひめ)でございます。』

『それで、一体どうしてお前たちは泣いているのだ。』

 須差之男命は、再び尋ねました。

『私どもには、本当は八人の姫が居りました。しかし毎年この時期になりますと、北の方角より巨大な蛇がやって来ては、この地に禍いをもたらすのです。それを鎮める為に、毎年1人ずつ我が姫を生贄として差し出しておりました。そしてとうとう最後に残ったこの末の姫までをも、差し出す時が来てしまったのです。それが悲しくて、こうして泣いておりました。』

 足名椎が答えました。

 須差之男命は、この老夫婦をあわれに思いました。

『その大蛇はどんな形をしているのだ。』

『その目はまるで熟れた鬼灯のように赤く、一つの胴より八つの頭と八つの尾が生え、その腹は常に血が滴り落ちて真紅に染まっております。何より山のごとき巨大な蛇でございます。』

 なるほどそれは悍(おぞ)ましい姿です。しかし須差之男命には、それが恐ろしいものだとは微塵にも感じませんでした。

 須差之男命は、足名椎に、

『どうであろう。私がその大蛇を退治したら、お前の娘を私の妻にもらえぬだろうか。』

 すると足名椎は、

『なんと恐れ多い事でございましょうか。私は、あなた様のお名前すら存じておりませんのに。とんでもないことでございます。』

『私の名は建早須差之男命(たけはやすさのおのみこと)、天照大御神の弟だ。今、高天原より下ってきたところだ。』

 手名椎は驚きました。そんな素晴らしき神が大蛇を退治し、更に自分の娘を妻に迎えたいと仰ったのです。突然、ふって湧いたこの幸運に手名椎と足名椎は、ただただ頷くしかありませんでした。



- 追 記 -

『土地の神』とは、古事記では『国つ神(くにつかみ)』と書かれています。 高天原の神々を『天上の神』と呼ぶのに対して、系統の異なる、芦原中国の神々(地上の神々)を『国つ神』と呼ばれるのです。

『櫛名田比売命』様には別名があり、『奇稲田比売命(くしいなだひめのみこと)』様と仰います。名前の通り『稲田』を司る女神です。



ここまで読んでくださって、ありがとうございます。

おしまい。
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