法律で全国めぐり ~「久六島」に関する法律 | いくつ知ってる?法律トリビア【第一法規】

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こんにちは、第一法規「法律トリビア」ブログ編集担当ですカナヘイピスケ

 

みなさん、「久六島」という島をご存じでしょうか。
 
「久六島」は、青森県西津軽郡深浦町に属する島で、

青森県の日本海側から西へ約30キロメートルの場所にある小さな島なのですが、

あまり知られていないのではないかと思います。
 
実は、この「久六島」という島について定められた法律があります。
 
それは、「久六島周辺における漁業についての漁業法の特例に関する法律」

という法律です。
 
この法律は、今から60数年前の1953年(昭和28年)に定められたものですが、

ある特定の島についてのみ使われる法律があるというのは、

どんな事情があったのでしょうか。

 

⇒「法律で全国めぐり」シリーズはこちらからご覧いただけます。

 

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○何が書かれている法律か
 
まずは条文を見てみましょう。
 
 久六島周辺における漁業についての漁業法の特例に関する法律

 (昭和28年8月27日法律第253号)
  第1項

   農林水産大臣は、久六島(北緯四十度三十一分、東経百三十九度三十分附近の海面にある島しよをいう。)周辺の農林水産大臣が指定する海域における漁業につき、漁業調整上特に必要があると認めるときは、当該海域内にある漁場を管轄する県知事の漁業法(昭和二十四年法律第二百六十七号)に基く権限の全部又は一部を行うことができる。

  第2項

   農林水産大臣は、前項の規定により県知事の権限を行う場合には、その旨を告示しなければならない。

 
以上で全部です。
 
この法律には「条」がなく、第1項と第2項のみでできています。

この法律は、題名にもあるように、「漁業法」という法律の特例を定めた法律です。
 
「漁業法」には、漁業を行う人に対して、

県知事が漁業の免許を与える権限をもっていることなどが定められていますが、

久六島の特例法には、久六島周辺の海域について、

必要ならば農林水産大臣が県知事の権限を行使することができる…

という特例が書かれています。

○どんな事情があったのか

このような法律が作られた背景には、どんな事情があったのでしょうか。

この法律が公布される約2年前、

1951年(昭和26年)11月14日の国会(衆議院地方行政委員会)での、

宮腰亀助議員の発言を見てみましょう。
 
「……これはもともと青森県と秋田県の漁民が、

共同で入り会つて使用しておつたところの漁場であります。

その島は、島でなく岩礁でありまして、潮が満ちて来るとほとんど水の中に

没してしまつて、なくなつてしまうような状態でありますが、

非常に漁族が繁殖しまして、漁業家にとつては非常にいい場所であります。

そこで青森県では、この地籍は目分のものであるということで、

今から十日ばかり前に、青森県の地籍に編入すべきことを県会の決議によつて出して、

この問題を自治庁に言つて参りました。

ところがこの島がとられるということになれば、

秋田県側の漁民も非常に困ります。

そこで秋田県側も、これはたいへんだというので、今から三日ばかり前に

県会の決議によりまして、この久六島は秋田県の地籍であると、

こういうように双方で決議を出しまして、

自治庁に交渉して参つたのであります。……」

当時、久六島はまだどの県にも属していない土地でした。

そして、青森県と秋田県との間で、久六島周辺の漁業権をめぐる争い、

さらには久六島をどちらの県の土地とするかという争いがありました。
 
しかし、この当時の地方自治法には、

これを解決するための規定がありませんでした。

そこで、1952年(昭和27年)の同法改正により、

どの自治体にも属していない地域については、

内閣が、利害関係のある自治体の意見を聴いたうえで、

どの自治体に編入するかを決める…という規定が設けられました。
 
 地方自治法(昭和22年法律第67号)
  第7条の2第1項

   法律で別に定めるものを除く外、従来地方公共団体の区域に属しなかつた地域を都道府県又は市町村の区域に編入する必要があると認めるときは、内閣がこれを定める。この場合において、利害関係があると認められる都道府県又は市町村があるときは、予めその意見を聴かなければならない。

 
その翌年の1953年(昭和28年)には、

青森県・秋田県・水産庁の三者による協議の結果、漁業権について、

・漁場を管轄する知事が免許などの権限を行使することになるけれども、

 両県の漁業従事者に不安のないようにすること
・もし紛争が生じたときは農林大臣(現在は農林水産大臣)が

 権限を行使することとする。そのために必要な法律を作ること

という合意が交わされました。

これを受けて、「久六島周辺における漁業についての漁業法の特例に関する法律」

の案が国会で審議されました。
 
7月24日の衆議院水産委員会では、

法律案の提案理由が政府より以下のように説明されました。
 
「昭和二十六年漁業法改正により久六島周辺の漁場に新たに共同漁業権が

設定されるにあたりまして、漁場の利用関係とこれに関連して、

古くから不明確であつた同島の地籍の所属につき、青森秋田両県の間に紛争が

生じたのであります。爾来二年余、政府としましては、両県間のあつせんに

努めるとともに、漁場利用関係の調整のため、漁業法の特例を設けた後に、

同島の地籍を決定する方針のもとに両県関係者とたびたび協議を重ねて参りましたところ、

去る七月十八日両県沿岸漁民の漁業の操業に不安を与えないことを旨とし、

両県とも漁業上の問題について完全に意見の一致をみたのであります。
この法律案は以上のような経緯にかんがみまして、

漁業法の特例を設けようとするものであります。

すなわち、その趣旨とするところは、漁業法によれば、

漁場を管轄する都道府県知事が漁業の免許可を行うことになつているのでありますが、

久六島周辺漁場に関し、将来万一紛争が起り、その調整のため必要がある場合には、

農林大臣がみずから同島周辺の漁場を管轄する県知事の漁業法に基く権限を

行うことができるようにいたしたのであります。」

法律案は7月29日に国会で可決・成立し、8月27日に公布・施行されました。

○そして久六島は青森県になった

その後、10月15日に、久六島は青森県に編入されました。

 久六島を都道府県の区域に編入する処分(昭和28年10月15日 総理府告示第196号)

   内閣は、地方自治法第七条の二第一項の規定により、昭和二十八年十月十五日から、久六島(北緯四十度三十一分、東経百三十九度三十分附近の海面にある島しよをいう。)を青森県の区域に編入することに定めた。


○その後、争いはあったのか?

久六島の法律の第2項には、

農林水産大臣が直接権限を行使する場合は告示しなければならない

と規定されていますが、現在に至るまでその告示は出されていないようです。

ということは、国が乗り出さなければならないほどの争いは

その後起こっていないのだと思われます。

(この記事は、2017年3月5日時点の情報に基づいています)

 

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いかがでしたでしょうか。

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是非、次回もお楽しみにつながるうさぎつながる花1

by 第一法規 法律トリビア編集担当