いのちに格差があってはならない | 第一経営グループ代表 吉村浩平のブログ

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先日、埼玉映画文化協会の上映会で「いのちの山河~日本の青空Ⅱ~」という2009年に制作された映画を初めて観ました。なんとなく聞いたことはあるという話でしたが、これは国からの国民健康保険法を盾にした圧力や様々な嫌がらせに屈することなく、憲法25条(生存権)を前面に掲げ、日本で初めて医療費の無料化を実現した岩手県の旧沢内村の深沢晟雄村長の物語です。

 

ここ沢内村は大変な豪雪地帯です。そして貧困、更には近くに病院がないことから、病気になっても医者に診せることもなく、老人はもとより多くの乳幼児が育つ前に亡くなるという悲しい地域でした。深沢晟雄はそんな「豪雪・貧困・多病」の村を何とか変えたいとの思いを強くするなか、請われて村長選に立候補し当選します。

 

深沢村長がまず行ったことは、貧しい村の財政から除雪車を購入して冬でもバスが峠を通れるようにすることでした。そして更に東北大学へ何度も何度も何度も足を運び、ようやく若いお医者さんを紹介され、招聘して診療所を開設し、村民の健康診断が始まります。

 

どんな田舎であろうと「いのちに格差があってはならない」という熱い思いを語り続けることで、それに若い医師たちの良識が応えてくれるようになります。そして沢内村は1960年ついに乳児と60歳以上の医療費無料化を実現します。結果として深沢村長がリードする沢内村は、乳児の死亡率ゼロという、かつては考えられなかった村づくりに成功することになります。

 

村民一人ひとりの健康管理を行う台帳を整備し、医師と保健婦と住民が一体となった村民の命を守る取り組みを続けてきた歴史が、今に続いています。地方自治の原点を、日本国憲法においた取り組みと考え、そして生命に格差はないという、ごく当たり前の思いに本気になった取り組みだったからこそ、それは大きな力を持ち、広く全国へと影響力を及ぼすことが出来たのだろうと思います。

 

「いのちに格差があってはならない」ことは自明のことと言っても、あれから60年が経過する今、なんだか世の中の歯車は逆回転して来ているようにも感じられます。格差社会という言葉が普通にいわれる時代です。文科省の萩生田大臣が大学入試の共通テストに関わって「身の丈に合わせて勝負してもらえれば」という、国の教育行政のトップとしてはちょっと信じられない、異常な発言がありました。

 

複数税率という厄介な仕組みのままに消費税が10月から増税され、これを機会に廃業を選択した飲食店や小売業などの小規模業者が多いという話を聞きます。これまでの消費税増税にあたっては、一方で法人税率を下げその穴埋めに消費税増税の大部分が使われています。先日のニュースによると、トヨタ自動車が中間決算を発表しましたが、増収増益で過去最高の利益を計上しているということです。

 

力を持つ者が更に強くなれる仕組みをつくりリードする社会、そのオコボレで下々を潤すという「トリクルダウン」という発想のアベノミクスが進めているのが「経済格差」と「教育の格差」です。それは結局のところ社会全体を潤すことはなく、ついには「生命の格差」に繋がるものではないかという気がします。

 

制作から10年を経て観た映画ですが、なぜ映文協が企画したのか、まさに今こそ観る価値がある映画だということが分かりました。歴史の歯車が逆回転していることに気付くことが必要であり、更には何があっても決して現状を諦めないこと、憲法を前面に、当たり前の民主主義を守る運動を進めていくことの大切さを思いました。