今だけ・カネだけ・自分だけ | 第一経営グループ代表 吉村浩平のブログ

第一経営グループ代表 吉村浩平のブログ

第一経営グループ代表 吉村浩平のブログです

国際ジャーナリスト、堤未果さんの「日本が売られる」という幻冬舎新書をようやく読み終えました。堤未果さんには、今年6月に行われた「納税者の権利を守る」という経営理念を共にする会計事務所交流会で、前半の理念研修の部において講演をしていただきました。この本はその研修の少し前に買って読み始めたのですが、意外に重たくて、なかなか一気に読み進むことが出来ませんでした。

 

日本の水や食料、更に学校や医療など、私たちが生きていく上でなくてはならないものを、知らないうちに海外の資本が狙い撃ちし次々と買い漁っていると言います。しかも規制を緩和し、そうした民間資本、海外資本の参入を許す法律を安倍政権が意図的に作って来ているという、異常な実態を明らかにされているもので、かなり衝撃的な内容でした。

 

民営化することで無駄がなくなり効率化が進むという資本の論理が貫かれた時、幾多の歴史が示すように残念ながら収益性の悪いところでは、品質とサービスの劣化、最悪の場合は撤退に繋がってしまいます。それはいわゆる民間資本や海外資本から見て魅力的に見える、日本のライフラインと言われるような分野でも同じことのようです。

 

結果としていかに日本国民の生命の危険を招いているか、アメリカをはじめ世界中のあちこちで起きている事例を紹介しながら、日本の現状に警鐘を鳴らしています。しかも一旦民営化してしまったものを元に戻すことは、そう簡単なことではありません。損害賠償など多額の税負担が生じるケースも多いと言われます。

 

日本の農業における食の安全を守ってきたといわれる「種子法」が、一昨年20174月に国会のわずかな審議時間のもと廃止されたそうです。ほとんど聞いたこともない法律でしたが、実は大変な事態が進んでいることを感じます。アメリカ企業による遺伝子組み換えの種子と専用の農薬がセットで入ってくるというもので、更にはその食品表示すら不要にすることが検討されているとか、読んでいて段々に気分が悪くなるほどです。

 

農業だけではありません。20185月「森林経営管理法」という法律が出来たそうです。これは所有者が管理出来ないと自治体が判断すると、所有者の意思に関係なく企業に委託して伐採できるというものです。これも安い国内の木材を特定企業に提供するためという本音があると言われますが、どちらにしても、ここ最近の異常気象による水害への対策として、森林の保水機能を考えるなら、もっと慎重になる必要があるものです。

 

漁業では、漁協が管理する漁業権を民間企業に開放する、TPPとも連動する規制改革です。小さな漁港はつぶして漁業の「集約、大規模化、株式会社化」を進めるという漁業法の改正、海と共存し価格低下や資源枯渇しないように管理してきた従来のやり方は意味を無さないというのでしょう。更にこうした流れは、築地市場の売却、公設卸売市場の民営化へと繋がっていきます。

 

最近は横浜市長のカジノ誘致発言がニュースになっていましたが、将来の市財政を見据えてと言いながら、なんとも短絡的な発想で、カネに目がくらんでいるとしか言いようがないものです。大坂など全国で幾つかの地域が立候補を予定しているようですが、こうしたIR(カジノ)法でノウハウを持つと言われるどこの国の企業が利益を享受し、どこに悲劇が残るのでしょう。

 

日本の国民皆保険制度が危機にさらされているという「医療が売られる」と題した、「国保を食いつぶす外国人たち」という内容も衝撃的でした。医療目的を隠して来日し、国保に加入して高額の治療を受けに来る外国人が急増していると言います。これからは留学生だけでなく様々な形で外国人労働者が増えてくる中、こんな無防備で果たして国保の未来はどうなるのだろう。

 

そうした流れがある一方で、世界も変わってきています。堤未果さんの知人でスペインのテレッサ市民議会の31歳の女性議員、シルビア・マルティネスの言葉が紹介されています。「国民はいつの間にか、何もかも<経済>という物差しでしか判断しなくなっていた。だから与えられるサービスに文句だけ言う<消費者>になり下がって、自分たちの住む社会に責任を持って関わるべき<市民>であることを忘れてしまっていたのです」

 

そして「あとがき」の中で堤さんは言われます。「何が起きているのかを知った時、目に映る世界は色を変え、そこから変化が始まってゆく。水道や土や森、海や農村、教育や医療、福祉や食の安全……あるのが当たり前だと思っていたものにまで値札が付けられていたことを知った時、私たちは『公共』や『自然』の価値に改めて目をやり、そこで多くのものに向き合わされる。他者の痛みや、人間以外の生命、子供たちがこの先住む社会が、今を生きる大人たちの手の中にあることについて」・・・今何が起きているのか、まずそれを知ること・・・そこに世界に蔓延する「今だけ・カネだけ・自分だけ」という価値観を突破する希望を感じたいと思いました。