家族の繋がり、人の繋がり | 第一経営グループ代表 吉村浩平のブログ

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なんとなく本屋さんをブラブラしていたら、小説コーナーで「2019年本屋大賞受賞」のPOPが目に入りました。瀬尾まいこ著「そして、バトンは渡された」という本です。本の帯には「血の繋がらない親の間をリレーされ、4回も名字が変わった森宮優子、17歳。だが、彼女はいつも愛されていた。身近な人が愛おしくなる、著者会心の感動作」とあります。

 

イライラするような政治や経済に関わる文字だけでなく、たまにはこうした小説を読んで、心穏やかになろうかなと思い読んでみました。瀬尾さんの本を読むのは、もちろん初めてです。夕食後に少しビールを飲みながら読み始めたのですが、引き込まれて一気に読んでしまいましたし、気がつくと深夜、特に後半は本を読んでいて久々に涙が出てきました。

 

私、優子は、生まれて間もなく母を交通事故で亡くし、父と二人だけの暮らしです。数年が経ち父の再婚で明るく素敵な義母(梨花さん)と三人の暮らしが始まります。そして更に数年、父のブラジル転勤に伴う父と義母の対立に巻き込まれます。選択を求められた10歳の私が選んだのは義母と日本で暮らすこと。それからは軽快な雰囲気を持つきれいな義母から、無私の愛を受けて育てられることになります。

 

友達が通うピアノ音楽教室がうらやましくて、思わず義母につぶやいた一言「ピアノ、習いたいな」に応えるため、義母が選んだのは、少し年の離れた裕福な実業家との再婚。その新しい義父の優しさに包まれます。ところが、すべて満たされる生活の退屈さに家出してしまう義母。でも何故か時々私に会いに来るのです。

 

ある時、義母は中学時代の同級生と再婚することになったことの報告と、もう一度私を引き取りたいという話をしに来ます。すでに義父との話は出来ているようで、義父は中学生の私に最適な暮らしになるのならと、やむなく納得したといいます。「家族って何だろう」、なんて考えだしたら自分の中の何かが壊れてしまいそうだった・・・

 

「どっちでも、いいよ」。そして新しい義父(森宮さん・東大卒で一流企業のエリートサラリーマン、でも少し世間知らずのお人好し)と義母と三人の生活が始まります。ところが2か月もしないうちに、また義母は私を置いて「探さないでください」との置手紙とともに出て行ってしまいます。

 

私は、実父の姓(水戸)から義母の姓(田中)になり、そして最初の義父の姓(泉ケ原)になり、更に次の義父(森宮)の姓と4回も姓が変わる中で思春期を生き抜くことになります。この小説は、なぜか「はじめに」の部分と「おわりに」の部分の主語が最後の義父(森宮さん)で、それ以外の全編は私(優子)が主語として描かれています。森宮さんとの生活風景を通して、私のこれまでの人生を織り込みながら場面が展開していくのですが、まるで映画を観ているようにそれぞれの映像が浮かんできます。

 

タイトルの「そして、バトンは渡された」というのは、小さな子供だった私を育てるために、子育てを知らない周りの大人たちが「親」となり、それぞれ一生懸命に愛情を注ぎこんでくれる、そんなバトンの受け渡しを意味していると同時に、もう一つ謎解きのような最後のバトンリレーが残っています。まぁ、さすがにそこまでは書かないでおきましょう。

 

何があっても絶対に裏切らない、私を最後まで見ていてくれる信頼関係、お互いを尊重しあう親子の関係とは、家族の繋がりとは、そんなことを考えさせてくれる作品でした。本当に心が温まる作品です。

 

最近の親による「躾」という名のもとに行われる虐待で、4歳、5歳といった小さな子供が亡くなるニュースには、なんとも心臓が締め付けられるような気持ちにさせられます。もしかしたらビジネスの世界でも同じかもしれません。ハラスメントの延長にある、そんな大人の狂気が繰り返されないよう、血の繋がりや立場の違いに関係のない、人としての思いやり、優しさの大切さを思います。