新聞記者という仕事 | 第一経営グループ代表 吉村浩平のブログ

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お正月休みに何冊かの本を読みましたが、今回はそのうちの一冊、望月衣塑子さんの「新聞記者」(角川新書)を紹介します。望月さんは東京新聞社会部の記者で、昨年、菅官房長官の記者会見にあたって、慣例を破ってシツコイ質問を繰り返したことで一躍有名になった方です。

 

子供の頃は演劇に興味を持ち、女優になることが夢だったという話から、中学生の時にお母さんからフォトジャーナリストの吉田ルイ子さんの「南ア・アパルトヘイト共和国」という本を紹介され衝撃を受けたという話、そして業界紙の記者をしていたお父さんの影響など、新聞記者をめざすに至るまでの話は、正義感にあふれ、後先見ずに行動的に動き回る望月記者の底流にあるものを教えてくれます。

 

後先見ずにというか、新人の頃には十分な裏取りのないまま暴力団の関係で記事を書き大失敗をしたという経験があります。また被害者の親族に無理やり取材することの無慈悲さに落ち込み、時に号泣ながら、それでも開き直って取材に飛び込む経験を繰り返します。

 

望月さんの、失敗しても失敗しても実践的に、そして楽天的に自らを鍛えていく根性には、学ぶところが沢山あります。ある刑事部の捜査員から「頭がいいとか、どこの社とかじゃない。自分が新聞記者に情報を話すかどうかは、事の本質に関して、その記者がどれだけの情熱をもって本気で考えているかどうかだ」と言われた言葉が紹介されています。

 

新聞記者としての熱い思いをもち、日頃の地道な工夫でいろいろな人脈を作りながら取材し、しかもニュースソースを守って記事を書くという仕事の大変さと面白さを感じることが出来ます。

 

大手の新聞社でない東京新聞の記者だからこそのハンデと、逆にそれだからこそチームを組んでも少人数で何でもやらなければならない、時には社会部や政治部といった垣根を越えて仕事をするといった、色々な経験が出来るメリットもあるように思います。

 

後半で書かれている森友加計問題に関する話は有名なところですが、その裏側で起こっていた取材の攻防は読んでいても引き込まれてしまいます。前川前次官の出会い系バー通いを読売新聞が大見出しで記事にした出来事について、直接、前川さんに取材して真意を確認するあたりからして興味深い話です。

 

前川さんにインタビュー取材しながら、初めてその誠実な人柄に触れることが出来ます。前川さんの人間性に信頼を寄せるとともに、新聞記者としての自分の中に何かが燃え盛ってくる。「前川さんの思いに応えたい」という考えが、遂に菅官房長官の定例会見での「空気を読まない」矢継ぎ早の質問に繋がっていくのです。

 

映画や小説の話ではないので、そこで終わりにはなりません。権力は陰に陽に圧力をかけ続けているようです。公安警察を使った監視や、新聞社への脅しの電話など・・・。でも一方で読者や他紙を含む記者仲間からの応援もあります。

 

望月さんは最後にこう締めくくっています。「私は特別なことはしていない。権力者が隠したいと思うことを明るみに出す。そのために、情熱をもって取材対象にあたる。記者として持ち続けて来たテーマは変わらない。これからもおかしいと感じたことに対して質問を繰り返し、相手にしつこいと言われ、嫌悪感を覚えられても食い下がって、ジグソーパズルのようにひとつずつ疑問を埋めて行きたい」

 

どんな仕事でもそうですが「特別なことはしていない・・・」これこそが使命感を自覚したその道のプロとしての言葉だろうと思うのです。